第75話 駄神-05

オズペタ軍との戦争は一方的な蹂躙に終わった。

低レベルとは言え、魔法使いであればこの時代の兵など虫けらに等しいのだから当然の結末だ。

もっとも、アダマント製の剣が無ければあれ程早く倒すのは無理だっただろう。

鉄剣では10万の兵を鎧ごと叩き切るのは不可能なので、撲殺する羽目になっていた筈だ。


なお、剣のような形状をしているが、解析した結果、徹甲榴散弾の一部である可能性が高いという結論になった。

天文学的な意味で近い宙域に知的生命体が存在していた証拠ではあるが、現在では人為的な電波が観測されていない事から考えて既に絶滅してしまった可能性が高い。

もちろん、念の為にこの星を発った後に探査する予定だ。




「よし、これで準備完了かな?」

「はい。予定していたものは全て終わりました。しかし、本当に置いて行くのですか?」

「もちろんだよ。平和条約は結んだけど、またいつ攻めて来るか分からないんだし。」


わたしは回線をリンクさせた作業用ロボットからの映像をモニターしている。

魔法で作り出した地下の空洞に50機分のMS格納庫が並べられているのが見えた。

オリハルコン製なので、相当なレベルまで文明が進まない限りは発見されても開封されるリスクは無いだろう。

なお、電源は半減期の長い原子力電池を新たに製造して地下水脈に設置したので、数万年は起動可能な状態を維持できる筈だ。


「分かりました。使わずに済めばいいのですが。」

「うん、そうだね。条約を守ってくれる事を祈るよ。」


まるで分かっていない。

この星の人間というのは、他者よりも強い力を手に入れると自らの欲望の為に使いたくなる傾向が強いのだ。

キョウに移動させるグループのように情報インストール装置で洗脳できれば安全だが、複製厳禁である以上、それは望めない。

自衛以外の目的に使われる可能性も考えておくべきだろう。


「覚醒装置はこれかな?」

「はい、そうです。」

「ずいぶん小さいね。」

「覚醒だけに機能を絞っていますから。」


元々、この新型MSは魔法使いが所定の手順で起動すれば、操縦方法が情報インストールされるように設計されている。

スメラから脱出してから何世代も経って正規軍の訓練方法が途絶えてしまっていても使えるようにする為だ。

なお、汎用的な情報インストール装置と違い操縦方法だけしかインストールできないように設計されている事と、絶滅回避の為の非常手段という観点から特例的に情報インストール装置が軍の管轄下に置かれているらしい。

もっとも、原理的には同一のものなので密かに軍内部でも情報を抜き取り研究されていると思ってよいだろう。


「あれ?手順書はどこだろ?」

「その石板です。」

「えっ?こんなの?」

「紙に印刷すると劣化が避けられません。石板に刻み込めば半永久的に保存可能ですので、そうしました。」

「でも割れたりしないのかな?」

「見た目は石板ですが、実際はインフィニットファインセラミクスですので、戦車砲の直撃でも受けない限りは大丈夫です。」

「それなら安心だな。」


この星の科学技術が十分に発展してから石板を調べられるとオーパーツである事が判明してしまうが、MSをここに放置する事に比べれば大した事では無いだろう。


「あとは電源が壊れなければ大丈夫か・・・」

「100%の保証は出来ません。地下水脈が枯れるような開発をされたら、原子力電池は崩壊熱で自壊して発電を停止しますので。」

「この辺りを聖地にでも指定しておけば乱開発は防げるかな?でも、バックアップ手段も欲しいな・・・」

「一応、石板にガルバニ電池での対処法も記載しておきました。」

「ガルバニ電池って原始的な電池だっけ?」

「はい。素焼きの壺に銅板と鉄心と酢を入れて作るタイプのものを選びました。ただし、膨大な数が必要となります。」

「この文明レベルじゃしょうがないか・・・」

「人事は尽くしました。後は出入り口をカモフラージュして終了しましょう。」

「そうだな。出来る限りの事はしたよな。」


つまらない事に時間を使ってしまった。

さっさと移動してコールドスリープにぶち込もう。


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目的地に到着した。

ここなら、島内を統一すれば外敵に攻め込まれる心配は少ないだろう。

実に養殖に適している場所だ。


「お疲れ様です。」

「着いたね。」

「まだ何にも無いねぇ。」

「あまり発展していると、彼らの子孫が辿り着いた時に困りますから、ちょうどいいでしょう。」

「そうだね。これからコールドスリープかい?」

「いえ、この艦を隠す事と資源収集が必要です。」

「そっかー、ずっと浮いてるわけにもいかないよねー!」

「どこかいい場所はあるのか?」

「スメラでは島内で最も神聖な場所はどこでしたか?」

「キョウから南東に進んで海に当たる手前にイースエ神殿があったよ。」

「あー、あそこね。マホロバ最強のパワースポットって言われてたよ!」

「では、折角ですから、そこにしましょう。」

「そんなので決めていいのか?」

「魔法が使えるなら、島のどこでも大した距離ではありません。どうせなら、スメラと似た場所を聖地にすれば亡くなられた方々もお喜びになるでしょう。」

「フツ・・・お前いいやつだな。」

「見直したよー!」


ちょろすぎて怖いくらいだな。


「あとは資源収集ですが、精錬までできますか?」

「あんまり複雑なのは・・・」

「むりー!」


役立たずどもめ・・・


「では指定した座標から鉱石を集めて下さい。その後、何回か指定した温度に調整してもらえれば後は私の方で精錬しておきます。」

「分かった。それくらいなら出来るよ。」

「まっかせてー!」

「では、まず艦の隠し場所ですが・・・」


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全ての準備が終わり、引きニートどもはコールドスリープ状態になった。

やっと子守りから解放されたな。

後は原住民が遺伝子マーカーを各地にばら撒きながら、時間を掛けてこの地に辿り着けるように誘導しながら待つだけだ。


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彼らは順調に旅を続けている。

もちろん、わたしの目的は遺伝子をばら撒かせる事なので、ある程度進んだところで数世代定住させるよう指示している。


しかし、不思議な事が起こっていた。

ウン、サン、ギガの子孫達は全員が魔法使いとなり、しかも魔法レベルが飛躍的に向上したのだ。

もちろん、閣下の戦力となる程の者は皆無だが、明らかな差が見られるのだ。

当初はナギやナミの遺伝子を組み込んだ影響と判断していたが、次の地に向かう際に現地に残してきた子孫達は再び魔法レベル0になってしまっている。


あまりにも信じがたい現象であったので、彼らの感じ取る魔法レベルが狂っている可能性を考え、引きニートを起こす事にした。


「起きて下さい。」

「ん、んぅ・・・」


またか・・・


「起きて下さい。」

「ん・・・あ、おはよう。どうしたの?」

「実は調べてほしい事があります。」

「いいよ。あれ?ナミは?」

「お一人で十分ですから。」


ナギの方がほんの少しだけマシだからな。


「ふーん。何を調べるの?」

「魔法レベルの分布を調べてもらえますか?どうも異常な状況ですので。」


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「間違いないですか?」

「うん。この分布で間違いないよ。でも意外だね。・・・あれ?」

「どうしましたか?」

「あの国があったところがおかしいな・・・」

「そうですね。わたしたちが降下した前後は明らかに密度が高かったのですが、今では他の地域と変わりありません。」

「いつからこうなったんだ?」

「わたしには魔法気配が分かりませんから何とも・・・」

「そっか、そうだよな。」

「お手数をお掛けしました。それでは再びお休みください。」

「もし何か分かったら教えてくれ。」

「了解しました。」


本当はあの国は遥か昔に滅んでいる。

移動後の数十年で全員の魔法レベルが0になってしまったのだ。

数世代は国は存続していたのだが、衰退し始めたのを察知したオズペタが、もう神は居ないと判断してほぼ全員を虐殺している。

一部の者は逃げたようだが、魔法が使えない者に用は無い。

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