第74話 駄神-04

「ギガ、ちょっといいかな?」

「はい、何なりとお申し付けください。」

「それがさ、西の方にオズペタってあるだろ。」

「大国にございます。」

「あそこがさ、ここ攻めるみたいなんだ、10万人で。」

「そ、そんな・・・」

「ま、何とかなるだろ。ちょっと知らせてきてくれるかな?」

「承知いたしました。」


ギガが青い顔をして大急ぎで出て行った。


「なぁ、なんでここまでしか話さないんだ?」

「こちらが差し伸べる手を握ってもらう為には、相手が追い込まれている方が確実でしょう?」

「なんだか腹黒いな・・・」

「スメラの血が途絶えてしまうのは心苦しいですからね。その為なら、わたしは共犯になるのは厭いませんよ。」

「そっか、ありがとう。」


やはりアホだな。

いいように乗せられて感謝までしている。

まぁ、これで”やっぱり止める”などと言い出す事は無いだろう。

しかし、優柔不断なカスなので心変わりするかもしれないから、念の為にも今日中に処置してしまうべきだな。


「既にほとんどの準備は出来ていますから、了承が得られたら夕食の後にでも処置しましょう。」

「そっか、準備がいいな。」

「後もう一つ提案があるのですが。」

「何かな?」

「この地で数年間観察した結果なのですが、やはりこの地方は争い事が多いです。しかも負けた方は皆殺しに近い処遇になります。」

「そうみたいだね。」

「ですから、この国をもっと安全な土地に移す方が良いと思います。」

「それは・・・ちょっと大掛かりすぎない?魔法さえ使えれば安全は確保できるんだし。」

「確かに安全でしょう。ただ、スメラの血を継ぐ子孫たちが血みどろの戦いを続ける事になります。それよりはいっその事、安全な土地に移住するべきかと。」

「そんな都合のいい場所ってあるかなぁ?」

「ありますよ。スメラで言うところのキョウです。」

「あぁ、なるほど。海に囲まれてるし、森も水も豊富で危険な動物も少ないね。」

「穏やかに暮らすにはいい場所でしょう。」


もちろん、原住民の生活を心配している訳ではない。

実証試験の為に遺伝子をばらまかせるのが目的だ。


「でも、ここからだと遠くない?」

「そうですね。いきなり移動すれば環境の変化で体に不調を来すでしょう。」

「じゃあ、魔法で移動は難しいか・・・」

「ですから、時間を掛けてゆっくり移動してもらえばいいでしょう。」

「あの距離を徒歩で移動っていうのも危険じゃない?」

「この艦の設備を活用すれば問題ありません。」

「そうなの?」


後は自信満々に断言すれば落とせる。


「はい、数えきれないほどのシミュレーションをしましたが、確実に安全に辿り着けます。」

「そ、そうか。」

「スメラの血を引く子孫たちが穏やかに暮らせるように万全を尽くしますよ。具体的なプランはオズペタ戦までにまとめておきます。」

「よろしく頼む。」


ちょろいものだ。

どうやらギガが戻って来たようだ。


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想定通り、ギガが慌てて戻って来た。


「神様、お伺いしたい事がございます。」

「どうしたんだい?」

「オズペタに勝つ事は難しゅうございます。そこで遷宮を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「いや、逃げなくても倒せばいいよ。」

「恐れながら申し上げます。我らの力では倒すこと能わず・・・」

「できるよ。そろそろ三人を覚醒させようと思ってたからね。」

「覚醒・・・でございますか?」

「えーと、君達三人に神の力を与えるって事だよ。」

「か、か、か、神の・・・力でございますか?」

「10万程度ならサン一人で簡単に倒せるようになるよ。ナミはオズペタごと倒せって言ってたけど、必要以上に恨まれても嫌だから止めておくよ。」

「それ程の力なのでございますか・・・神の力は・・・」

「残念ながら君達のレベルだとそれ位しか出来ないけどね。僕達ならオズペタ国を一瞬で溶岩の海にできるよ。」

「なんと・・・」


ギガが呆然としている。

まぁ、核兵器どころか火薬すら知らない原始人にとっては、まさに神話のような力なのだろうな。


「あとさ、覚醒させる代わりに僕達の遺伝子を組み込ませて欲しいんだ。」

「イデンシ・・・でございますか?」

「えっと、まぁ、この時代の言葉で一番近い表現だと”血”かな?君達に僕達の血を入れたいんだ。」

「わたくし達に神の血を与えて下さるのですか!有り難き幸せにございます!」


やはり事前のリサーチ通り、忌避するどころか大喜びしている状態だ。


「よかった。じゃあ今日の夕食のあとにやってしまおう。」

「承知いたしました。」

「何か質問はあるかな?」

「畏れながら、浅学なわたくしどもでは神の力での戦い方が想像もできません。神の英知を授けてはいただけないでしょうか?」

「そうだな・・・10万ならバリアを張っておけばサンだけですぐ倒せるだろうし、ウンには敵が逃げられないようにバリアでも張ってもらおう。ギガは街にバリアを張って防御してもらえばいいかな。」

「ばりあ・・・でございますか?」

「あぁ、結界って言う方がいいか。結界の張り方は自然に分かるようにしておくから、安心していいよ。」

「ははぁ、ありがとうございます。」

「それで、戦争が終わって落ち着いたら、ちょっと頼みたい事があるんだ。」

「何なりとお申し付けください。」

「かなり時間が掛かる事なんだけどね、終わってから言うよ。じゃあ、またみんなに伝えて来てくれるかな?」

「承知いたしました。」


順調に事が進んだな。

あとは幾つか引きニートチェリーに承認させれば完了だ。


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「上手く行きましたね。」

「そうだな。」

「ではいくつか承認して頂きたい事があります。」

「どんな内容だ?」


「まず、彼らへの貸与品についてです。」

「キョウまで移動する時の?」

「そうです。彼らが困ったときの為に通信機を貸与したいと思います。」

「そうだね、それは必要だろうからいいよ。」

「次に、適切な医薬品も必要になります。」

「だけど、いくらスメラ製でも有効期限が切れるんじゃない?」

「えぇ、ですから汎用工作機の1台を貸与したいと思います。スメラの血を継ぐ者が伝染病で全滅という事態を避ける為にはやむを得ないと考えます。」

「うっ・・・そうだね。それも貸与しよう。」


悲惨なイメージを浮かべさせて情に訴えれば容易いものだ。

相変わらず操りやすい。


「そして、この時代の栄養状態ですと妊婦や乳幼児の死亡率は非常に高く、食料事情の良好なこの国でさえ死亡率は二桁台前半です。」

「そうだよな・・・」

「ですから、非常用保存食の自動生産装置も貸与したいと思います。栄養は完璧ですから、妊婦と乳幼児に摂取させれば医薬品の効果と併せて死亡率は劇的に改善する筈です。」

「あ、あれならいくらでも貸与していいよ。僕達には要らないから。でも、あんなもの食べてくれるかな?」

「神からの命令なら従うでしょう。」

「うーん、何世代も言う事聞いてくれるかなぁ?」

「そうですね。そこは不安が残りますね。」


想定通り上手く仕込めた。


「あとは情報インストール装置の貸与です。魔法覚醒装置も兼ねていますから、これは必須と考えます。」

「あれは厳重な管理が必要だけど、無いと覚醒できないしなぁ・・・うーん・・・」

「この星の文明レベルなら悪用される心配はありません。魔法使いが居れば奪われる心配もありませんし、わたしが常時モニターしておきますから厳重な管理下にあると見做していいでしょう。」

「うーん・・・」

「いざとなれば、お二人にお願いしますよ。あなた方の力なら安心できます。」

「そうだな!分かった、貸与しよう。」


ちょっとプライドをくすぐってやれば、ちょろいものだ。


「貸与品に関しては以上です。」

「他にもあるのか?」

「はい。情報インストールの内容変更についてです。」

「どこか変えるのか?」

「現在の設定のままですと、この星の文明レベルとかけ離れており、非常に不自然です。」

「そうだな。石器時代にスメラの最先端の知識まであるっていうのは変だな・・・」

「ですから、制限を掛けようと思います。当面は自衛に必要な古典力学系の魔法だけ覚醒時から自動的に使えるようにしておけば十分でしょう。あとは他者を無分別に覚醒させないように、共鳴波の常時キャンセル魔法も自動発動させる方がいいでしょう。」

「それ以外はインストールしないのか?」

「いえ、簡単なロックを掛けておこうと考えています。」

「ロック?」

「はい。自力あるいは外部から知識を得た場合、該当する情報のロックが外れるようにします。そうしておけば、知識を得る努力さえしていれば、この星の最先端の科学技術レベルと同水準になる筈です。」

「なるほど。そのやり方でいいと思うよ。これだけかな?」


いよいよ本題だな。


「追加したい項目があります。」

「なんだい?」

「神への信仰です。」

「は?」

「キョウへの旅はかなり大変なものとなるでしょう。ですので、心の拠り所として神への信仰を絶やさない事が必要と判断しました。」

「で、でもさ、その神って僕達の事だろ?」

「そうです。ですが、そうでは無いとも言えます。」

「どういう事だ?」

「お二人はこの地で非常に善き神として在りました。そのおかげで、国は栄え民は豊かになりました。」

「う、うん。」


引きニートは気まずそうな表情を浮かべている。

ほとんど何の役にも立っていなかった自覚はあるのだろう。


「ですので、この国の民にとって神への信仰は非常に大きな心の拠り所になっています。」

「でもさ、それは本当の僕達の事を知らないからだろ?」

「えぇ、ですから、神とはお二人の事であって、お二人の事ではないのです。」

「つまり・・・神っていうのは僕達が演じている神っていう事かい?」


当たり前だ。

自制できず深酒しすぎて二日酔いになる引きニートが神な訳なかろう。


「そういう事です。ですから、あまり気にしなくていいと思いますよ。」

「うーん・・・」

「それに、ある程度の強制力はあった方がいいと思います。先ほど、非常用保存食を食べ続けてくれるかという懸念がありましたが、神への信仰があれば大丈夫でしょう。」

「あれを食べろって命令するのか・・・」

「子供が嫌がっても苦い薬を飲ませるのが本当の愛情ですよ。洗脳して無理矢理食べさせるのとは違って、神への信仰からなら喜んで食べるでしょうから、その方が幸せです。」

「しょうがないのかな・・・」

「もちろん、必要ならこの項目はすぐに削除しますから、安心して下さい。」

「そうか・・・分かったよ。承認しよう。」

「ありがとうございます。」


これで神の名のもとに命令すれば思いのままだ。

可能性は極めて低いが、戦力足り得る者が産まれた時に扱いやすくなる。

もちろん、必要なら削除すると言ったのは嘘では無い。

必要とは”必ず要る”という意味だ。

つまり、権限を持つ者から明確な命令でも出ない限り、削除はしないという事だ。


「承認して頂きたい件は以上です。ありがとうございました。」

「あっ!でも・・・」

「なんでしょうか?」

「お年寄りとかその面倒見る人とかさ、ここから動けない人たちもいるだろ?またどこかが攻めてきたらどうするんだ?」


ちっ、余計な事に気付きやがった。

黙って見捨てるつもりだったが止むを得ないな。

ちょっとは自分で考えさせるか。


「さすが慈悲深い神ですね。そういう方達の事は失念していました。どうしましょう?」

「えっと・・・どうしよう・・・」

「ふわぁーーーあ・・・おはよう。どしたの?」


引きニートがまた一匹増えたか。


「あ、ナミ!実はさ・・・」


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「じゃあさ、こっちにも魔法使いが残ればいいじゃん。」

「なるほど!フツ、情報インストール装置のコピーは作れるか?」

「複製は厳重に禁止されていますよ?」

「あ、そっか。」

「じゃあ、覚醒装置だけ作れば・・・」

「教科書でも作りますか?」

「そうか・・・情報インストールできないから、物理法則を自分で学習しないと駄目か・・・」

「簡単だよ!」


アホの思いつきほど厄介なものは無い。

何とか回避しないとな。


「いいアイデアが浮かんだのか?」

「MSも置いて行けばいいんだよ!」

「あぁ、そうか!あれなら覚醒さえしてれば、使えるもんな!」

「でしょでしょ!あたしって頭いいーーーっ!」

「しかし、あんな兵器を置いて行くのは・・・」

「駄目、決定!これは命令よ?異論は許さないから。」

「うん、命令だ。準備をしておくように。」

「・・・了解しました。」


無能な上官とはこれほど厄介なものか・・・

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