第64話 離脱-03

事故から3日が経った。

修理はフツが全て自動で行ってくれるのだが、二人ともブリッジに来ている。


「ねぇ、あたしたちがここに居る必要ってあるの?」

「まぁ、一応、僕らがこの艦の責任者ってことになってるし、スメラ帰還後の航海日誌チェックでさぼってたのがばれたら拙いだろ?」

「そうなんだけどさぁ、意味の無い事するのって嫌いなんだよねぇ・・・」

「僕達は軍人なんだし仕方な・・・」


艦内警報が鳴り響いた。

この前とは違う種類の警報だった。


「これはひょっとして・・・」

「なんだっけ?」

「第五種非常警報です。スメラ星全体が大規模な攻撃を受けている状態です。これは訓練ではありません。」

「まさかもうヘヴ軍が来たのか?」

「えっ!早いよ!」

「ヘヴ軍の可能性が一番高いでしょう。しかし警報を受信した段階ですので詳細は分かりません。」


僕達は固唾を飲んで続報を聞き続けた。

やはりヘヴ軍が奇襲を仕掛けて来たらしい。

為す術も無くスメラ軍、いや、スメラ星が壊滅させられていく。


「ちょっと!何してるの!早く助けに戻らないと!」

「落ち着いて下さい。現在受信しているのは1日半前にスメラから発せられた電波です。」

「じゃあ、もうスメラ星は・・・」

「戦力差を考えれば数時間ももたないでしょう。既に壊滅している筈です。」


やがて僻地の限界集落すら完全に破壊され、残るは大陸中央の司令部のみとなった。

民間人まで含めた全ての魔法使いを動員して直径1000kmを超えるバリアアレイを構築しているが、もちろん攻撃を防げているわけではなく、直撃箇所以外への被害拡大を抑える程度の効果しか無い状態だ。

この圧倒的な戦力差を目の当たりにして、政府首脳は全面的な無条件降伏を申し出ているが完全に無視されている。


『全ての者に告げる!』

「あれ?お母さん?」

「そう・・・だよな?」

「恐らく、非常対策会議に出席していた将官も含めて政府機能が壊滅したのでしょう。その場合には魔法憲兵隊が指揮を執る事になっています。」


『遺憾ながら戦力差は圧倒的だ。例え万全の状態で迎え撃ったとしても勝つことは不可能だっただろう。逃げられるものは逃げ、隠れられるものは隠れて欲しい。決して戦おうとするな。僅かでも可能性があるなら生き延びて、いつの日かスメラ文明を再興せよ!では諸君らの検討を祈・・・』


それきり通信は途絶えた。


「お母さん・・・助けに行かないと・・・」

「ナミ、しっかりしろ!フツ、瞬間移動でスメラ星に戻れるか?」

「司令部からの命令に背く事になりますから戻ることは出来ません。」

「いいから戻ってよ!」

「せめて生き残った人を連れて逃げられないのか?」

「お二人が戻ったところで、嬲り殺しに会うだけです。確かにお二人の魔法レベルはヘヴ軍軍団長クラスですが、魔法戦闘技術は全く及びません。先ほどのイサ大佐のお言葉はあなた方へ届く事を願った母親の最期の言葉でもあるのでしょう。」


今更、本当に今更だが、母さんに言われていた通りだ。

”パワーだけで戦っては駄目だ!同格と戦ったら瞬殺されるよ!”

何度もそう言われていたのに、ヘヴ軍侵攻なんて遠い未来の事だと勝手に信じて・・・


「シェルター!シェルターに瞬間移動してナホ達だけでも乗艦させてすぐにまた瞬間移動すれば!」

「そうだ!あそこなら完全ステルス化されてるし、魔法気配遮断をしておけば・・・」

「仮にシェルターが無事だったとしても、それは止めておく方がいいでしょう。」

「なんで?なんでなのよぉ・・・」

「そうか・・・遮断が効かないのか・・・」


そうだ、魔法気配遮断はレベル差が大きい時だけ有効なんだった。

スメラでは僕達の魔法気配遮断を見破れる者がいなかったので忘れていた。

ヘヴ軍軍団長が同等レベルなら魔法気配遮断をしても効果は無い。


「はい、軍団長には転移直後に察知されてしまいます。そうなった場合、救出中にシェルターごと全滅させられるでしょう。」

「そんな・・・」

「シェルターが壊滅していた場合は行っても犬死に、壊滅していなかった場合は巻き込んで死なせてしまう・・・という事か?」

「その通りです。この艦もいつまでもここに居ては攻撃を受ける可能性があります。最後のデータを受信した後に適当な座標に瞬間移動しなければならないでしょう。」

「最後のデータ?」

「ヘヴ軍に発見されていなければ、外惑星の衛星軌道に投入した観測機が戦闘映像を圧縮して送信しているはずです。無事ならばあと5分ほどで受信するはずです。」

「まさか、ヘヴ軍の侵攻を予測していたのか?」

「そういう訳ではありません。ただ、いつ起きてもおかしくないとルキフェル隊長から警告は出されていました。わたしはそれに従って万全の準備をしていただけです。」

「「・・・・・・・・・」」


言外に責められているような気がする。


「受信後はランダム宙域に瞬間移動するという事でよろしいですか?」

「あぁ・・・」

「うん・・・」


今となっては僕達がスメラ星に対してできる事は少ない・・・いや、無い。

ナホ達の無事を祈りながらそっとしておく事と、僕達だけでスメラ再興の手段を構築する事くらいだ。

もっと真剣にヘヴ軍の脅威を捉えておけば・・・

もっと真剣に魔法戦闘技術を磨いておけば・・・

後悔先に立たずという言葉を嫌と言う程痛感した。


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やがてスメラ星からの最後のデータが送られて来た。

フツは既にランダムに選んだ宙域への瞬間移動の準備を終えていたので、受信完了と同時に瞬間移動を行った。

今はスメラから遠く離れた銀河団網目構造の隙間部分を漂っている状態だ。


「それでは戦闘記録をご覧になりますか?」

「うん・・・」

「あぁ、敵の戦力がどれ程のものか見ておかないとな・・・」


外惑星からの望遠映像なので局地的な戦闘までは見えないが、キノコ雲は見える。

大きなものは成層圏上部まで達しているが、それくらいの威力は僕達なら簡単に出せる。

問題は数だ。


「なにこれ・・・」

「いったいいくつのキノコ雲があるんだ・・・」

「初激で大きなキノコ雲が約1,000、小さなものが約100万でしょう。」

「画像解析の結果?」

「はい、片側の面からの推計です。明らかに過剰戦力ですが、1個軍団を派遣して蹂躙したのでしょう。」


ルキフェル軍の情報によると、ヘヴ軍は現在7個軍団で編制されている。

彼らの言うところの神に直接拝謁できる者がルキフェル以外に7名居り、それぞれが軍団長として任命されているらしい。

その軍団長の下に1,000名の隊長が居て、各々1,000名の兵を擁している。


「これが全力だとすると僕達でも時間を掛ければ倒せるはずだけど・・・」

「司令官っていうのがヤバいんでしょ?」

「あなた方と魔法レベルは同じですが、魔法戦闘技術は達人クラスです。もうすぐその片鱗が映るはずです。」


格闘技の達人と、体力だけは同じくらいの素人二人が戦えば結果は見えている。

どれくらいの達人なのか見逃さないようにモニターを見ていると、信じられない光景が映った。

惑星レベルの巨大な光の刃が現れ、地殻を切り取ったのだ。

そして司令部を中心とした直径2,000kmほどの地面が宇宙空間へと放り出された。

飛ばされた方向はソルだった。


「こんな事ができるなんて・・・」

「バリアの意味が無かったって事か・・・」

「しかし、あなた方と魔法レベルは同等ですので、訓練を積めば出来るはずです。」

「あっ!あぁ・・・シェルターが・・・」

「シェルターがどうしたん・・・フツ、シェルターの座標を表示してくれ!」

「了解しました。」


モニターを凝視した。

切り取られた場所は白熱しており場所の特定は簡単だった。

そして、大地の白熱したエリア内にシェルターの座標が表示されていた。


「まさか・・・そんな・・・ナホ・・・」

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