第12話 遺跡-02
22時の最後の打ち上げも無事終了した。
あまり夜間に行動したくは無いのだが、さすがに数時間分の軌道修正は避けたかったからだ。
ちなみに、ヨイチは打ち上げ後5年保証の兵器だが、”日出国の出来ないは信用するな”という格言がある位なので、実際は3倍以上の期間は稼働するだろう。
今は念の為に打ち上げ地点から数km移動して再びステルステントを設営している。
「食料は見つからなかったな・・・」
「はい。痕跡すらありませんでした。」
「まさにぺんぺん草すら生えてないって状態だな。」
「蒼雷の観測データから予測は出来ていましたが、困りましたね。」
「あぁ、魚に期待するしか無いな。取り敢えず残りの予定をこなすぞ。」
俺はバックパックから分解されたレールガンの入った耐衝撃ケースを取り出した。
「じゃあ、組立手順書をプロジェクターに出してくれ。」
「了解しました。」
「さて・・・なんじゃこりゃ?」
「説明書によると9連
「パンマガジンって、確か機関銃が実用化され始めた数百年前に一部で採用されたやつか?」
「はい。一般には有名なアニメの敵側量産型ロボットが使っていた方が有名ですが。」
「あぁ、巨大な空薬莢が落ちてたな。またキューさんの趣味で採用したのか・・・」
「一応、実用上の理由もあるそうです。」
「何だ?」
「このパンマガジンの駆動はバネではなくモーターを用いていますので、任意の位置の砲弾を装填する事が出来ます。それを利用して複数の砲弾を瞬時に撃ち分ける事が可能になっているようです。」
「なるほど、装填順じゃないんだな。」
俺は手順書を注視しながらレールガンの組み立てを開始した。
キューさんが手がけた物なので、暗闇の中でも手探りで組み立てられるようになっているが、火薬式戦車砲の数倍のマッハ20という砲口初速まで加速できる代物なので、手順を間違えて砲身破裂などは起こしたくはない。
「今はどんな砲弾が搭載されているんだ?」
「徹甲弾、破砕榴弾、焼夷弾が三発ずつ順番に搭載されています。」
「しかしマッハ20ねぇ・・・徹甲弾はともかく他の砲弾は耐えられるのか?」
「発射の衝撃には耐えられるようです。破砕榴弾と焼夷弾の信管は着弾時の衝撃で壊れるよりも先に作動するように設計されていますね。」
「そこら辺はさすがにキューさんか・・・」
「そうですね。色々とアレなところはありますが、技術に関しては信頼できます。」
「まぁ、そうだな。ところで、こんな短い徹甲弾って使い物になるのか?」
現代の徹甲弾の貫通原理は、塑性流動という”ある程度以上の圧力をかけると硬い金属がまるで液体のように流動する性質”を利用している。
通常の徹甲弾は装弾筒付翼安定徹甲弾、いわゆるAPFSDSに代表されるように細長い形状をしているが、これは軽量化によって速度を上げ、断面積を小さくする事によって圧力を高め、装甲に塑性流動を起こさせる事によって貫通する砲弾だ。
もちろん砲弾自体も塑性流動を起こしてしまうので、装甲を貫通する為には長さが必要になるのだが、パンマガジンの大きさから考えると長さがどうしても足りない。
「はい。キューさんの自信作らしいです。説明書によると、塑性流動を非常に起こしにくい素材を開発して徹甲弾に応用したものです。」
「なるほど、砲弾の方は変形しないのか。」
「そうなります。ですので、初速を重視したと書いてありますが・・・」
「キューさんだからな・・・限界に挑戦したかっただけだろ?」
「きっと・・・そうですね。」
大体の性能が把握できた頃、レールガンの組み立ては完了した。
「よし、完成だな。ここじゃ狭いから、外に出てマウントと動作チェックを行う。」
「了解しました。」
少し離れた場所まで移動し、背部ユニットを一旦パージしてからヨイチが取り付けられていたところにレールガン用マウントを固定した。
そして、そのマウントにレールガンを接続し再び背部ユニットを装着する。
普段は砲身が両肩に平行な状態で携行するが、砲撃準備命令を送れば自動的に右肩撃ちの位置にセットされるらしい。
ちなみに無反動砲では無いので生身の人間がフルパワーで撃てば骨折どころでは済まず、反動を受けた部位が周りの肉や骨ごと吹き飛ばされる事になる。
「準備できた。リンクして診断プログラムを実行してくれ。」
「了解しました。」
HUDに診断結果が次々と表示されていく。
砲撃準備命令により砲身が前方に向けられ、砲身横のレーザーポインターと電子スコープのズレからアライメント調整が行われる。
弾種選択の診断時にはパンマガジンが回転して対応する砲弾を薬室上部に移動させた。
「診断プログラム終了しました。全項目正常です。後は薬室への装填と発射だけです。」
「分かった。実弾射撃は悩むな・・・」
「補給が期待できませんしね。」
「よし、戦闘状態で余裕があればテストする事にする。」
「コウにしては珍しいですね。」
「試射しておきたいのは山々だが、ここまで補給が絶望的だとな。」
METのおかげで事実上無限に撃てる特務改や、千発以上の弾丸を携行しているコイルガンと違い、9発しか砲弾を持って来ていないレールガンではぶっつけ本番でも止むを得ないだろう。
砲撃終了命令を発行しレールガンを収納するとステルステントに戻った。
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