神王

第109話 神王-01

俺達はフツヌシから、ヘヴ軍侵攻から今までに起きた事を聞き出した。


「なるほど、そういう事だったのか。完全に信じる訳には行かないが矛盾は無さそうだな。」

「怒らないのですか?」

「巻き込まれた当事者としては、そういう気持ちはある。だが、転移させられたおかげでいい事もあったからな。それに、お前が任務遂行の為に最善を尽くした事は理解できる。」

「ありがとうございます。ところで、我々に協力はしてもらえますか?」

「お前が嘘をついていたら保証できないが、協力するつもりはある。」

「この星で粘った甲斐がありました。」

「ところで、次にここに誰か来るのはいつだ?」

「わたしが呼び出さない限り、満月の夜に今巫女が非常用保存食を取りに来るだけです。例外として不定期に魔法覚醒処理がありますが、当分はその予定はありません。」

「そうか。じゃあ今日の深夜に覚醒者全員を呼び出してもらおう。0時開始だ。」

「分かりました。」

「あぁ、それと、ヘヴ星の言語ファイルはあるか?」

「すぐに情報インストール可能です。」

「いや、洗脳されちゃたまらんから、テキストファイルでくれ。」


キットに目配せすると、スメラで一般的なリムーバブルメディアをポートに差し込んでくれた。


「その気なら15年前に洗脳している筈ですよ?」

「念には念をだ。急いでる訳じゃないから、スメラの方でコンバートするさ。」

「用心深いですね。分かりました、夜にはお渡しできます。」

「じゃあ、俺達は一旦ここから出る。23時までには戻ってくるつもりだ。」

「お待ちしています。」


俺達は拡張視野で偵察してから洞窟の外に転移した。


「これからどうしますか?」

「とりあえず宇都宮に戻る。昼飯を食ってから方針を考えるつもりだ。」

「何か作りましょうか?」

「いや、時間がもったいないからケン王のダブルで済ませる。」

「栄養が偏りますよ?」

「じゃあ、ケン王と我の塩で。」

「コウ・・・」

「この15年間、無性にジャンクを食いたくなっても我慢するしかなかったんだ。たまにはいいだろ?」

「しょうがないですねぇ。」


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その日の深夜、洞窟の広場には神代三家の覚醒者全員が集まっていた。

神命が発せられたのだから、深夜であろうと欠席者は一人も居ない。

全身にチューブが繋がれた危篤状態の老人までベットごと運び込まれているのはやり過ぎのような気もするが・・・


そして0時になり、今巫女が前に出て凛とした声を発した。

ちなみに、現在の今巫女は15年前に洞窟にいた継巫女である。


「神託を授かりました。」


皆が平伏した。


「15年前、我ら神の眷属が一員、山王光齎を神の国へと送り届けました。その後、彼の地で神の力に目覚め、遂にはその強大な力で神の国の王とお成りあそばされました。」


どよめきが広がった。


「そして恐れ多くも、その神王がこの地に顕現されたのです。」


更にどよめきが大きくなった。


「神王のお成りです。」


今巫女は帝の隣で平伏した。


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『神王ですか・・・』

『仕方ないだろ?下手に洗脳を解いたらえらい事になるって話だし。一応、大統領なんだから、そんなに間違ってないだろ・・・』

『洗脳はどうするつもりですか?』

『今の代までは諦める。次の世代から変更だ。』

『なるほど・・・あ、呼ばれましたよ。』

『じゃあ、行くか。』

『はい。』


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広場に着くと皆が平伏していた。

あまりいい気持ちはしないが、腹を決めて乗り切るしか無いだろう。


「神王である。」

「ははぁーーーーーー。」

「永き時を我が配下であるナギ、ナミへの信仰に捧げた事、大儀であった。」

「もったいのうございます。」

「さて、これからの事であるが、そなたらは独り立ちをせねばならん。」


広場に動揺が広がった。


「よって、そなたらの子達には神の実在を伝えてはならぬ。これからは神への忠誠ではなく、そなたらの徳の為にその力を振るうがいい。これは神王命である。異議のある者は申し出よ!」

「め、滅相もございません。謹んでご下命を賜ります。」


全員が平伏しながら額を地面に擦り付けた。

胃が痛くなってきた・・・


「もう一つ神王命を下す。」

「ははぁ、何なりとお命じ下さい。」

「明朝より、かつてと同じように我を人である山王光齎として遇せよ。無論、我が神王である事は他言無用だ。」

「そ、それは・・・」

「神王命が聞けぬ、と申すか?」

「は、ははぁーーーーーー。」

「ではもう帰るが良い。明朝からの事、ゆめゆめ忘れるなよ。」


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「何とかなりましたね。」

「胃に穴が開くところだったぞ。」

「明日からの神代三家の皆さんに比べればマシでしょう。」

「ま、そこは我慢してもらおう。」

「ところで、フツヌシ。」

「情報インストールの内容変更ですか?」

「あぁ、さっきの内容に従って変更してくれ。」

「分かりました。やはり”安全装置”は掛けておくのですね。」

「さすがに野放しには出来ない。ただ、内心の自由は侵したくなかったから、徳という曖昧な基準で縛る事にはしたが。」

「あまり自由度を高くすると地星が滅亡するかもしれませんよ?」

「なんだ?地星を心配してくれているのか?」

「いえ、合流までの残り時間から考えると新たな戦力は期待できませんから、地星の未来はもうどうでもいいです。」

「正直だな。じゃあ、なんでだ?」

「あなたに逆恨みされて揉めたくはないので確認しました。」

「なるほどな。もし滅亡してもそれは俺の責任だから心配するな。じゃあ、俺達は帰る。」

「ではわたしはデータの作成に着手します。」

「頼む。キット、帰るぞ。」

「はい。」


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宇都宮の隠れ家に戻って来た。

小腹が空いたが既に深夜なので、この辺りではコンビニくらいしか営業していない。

買いに行こうか迷ったが、残り物で何とかしよう。


「キット、小腹が空いた。余り物で何かすぐに作れるか?無かったら我の塩を頼む。」

「御飯を冷凍保存していますので、おにぎりならすぐ作れます。」

「じゃあ、それで頼む。俺は紅丸の様子を見て来る。」

「はい。」


紅丸を閉じ込めた部屋に入った。

そこには変わり果てた姿があった。


いや、別に死んでいた訳では無い。

落ち武者ヘアーで泣き崩れている紅丸が居るだけだ。


「隊長・・・勘弁して下さい・・・」

「ずいぶんやつれたな。」

「何ですか、あの戦闘糧食は・・・」

「完全栄養食だぞ?蛇や虫を食う訓練をしてる特務隊員には楽勝だろ?」

「芋虫の方が百倍、いえ、百万倍マシですよ!」

「まぁ、確かに不味いよな。」

「おまけに食える虫でもいないかと畳をめくったら、いきなり撃たれるし・・・」

「あぁ、紛らわしい行動をしちまって自動攻撃されたんだな。」

「どこから攻撃されたのか分からなかったですよ・・・あれは何ですか?」

「秘密だ。」

「やっぱりそうですか・・・ところで、なんか変な髪形になってそうなんですが・・・」

「完璧な落ち武者ヘアーだな。」

「えぇっ!」

「安心しろ、毛根までは焼けていない・・・はず?」

「その間と疑問形はなんなんですかっ!」

「一週間もすれば確認できるはずだ。それより解放してやるから感謝しろ。」

「えっ!」

「俺の事は指示が出るまで誰にも喋るな。喋ったら次は毛根直撃だ。」

「わ、分かりましたよ・・・」

「ペットボトルを忘れるなよ。」


俺と連れ立って部屋を出た紅丸はダイニングルームで目を輝かせた。


「隊長!もしかしてこの握り飯・・・」

「間違いなく俺の夜食だ。ほれ、とっとと帰れ。」

「うぅ・・・」


紅丸は肩を落とし、ペットボトルを抱えながらとぼとぼと出て行った。


「口封じに始末しないのですか?」

「元部下だしな。俺が生きてた事は近い内に皆分かるだろうから勘弁してやるよ。」

「ずいぶん優しくなりましたね。」

「もし許可出す前に誰かに喋ったら殺すけどな。」

「その時はお任せください。あ、おにぎりどうぞ。」

「美味そうだな。」

「これからどうされるのですか?」

「食ったら今日はもう寝る。明日は親父のとこに顔出してからキューさんに会う予定だ。」

「分かりました。」

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