第8話 回想-04
そして転移当日となり、”カルト指定団体:クルセタ統一聖戦会による帝暗殺計画の全容解明および殲滅”作戦が開始された。
ギフト計画時の現場の破壊状況から考えてカルトは相当な重武装をしていると想定された為、俺は追加武器を調達する目的で出発前に帝立研究所へと向かった。
「キューさん、来たよ。」
「コウか、待っておったぞ!」
「なんかやけに張り切ってない?」
「局長から頼まれておるからの。」
「何を?」
「一番いい装備を持たせるように言われておるのじゃ。」
「いやいや、特務改で十分だろ?」
「そうはいかんぞ!せっかくのチャンスじゃからのぉ。」
「たかがカルト団体のテロリストだろ?とりあえず20mmのサーモバリックくらいは持っていくつもりで来たけどさ。」
「ふむ・・・ちょっと待っておれ。」
キューさんは端末を操作し始めた。
おそらく倉庫からミサイルをピックアップしているのだろう。
「対人榴弾はいらんのか?」
「20mmミサイルの対人榴弾じゃなぁ・・・」
「脚に3連装100mmランチャーをマウントすればいいじゃろ?」
「いや、あれ付けると狙撃しにくいんだよ。それに脚は機動力の為にホバースラスターの方がいい。」
「しょうがないのぉ・・・お、来たようじゃな。」
研究室の天井搬送システムが耐衝撃ケースを運んできた。
ケースにはサーモバリック弾頭付きの20mmミサイルの型番が印刷されている。
「キット、装填する。ランチャーのマウントを解除してくれ。」
「了解しました。」
左腕の6連装20mmミサイルランチャーのロックが外れる微かな音と振動がした。
俺はランチャーを前方にずらして外すと机の上に置き、後部の装填蓋を開けた。
「今は何が入っておるんじゃ?」
「空だよ。どうせここで装填するつもりだったから。」
耐衝撃ケースから20mmミサイルを取り出し、一番発射管から順番に装填していき最後に装填蓋を閉めてロックした。
「キット、ランチャーをマウントする。すぐに診断プログラムを走らせてくれ。」
「了解しました。」
外した時とは逆の手順で左腕にランチャーを固定すると、ロックされた音がした。
同時にHUDの左腕装備に6連装20mmミサイルランチャーと表示され、診断中の文字も表示された。
診断内容を確認していると、何やら視界の隅にコンテナが自動搬送車で運ばれて来ているのが映った。
「コウ、これも持っていくのじゃ。」
そのコンテナを見ると、” 四一式携行型衛星レーザー砲”と印刷されていた。
この兵器のコードネームは型式と故事に倣って”ヨイチ”と名付けられている。
「キューさん、さすがにヨイチは大袈裟すぎるだろ?」
「すまんのぉ。急な話で2セットしか用意してやれんかった。」
「いや、いらないから!」
「一番いい装備と言われておるからの。コウは局長命令に背くつもりかの?」
「い、いや・・・でもさ、重いし邪魔になるし。」
「装甲機動戦闘服なら平気じゃろ?すぐに打ち上げれば邪魔にもならんしの。」
確かにこれくらいの重量は全く問題にならないし、キットが自動的にバランス制御をしてくれるので普段通り動くことは可能だ。
他国の充電式やガソリン発電式の機動戦闘服だと重すぎて無理だが。
「1セットでいいんじゃない?」
「万が一にも故障してたらまずいじゃろ?」
「いや、キューさんが手掛けた兵器なら大丈夫でしょ?」
「局長にコウはバックアップを軽視してると報告してもええかの?」
「分かった、分かったよ。持っていくから!キット、背部ユニットのマウント解除だ。」
「了解しました。」
コンテナから3本1セットになっているヨイチを2セット取り出し、背部ユニット上部のマウントに固定していった。
「さて、そろそろ行くよ。」
「そうはいかんぞい。」
「いや、テロリストごとグンマー国を地上から抹消するつもりは無いから!」
「まぁ、しばらく待っておれ。」
キューさんは奥の方に歩いて行った。
倉庫から配送しないと言う事は、おそらく試作品だろう。
この隙に脱出してもいいのだが、最高軍事機密の詰まったこの部屋の扉は恐ろしく頑丈だ。
特務改なら簡単に焼き切れるが、始末書だけでは済まないのは明白なので大人しく待つしかない。
暫くすると、ガラガラと台車を押す音が聞こえてきた。
「これじゃっ!」
キューさんが目を輝かせながら自慢げな表情を浮かべている。
台車に乗せられた耐衝撃ケースに入っているのは、きっと凄い兵器なのだろう。
それが俺にとって幸せかどうかは別として・・・
「これ何?」
「レールガンじゃ!」
「へぇ、キューさんにしてはまともな兵器だな・・・」
「わしはいつもまともな兵器を作っておるぞ?」
「まぁ、とりあえず要らない。」
「そう言うな。これはの、最大初速マッハ20まで加速できる個人用最強を目指したレールガンじゃ。使ってみたいじゃろ?」
「どこがまともな兵器だよっ!」
「どこか変かの?」
「砲撃する相手が居ない。反動が強すぎる。誘導兵器じゃないから射程を延ばしても当たらない。」
「分かっておらんようじゃのぉ・・・」
「何が?」
「わしが新合金を研究しているのは知っておるじゃろ?」
「まぁね。」
「あれが他国に盗まれた時に備えておるのじゃ。それに反動も問題ないぞ。キット、ゲストフォルダーに反動制御用のファイルを入れておいたから読み込んでおくのじゃ。」
「コウ、よろしいですか?」
「しょうがない。問題ないか確かめてくれ。」
「了解しました。」
「そうかそうか、持っていく決心がついたか!」
「嫌だって言ったら、親父に言うんだろ?」
「もちろんじゃ。」
「しょうがない。持っていくよ。でも、使うかどうかは現場次第だ。」
「できればフルパワーで撃って欲しいんじゃがのぉ・・・」
「いや、作戦に必要かどうかだけが判断基準だ。俺も命がけなんだから、それは妥協できない。」
「ふむ・・・そこはわしは口が出せんからのぉ・・・」
バックパックに耐衝撃ケースを入れようとしたが、どうしても入りそうにない。
仕方がないので普段から持ち歩いてはいるが実戦では使った事の無いグレネードレールガンを取り出して何とか押し込むことが出来た。
ちなみに俺は使ってはいないが武器としては優秀なものだ。
蒼雷からの距離や風速データに基づいて装甲機動戦闘服を精密制御して照準するので、この種の兵器としては驚異的な命中率を誇っている。
なお、火薬式では無くレールガン方式を採用しているのは、初速を上げる為では無く、初速を無段階調整できるからだ。
初速と発射角の組み合わせにより様々な弾道曲線を選択できるようになり、従来は狙えなかった目標にも命中させる事が可能なのだ。
「キューさん、これ一課に送っておいてくれる?」
「構わんぞい。しかし持っていかんでいいのか?」
「誰のせいだと・・・そろそろ時間が押してきたから、もう出発するよ。」
「あと一つ面白いものがあるんじゃがのぉ・・・」
キューさんが机の引出しから無造作に握り拳大のものを取り出した。
見た目は投擲訓練用の手榴弾だが、キューさんの事だからきっととんでもない兵器だろう。
「遂にこの大きさまで小型化できたんじゃ。」
「何を?」
「100g級MET弾頭じゃ。」
「絶対に断る!そんなもん使ったら確実に死ぬわっ!!!」
装甲機動戦闘服をリミッター解除して思い切り遠くに投げても、TNT火薬換算で700キロトンの爆発に巻き込まれれば確実に死ぬだろう。
というか、グンマー国が滅亡する。
最終手段としてのMET弾頭化可能な装備は俺も持っているが、飽くまでも安全な距離から起爆させる為のものだ。
「持っていくだけでもどうじゃ?」
キューさんの右手には安全ピンが握られていた。
「ちょ、ちょっとキューさん!安全ピン!すぐに戻して!」
「何を慌てておるんじゃ?」
「いいから!早くっ!!!」
「しょうがないのぉ・・・あっ!」
安全ピンが右手からこぼれ落ちて、床のグレーチングに消えていった。
「な、何やってんの!」
「手が滑ってしもうた。拾ってくるから待っておれ。」
「いや、いい!俺が取りに行くから!絶対にそれを放さずにここで待っていてくれ!」
「すまんのう・・・」
大急ぎで下の階に降り、グレーチングの下が見渡せる辺りまで行った。
「キット、最優先で安全ピンを捜索しろ。リソースは全てそっちに回していい。」
「了解しました。落下地点予測シミュレーションによると、この範囲内に落下している可能性が高いです。」
HUDに予測エリアと測定ポイントが表示されたので、俺は急いでそこに向かった。
「コウ、落下の痕跡を探ります。しばらく動かないで下さい。」
「分かった。早めに頼むぞ。」
安全ピンが当たった事によって埃がわずかに剥がれた痕跡や、極微量の金属付着物などを高性能センサーを使ってキットが探査して行く。
「おそらく、この隙間に落ちている筈です。他の候補も探査は終了していますので、近付いても大丈夫です。」
「よくやった。お・・・あったな。」
「はい。すぐに戻りましょう。」
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「キューさん、これ・・・」
「すまんのう。」
「今度は絶対に落とさないでくれ・・・」
「大袈裟じゃのう。」
キューさんは机の上の手榴弾を手に取り、レバーを戻すと安全ピンを差し直した。
「えっ!ちょ、ちょっと、起爆してんの?信管は何秒だ?」
「何を言っておる?」
「いや、だってレバーが起きてただろ!」
「お主はこれが何か知らんのか?投擲訓練用の手榴弾じゃぞ?」
もちろん幼いころから何度も訓練で使った事があるので、投擲訓練用手榴弾の事は知っている。
一連の動作を安全に訓練する為に、炸薬も信管も抜いてある手榴弾だ。
「MET弾頭じゃなかったのか?」
「当たり前じゃろう?大きさのイメージ用に使っただけじゃ。そんな物騒なもんを剥き出しのまま机の引き出しに入れる訳なかろう?」
キューさんがアホな子を見るような目でみながら、やれやれといったポーズを取った。
「紛らわしい事するなっ!」
「ちょっと考えれば分かりそうなもんじゃがのう。」
「自分の普段の行動を反省してくれ・・・」
「コウ、そろそろ出発しないと作戦開始時刻に間に合いません。」
「分かった。じゃあ、俺はもう行くから!」
「MET弾頭は持って行かんのか?」
「当たり前だっ!」
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何とかキューさんを振り切って帝立研究所のヘリポートへと戻ってきた。
俺が乗ってきた一人乗り小型ステルス機が駐機している。
ヨイチのせいで荷物が多くなったが、装甲機動戦闘服の最大積載量に合わせて機体設計されているので問題ない筈だ。
「キット、異常は無いか?」
「はい。誰も近付いていませんし、外部からのアクセスも無かったようです。」
キットを信用しないわけではないが、念の為に周囲から一通り確認してから近付いた。
最善を尽くさない奴は早死にするからな。
「よし、搭乗シーケンス開始だ。」
「了解しました。」
機体がホバリングを始め、機体下部のハッチが開いた。
俺は機体の下に移動しグリップを握る。
「よし、収容してくれ。」
「了解しました。」
キットが機体制御と装甲機動戦闘服のアクチュエーター制御を同時に処理し、スムーズに機内に収容されると下部ハッチが閉じられ、装甲機動戦闘服が機体に固定された。
「収容作業完了しました。」
「じゃあ、操縦モードに切り替えてくれ。基本的に目標地点まではオートパイロットだ。」
「了解しました。」
K.I.T.T.兵器システムを介してHUDの表示が機体カメラのパイロット視点に切り替わり、火器管制システムも接続された。
なお、20mmミサイルを機内でぶっ放すのは危険すぎるので、明示的に命令しない限りはグレーアウトして操作できないように切り替わっている。
「オートパイロット開始。」
「了解しました。」
機体は滑らかに上昇し、グンマー国に向けて進み始めた。
「キット、今日のキューさんはしつこかったな。」
「はい。局長からの指示という大義名分がありましたからね。」
「しかし邪魔だな・・・」
「早めに打ち上げますか?」
「いや、誰かに押し付けて作戦が終わったら回収する。キューさんは予算を気にしなさすぎるが、打ち上げといて使いませんでしたじゃ始末書もんだろ?」
「そうですね。打ち上げたまま放置していると外交問題にもなりかねませんし。ですが、厄介な敵だったらどうしますか?」
「そん時は情報局に支援を要請してやるよ。」
「いいのですか?」
「あいつらは雪辱戦に燃えてたからな。こういう時は花を持たせて恩を売っておくんだよ。」
「もっともらしく聞こえます。そう言えば、グンマー国にはいい温泉があるそうですね。」
「べ、べ、べ、別に丸投げして温泉に行くつもりじゃないぞ?朝廷公務員の課長職ともなれば、こういう政治的な配慮も必要なんだぞ?」
「コウ、心拍数が上昇しています。」
「バレてたか・・・」
「報告したりはしませんから、安心して下さい。」
「気づかないフリってのも大事なんだぞ?」
「覚えておきます。」
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