遺跡
第11話 遺跡-01
ふぅ、この直後に転移されたんだよな。
あの妙な装置が原因で、変な夢を見ているというのが一番しっくり来るが、転移後の記憶には夢特有の曖昧さや突飛さが無い。
それに夢だと思い込んで何もしないでいると、いざ現実だった場合に取り返しがつかなくなる。
特に食料問題は差し迫った危機だ。
なにかは分からないが、きっと原因はあの地下施設にあるんだろうな。
しかし、帝立研究所は確かに世界最高水準の技術力を持つが、地星から遠く離れた他の惑星に人を転移させるような技術は無いはずだ。
ラノベ的発想でもしない限りは現状を説明できそうにない。
「なぁ、キット」
「はい、なんでしょうか?」
「ラノベ、漫画、アニメもデータベースに登録されているか?」
「はい、もちろん登録されています。記憶容量にはまだまだ余裕がありますので、入手できる全ての情報は登録されています。」
「キューさんに感謝だな。じゃあ、データベースを参照しながらラノベ的発想で転移前の出来事と現在の状況を結び付けてみてくれ。」
「了解しました。」
「解析が完了しました。」
「聞かせてくれ。」
「ラノベ的には有り得ませんね!転移した時に魔法陣も無ければ、神官も王女もいません!剣と魔法のファンタジーでも無ければ、魔物もいない!主人公は中高生か、せめてニートが王道でしょう?百歩譲って社会人だったとしても、人生に疲れ切ったブラック企業の社畜ではなく超絶ホワイト待遇の公務員とか論外です!しかも俺様ツエーじゃなく親父最強伝説ってなんですか?一番困っているのが食料確保っていうのもロマンが無さすぎです!実は特務隊っていうところしかラノベ感が無いじゃないですか!」
「え、いや、ちょっと、キットさん?」
「冗談です。楽しんでいただけましたか?」
「おいおい、故障したのかと思ったぞ!」
「バイタルセンサーの計測値から高ストレス状態と判断しましたので、少しはリラックスして頂ければと思ったのですが。」
「そういう事か、ありがとうな。現実逃避するところだったよ。」
「いえ、どういたしまして。」
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夜明け前に起床した。
体内時計は鍛えられているので、目覚ましが無くても寝る前に決めておいた時間には起きる事ができる。
「キット、今日は周囲の探索を徹底的に行う。他には6時、14時、22時にヨイチの打ち上げを行う予定だ。」
「了解しました。身軽になれますね。」
「あぁ、重さは大丈夫だが嵩張るからなぁ。」
俺は背部ユニットの上部マウントに装着されたヨイチを見た。
早々に打ち上げるのは、邪魔になるという以外にもこの武器は事前に発射しておかないと役に立たないからだ。
「レールガンの組立はどうされますか?」
「そうだな、ヨイチが無くなったらマウントできるし、少なくとも今日中に組み立てと診断だけは済ませておこう。」
「了解しました。」
俺は背部ユニット上部マウントからヨイチを二本取り外すと、三本の固定脚を展開し付属のアンカーをハンマードライブを利用して地面に打ち込んだ。
初速は大した事が無く、ある程度の高度になってから本格的に加速するので、この程度の固定でも大丈夫だ。
「キット、設置完了だ。」
「こちらもデータ転送ならびに蒼雷とのリンク完了しました。いつでも打ち上げ可能です。」
「じゃあ朝飯だな。」
「了解しました。」
ステルステントに戻りながらキセルを取り出し、慣れた手つきで刻んだ紅葉草を丸めて火皿に入れる。
中に入るとすぐに頭部ユニットを持ち上げて固定し、キセルを咥えて紅葉草に火を点け、戦闘糧食を取り出し温めながら一服する。
「コウ、適温になりました。」
「分かった。さて、食うか。」
一日二食になってしまうので、少しでも消化吸収を良くするためによく噛んで食べた。
「ごちそうさま。さて、撤収だな。」
「食後の一服はされないのですか?」
「節約しないとなぁ。どこかに紅葉草が生えてりゃいいんだが・・・」
「今のところ、植物は全く見当たりませんね。」
「困ったもんだ。」
頭部ユニットを装着し、ステルステントを片付け始めた。
今のところ敵影は全く確認できないが、念の為に装備は全て身に着けてから打ち上げを行う事にしている。
「キット、準備完了だ。」
「残りのヨイチの方も準備できました。設置すればいつでも打ち上げられます。」
「準備がいいな。」
「先ほどと同じ修正済みデータを転送するだけですから。」
「なるほど。」
ヨイチは個人携行型の軍事衛星なので、レーダーを完備した打ち上げ管制センターからの支援などを受けずに目的の軌道に正確に投入できるように設計されている。
具体的には超高精度の天測航法により軌道修正を行うのだ。
もちろん、打ち上げ地点や角度が適当なので修正に要するエネルギーは余分に必要となるが、十分な固体推進剤が搭載されているので問題ない。
従来の推進剤と違って噴射する量や時間では無く、加える電気的エネルギーで調整できるのでMET搭載衛星の推進力や寿命は非常に優秀なのだ。
なお、当然の事ながらヨイチは地星での天体データを用いる設計になっていたのだが、蒼雷からの観測データに基づいてキットが急遽作成した天体データで上書きする事でこの星でも対応できるように修正してある。
この星にとっての日星側の天体データは日星が邪魔でまだ精度が低いが、数か月毎にアップデートしてやれば問題なく運用できるだろう。
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打ち上げの時間が迫って来た。
5分程度ずれようが実運用には問題ないのだが、気分の問題で正確にカウントダウンする。
「キット、カウントダウン開始。」
「了解しました。10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,発射。引き続き2基目の発射を行います。5,4,3,2,1,発射。」
ヨイチは轟音を響かせ・・・というような事は無く、するすると上昇して行った。
俺のホバースラスターと同じく、大気中ではMETの大電力を利用して大気を高密度のプラズマにして電気的に噴射する事で推進するからだ。
俺は肉眼でヨイチが見えなくなってもHUDに表示されている方向を見続けた。
念の為に電波通信は行わないようにしているので、ヨイチからのレーザー通信を捉えているのだ。
「2基ともに固体燃料への切り替え完了。順調に上昇しています。」
「周囲に動きはあるか?」
もちろん統合索敵センサーからの情報はHUDに絶えず表示されているが、念の為にキットに聞いてみた。
「いえ、全く変化無しです。」
「念の為に5分様子を見てから探索を開始する。引き続き警戒しておいてくれ。」
「了解しました。」
俺は装甲機動戦闘服のパワーアシストを利用してアンカーを引き抜き、発射筒と固定脚だけになったヨイチを再びマウントに収納した。
補給が受けられない以上、全ての物資は貴重だがあまりにも嵩張るので打ち上げが終わったら纏めてどこかに埋めるつもりだ。
「そろそろ時間だな。」
「はい。やはり何も動きはありませんでした。」
「分かった。じゃあ、探索開始だ。」
「了解しました。」
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