第69話 降臨-05

その後も神の加護により国は益々栄えた。

遠くの国との交易で手に入れた食材を用いた供物に、神も大変満足されているようだ。

しかし、繁栄は幸福と同時に脅威も呼び寄せる。


秋の収穫が終わり一息ついたある日、インの家にソンとガガ、それにウン、サンが慌ててやって来た。

ギガから緊急の神のお告げがあったと伝言が来たからだ。


「よし、揃ったな。」

「急ぎの用件と聞いたが、どうしたんだ?」

「では、ギガよ、神のお告げを教えてくれ。」

「はい。」


皆の視線がギガに集まる。

ギガは神のお言葉を伝える立場、即ち神の名代、という事になるので末席から上席に移動し、同時に皆は平伏した。


「西の大国、オズペタがこの国への侵攻を企んでいる。間も無く10万の兵の進軍が開始されるだろう。」


言い終わると、ギガは再び末席へと戻り、皆は体を起こした。

傍から見ると面倒極まりないが、普段は礼儀作法に無頓着なソンやサンですら神への敬意から当たり前の事として行っている。


「ううむ・・・まさかオズペタが・・・」

「しかし、10万か・・・厄介だな。」

「真の神を知らぬ異教徒が何と不敬な振舞いを・・・」

「ソンよ、勝ち目はあるか?」

「こちらの兵は10隊全部合わせて1,000人だ。引退してそれほど経っていない者と訓練中の者を入れても1,500には届かん。サンが采配を振るって守りに徹しても5万と対峙するのが限界だろう。サン、どうだ?」

「そんなとこだろうなぁ。それに守りに徹しても援軍が無けりゃいつかは破られるしな。ウンよ、どこか援軍を出してくれそうな国はあるか?」

「無理だと思うよ。遠くの国まで色々と援助はしているけど、オズペタと敵対してくれる程の恩義は感じていないみたいだし。それにサン配下の草が探った情報では、僕らの事を神を独り占めしているって裏では悪く言ってる国も多かっただろ?援軍を頼んだら逆に後ろから斬り付けられるかもしれない。せいぜい他の11支族から義勇兵を少し出してもらえるくらいだよ。」


圧倒的な戦力差と孤立無援の状態に皆が頭を抱える。


「困ったな・・・神をお連れしてこの地を去るにしても時間が無さすぎる。」

「長、習ったばかりのゲリラ戦っていうのを使えば多少の足止めはできると思う。」

「ゲリラ戦?なんだそりゃ?」

「現地人に成りすまして少人数で奇襲、待ち伏せ、夜襲をするんだよ。隊長とか食料とか大事な物を狙って攻撃したら、反撃される前にすぐに撤退するんだ。親父ならそんな攻撃されたらどうする?」

「そうだな・・・移動前の安全確認に時間をかけて、夜間の見張りにも人数を割かなきゃならんから休憩も増やすな。野営も兵站部隊を護れるような場所しか選べん。確かに進軍速度はがた落ちするが、卑怯ではないか?」

「相手は100倍の人数で攻めて来るんだぜ?」

「まぁ、その方が卑怯だが・・・」

「ただ、1つ問題があるらしいんだ。」

「何だ?」

「ゲリラにびびって、周りの住民を皆殺しにするかもしれないんだ。」


現代の地星では民間人に偽装して敵対行為をする便衣兵は国際法違反であり、捕虜としての待遇は受けられず処刑される。

これは、サンが言ったように民間人を巻き込んでしまうからだ。


「俺でも・・・そうするかも・・・いや、それ以外の手は無いな・・・」

「わたしは国長だ。他国の民を巻き添えにするのは心苦しいが、必要なら・・・」

「お待ちください。神はわたくし達と共にこの地を去っていただけるのでしょうか?」


言われてみればその通りだ。

まず神にお伺いを立てなければ、この地を去るかどうかなど決められない。

もし残ると仰るなら、異教から命懸けでお守りせねばならないのだ。


「そうだな、ギガよ、すぐにでもお伺いを立ててくれないか?」

「はい、それでは直ちに行って参ります。」


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ギガが出かけてから1時間ほどが過ぎた。

待っている間にウンから周辺諸国の力関係とそれに基づく外交方針や、サンから対オズペタ軍の戦術などを聞いていたが、どれも舌を巻くものだった。


「只今戻りました。」

「おぉ、戻って来たか。それで、何と仰っていた?」

「それが・・・」

「どうしたんだ?留まると仰ったのなら、俺の命などいくらでも捨てるぞ?」

「ではお伝えします・・・」


ギガは再び上席へと移動した。

皆は先ほどと同じく平伏している。


「ウン、サン、ギガに神の血と力を分け与える。」

「今宵、儀式を行うので三名は天の浮舟まで参れ。」

「ウンはオズペタ軍が逃げられぬように結界を張れ。」

「ギガは国に被害が出ないように結界を張れ。」

「サンは単独でオズペタ軍を殲滅せよ。」

「この戦の後、永き使命を与える。」


神の言葉を伝え終わるとギガは末席へと戻った。

皆は平伏したまま固まっている。


「あの・・・?」

「「「「「・・・はっ?」」」」」


あまりの事に理解が追い付いていなかったようだ。


「ギ、ギガ、神の血と力をあなた達に・・・ですか?」

「はい、確かにそう仰いました。夕餉の後に儀式を始められるそうです。」

「えっと・・・俺1人で10万の軍を倒せと?」

「はい。そのままオズペタ国も滅ぼすかどうか神様の間で意見が分かれたのですが、無用な恨みを買う事も無いだろうという事で、言う事を聞くなら10万だけで勘弁してあげようとなりました。」

「なぁ、ギガ・・・神様も冗談を仰るのか?」

「わたくしも最初はご冗談かと思ったのですが、出来て当然という事でした。」

「神の力とはそれほどのものなのか・・・」

「いえ、わたくし達では神の力を分けて頂いてもその程度しか出来ないそうです。真の神の力であれば、オズペタ全土を溶岩の海にするのに瞬き1つの時間もかからないと仰っていました。」

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


「と、ところで、ギガ、あなた達に与えられる永き使命とは何なのでしょう?」

「母様、それが・・・まだ教えては頂けないのです。」

「そうですか。ウン、サン、ギガ、たとえどのような使命であっても、神の眷属となるからには必ず成し遂げなければなりませんよ。」

「「「はい!」」」

「うふふ、いいお返事です。では、ギガ、今宵の儀式まで親子の最後の語らいをしてすごしましょう。」

「はい、母様。」

「そうだな。ウンはわたしの息子として立派な国長になると思っていたが、神の眷属ともなればもう息子として接する事はできないしな。時間まで語り合うか。」

「僕の父上は父上だけです。必ず立派に使命を果たして、さすがインの息子と言われるよう努めます!」

「じゃあ、俺達は飲むか!」

「しょうがねぇ親父だな。酔いつぶれるんじゃねぇぞ?」

「はっはっは!大丈夫に決まっておろう!」

「怪しいな・・・」

「怪しいですわ・・・」

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