第78話 大戦の真実
俺が大戦時の事を聞くと、隣からアンジェロ神父が口を出してきた。
「その事は俺から話そうか。あの頃はまだまだ洟垂れ小僧だったが、一応戦争経験者だからな」
アンジェロ神父は俺と同年代の頃にあの大戦に傭兵として参加した筋金入りの戦士と言うことだ。
あの大戦はよくある領土問題として始まったらしい。王国の北東部にある帝国との戦争。始めは何時もの小競り合いで終わるものと誰もが思っていた。
ただその年は帝国で大きな飢饉が生じた年だった。帝国は本気で攻めて来たのだった。
「戦は燎原の火の様に燃え広がった。なにせ、敵は死にもの狂い。飢えた獣そのものだ。
劣勢に陥った王国は焦土戦術を取りつつ戦線を後退。前線は正に地獄だった」
召喚術は敵陣を焼く際にも、自陣を焼く際にも使われたと言う事だ。だが、召喚術が忌み嫌われたのはそれだけが原因ではない。
「ダルグレス・イミダスと言う男がいた」
「ダルグレス……どこかで聞いたような」
「かつてゲルベルト翁の筆頭召喚師として活躍した人物だよ」
「ああ!」
思い出した。シャルメルの別荘での狩りの時に話題になったとか言う人物だ。
「彼は戦況を覆すために神を召喚する事を提案した」
「神……ですか」
「そうだ、馬鹿げた話だがな」
召喚術の世界では聖なるものも邪なるものも単なる力の属性として扱われる。そう考えると、天にまします神と言うのもでなく。聖なる力の象徴たる何かを召喚しようとしたと言う事だろうか?
「まぁお前さんが疑問に思うのも訳はない。だが当時と今では話は違った、それ程に王国は追い詰められていたんだ。正に藁でつかむと言う感じだな」
「それで、その計画はどうなったんですか?」
魔女なる存在が跋扈していたのだ、いい結果は出なかったんだろう。
「さてな、俺もその場に居た訳じゃないから分からない。ただ実験は大失敗。多大な犠牲を払って炎の中に消えちまったと言う話だ」
「じゃあダルグレスもその時に死んだんですか?」
「ああ、唯でさえ少なかった王国のリソースを削って、ダルグレスは炎の中に……と言う訳ではなかった」
「じゃあ生き延びたって言うんですか?」
「奴の目撃情報は報告されている。生死は不明、それ以上でも以下でもないと言う所だ」
アンジェロ神父はそこでいったん話をとぎる。そしてこう話を続けた。
「と言うのは表の……まぁこのこと自体裏の話なんだが、それには更に影がある」
「影ですか」
「ああ、元々ダルグレスにこの計画を持ち掛けたのは王室側からの話だと言う説がある。いや、王室だけではない。教会もぐるになって切迫した状況を打破するために行われたらしい」
「それって、ダルグレスは被害者って事ですか?」
「最初はな、そうだったのかもしれない。だが計画が進むにつれ奴はその力に、可能性に囚われた。奴には王国も帝国もどうでもよかったのだ。只々力の先が見たいそれだけだったのだ。その後の調査でそう言った裏付けが取れている」
何処まででも力にこだわる。モノの正邪など関係ない、その姿勢に魔女の影がチラホラと見える。
「大戦末期には魔女の影が見られたと聞きました。魔女はどの段階で暗躍していたのでしょう」
「正確な事は分からない。だが、その計画に魔女がかかわっていた可能性は高いと見ている」
奴は俺達の事を現人類と見離していた。あいつなら何を企んでいても不思議じゃない。
「力に取りつかれたダルグレスは王国の内部を好き勝手に荒しながらも計画を執行し続けた、その陰に魔女が存在したとしても違和感は全くない。魔女にとって人心掌握なんてお手ものだしな。
そして後ろめたいものを丸々ひっくるめた計画は炎と消え、ダルグレスは大罪人の楽園を押されつつも、行方不明となった」
「大罪人の烙印ですか」
そのフレーズには聞き覚えがある、アリアさんもまたその烙印を押し付けられた被害者なのだ。
「ああ、アリアはダルグレスの実子なのだ」
「え!?」
「アリア自身はその計画について何も知らなかった。だがダルグレスから召喚術の手ほどきを受けていたと言う事で、大罪人の烙印を押され幽閉の身になっていた」
「そんな、無茶苦茶な」
「ああ、無茶苦茶だ。ダルグレスの行方を見失ってしまい、その腹いせに行われたとしか思えない、腐りきった判決だ」
「ふふふ、面子を何よりも重んじる、実に人間らしい良い判決ですわ」
カレンさんがそう、笑い声を漏らす。
「全くだ、彼女はそのエゴの犠牲となった。しかもその時の彼女は10に満たない幼子、ちょうど今のエフェット嬢と同じぐらいの年頃だったそうだ」
「それは……また」
「話を戻そう」アンジェロ神父は、椅子に腰かけ直した。
起死回生の計画は炎の中に消えた、だが対戦はそれとは関係なく続いていく。ところがそこからが魔女が表に出てくる時間だった。
「ダルグレスと言う傀儡を失った魔女は表に出て遊び始めた、そしてそれは時代とマッチしていた、力を求める時代とな」
戦乱の時代、俺には想像することしか出来ない力の時代。その時代に魔女は陰になり日向になりただひたすらに力と混乱を振りまいた。
そしてジェイ達を始めとする討伐隊が組織され、第一次魔女征伐が行われた。
「話が長くなったな、少し休憩を入れよう」
アンジェロ神父そう言って、お茶を用意する。
大戦の陰で、ダルグレスは力そのものに信仰を求め、その象徴として神を召喚しようとした。
しかしそれは炎の中に消え、代わりに魔女が現れた。
あるいは彼が召喚しようとした神が魔女であったのかもしれない。
俺はそんな事を考えつつ、お茶に口を付けたのだった。
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