第73話 駄神-03
この星に降下してから数年の時が流れた。
そろそろ二人には、再びコールドスリープに入ってもらわなければならない。
神として振る舞わせておけば多少はマシになるかと思ったが、生まれついてのアホは一生アホのままのようだ。
知識の伝達はわたしが行っているので、アホガキ二人は呑んで食って寝るだけの引きニートと化している。
幸い、西の方がきな臭くなってきたようだ。
これを利用して計画を進めよう。
「おはようございます。」
「ふわあああああああ・・・おはよう。」
「うーーー、頭痛い・・・」
引きニートどもは昨日も深酒をしたらしい。
「戦争になるみたいですよ。」
「え?どこが?」
「せんそうはんたーーーい!らぶあんどぴーすーーー!」
「西方の大国オズペタが、この地に向けて10万の大軍を侵攻させるようです。」
「えっ!なんで?」
「うちら何もしてないじゃーん!」
「えぇ、何もしていないからこそですよ。大国にとっては無防備な美味しい餌です。」
そう、正に何もしていない。
この短期間で異常な経済成長を遂げて豊かになったにも関わらず、だ。
この時代のハイテク技術である鉄器や、驚異的な治癒力を見せる医療技術、遠方から客が来る程の美味い料理や酒が手の届くところにぶら下げられている。
しかも小国で軍事力は1,000名程度だ。
どこかの大国の庇護下にある訳でもない。
経済力で周辺国との友好関係を築こうとしてはいるが、軍事同盟を結んでいる訳ではない。
実際には超強力な戦略兵器の引きニートが存在するが、その力を対外的に見せつけた事は無い。
これで攻め込むなという方がどうかしている。
「話し合いで解決できないかな?」
「おそらく無理でしょう。少なくとも使者をよこす事もせずに軍事行動ですから。それに、話し合うにしても、こちらからどのような提案をするつもりですか?」
「うっ・・・屈辱的だけど、毎年税金を納めるとか・・・」
「オズペタ国にとって何もメリットがありませんね。戦争に勝てば、全ての技術を奪い取り、女子供は奴隷にして、動ける男は最前線で使い捨てにする兵士にできます。赤ん坊や老人は飢え死にしようが見捨てればいいのですから。」
「ひどーい!やっつけちゃおうよ!」
「いや、でも、本当にそんな酷い事するのか?」
「ここ数年の間にも他の地域で極めて普通に行われていますよ。」
少なくとも今現在この地では、正義は力であり、倫理は弱肉強食だ。
温室育ちの引きニートには実感が湧かないだろうが。
「そうか・・・戦うしかないのか・・・」
「はい、完膚なきまでに叩き潰す必要があります。」
「いや、もっと穏便に・・・」
「無理です。最前線の使い捨ての兵など死ぬまで突撃させられます。じわじわ殺すより一撃で殺してやる方がいいでしょう。」
「うっ・・・」
「それに、力を見せつけないと何度でも攻めてきますよ?大国であればある程、面子が重要ですから次は100万の軍勢が来るかもしれません。」
「もうオズペタごと滅ぼしちゃえ!」
「おいおい、過激な事を言うなよ。無益な殺生は止めておくべきだ。」
「でもさー、全滅させなきゃ安心できないじゃん?」
「無用な恨みを買ってもつまらないだろ?平和条約でも結んでそれで終わりにしよう。」
「むぅ・・・めんどくさいなぁ。じゃあ、それでいいよ。でも何かあってもあたしは手伝わないからねー!後はよろしくー!」
この時代なら、ナミの方が正しいだろう。
しかし、勇ましい事を言ってはいるが、この引きニートどもに任せるわけには行かない。
どうせ、いざ殺すとなったら出来ないに決まっている。
その覚悟と度胸があるのは原住民の方だ。
「ところで、今回の戦争はあの三人にやってもらおうと思います。」
「え?でも、まだ子供だし、三人で10万は・・・」
「いえ、そろそろ覚醒させるタイミングでしょう。たしかスメラでは15歳で覚醒させるのですよね?」
「確かにそうだけど・・・子供に人殺しをさせるのは・・・」
「15歳になればもう成人です。それに、ここは彼らの国です。彼ら自身が守らなければならないのです。特にサンは軍人です。とっくに覚悟はできているでしょう。」
「分かったよ・・・」
やはり楽な道を示してやれば、簡単にそちらに流れるな。
自分が殺すのは嫌だとはっきり表情に出ていた。
それに、さっさとコールドスリープに放り込みたいのだから、主戦力になられては困る。
「三人の覚醒はこの艦の装置で行いますか?」
「それでいいと思う。」
「あとは魔法覚醒させる代償ですが・・・」
「代償?」
「はい。スメラの血をこの星に残してはどうかと。」
「え?え?え?そんな・・・子供とか・・・え?・・・でも・・・」
さすが引きニートチェリーだ。
子供を作る事は可能だろうが、わたしの目的はそんな事ではない。
遺伝子構造が同じと言っても、やはり別の星だけあってこの引きニート達の遺伝子は原住民と比べると特徴的なので、上手く使えばマーカーとして利用できる。
そもそも、この地に降下したのは魔法気配が多くそれが遺伝による可能性があったからだ。
マーカーを付けておけば追跡調査も楽になるはずだ。
「いえ、子作りをする必要はありません。しても構いませんが。」
「え、あ、そう・・・なの?」
年齢相応の性欲はあるのだろう。
ほっとすると同時に残念そうな表情を浮かべている。
「経口投与のナノマシンを使用します。ウンとサンにはあなたのY染色体、ギガにはナミさんのミトコンドリアだけ生殖細胞に組み込む形です。」
「えっと、確か代々受け継がれていくものだったかな?」
「はい。Y染色体は男性特有ですから父親から息子に受け継がれます。またミトコンドリアは母親のものが子に受け継がれます。」
「そうそう、そんなのだった。」
「ですから、ウンとサンに男系、ギガに女系を維持するように命じておけば、スメラの血はこの星に根付く事ができます。」
「でも、そんな事していいのかなぁ?」
「なにもあなた達に似た子供が産まれる訳ではありません。ほんの少し間借りする代わりに魔法覚醒という大きなメリットを与えるのですから十分でしょう。わずかではありますが、スメラ人が存在した証を残しませんか?」
「そうだな・・・スメラの血・・・残したいよな・・・」
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