第44話 決着
「あぁああああ!」
「キイ!」
調度物と侵入者たちを纏めてなぎ倒しながら突進するバンパイアバットに、カトレアは真正面から突っ込んだ。
単純明快な攻撃方法、ナイトメアの膂力に任せた、力ずくの手刀が閃く。
「キイ!」
バサリと室内に突風が吹き荒れる。間一髪でカトレアの手刀をかわしたバンパイアバットは錐揉み飛行で、カトレアの首筋を狙う。
「あぁああああ!」
口は一つ、だが、手刀は二つ。無防備に晒した首筋は囮とばかりに、カトレアは逆の手刀を振り上げる。
一瞬の攻防に血が噴き出す。
カトレアの首筋が割け、バンパイアバットの皮膜に穴が開いた。
「くっ!」
カトレアは首筋を抑え、一歩下がる。メイド服の襟が赤く染まっていく。「キイキイ」とバンパイアバットはバランスのとり辛くなった翼で羽ばたきを上げる。
「こっのおーー!」
バンパイアバットがカトレアに気を取られた時だった。幾分平静を取り戻したチェルシーが、身体強化の魔術を用いた全力の投擲をバンパイアバット目がけて放った。
「キイ!」
ナイフは深々とバンパイアバットの背中に突き刺さる。彼は短く悲鳴を上げた。
「はぁああああッ!!」
カトレアはその硬直を見逃さない。渾身の手刀がバンパイアバットの胸に深々と突き刺さり、カトレアの全身を返り血で染め上げた。
「つぅ!!」
ドラッゴの口から悲鳴が漏れ、突如デュラハンの動きが乱れる。なにかトラブルがあったようだが、生憎とそっちの事情は関係ない。
俺はデュラハンの懐に潜り込み。魔力激を叩き込む。
「がっ!!」
デュラハンの代わりに、ドラッゴが悲鳴を上げる。やはり奴は俺と同じだ。召喚獣への同調力が強い反面、それが負ったダメージのフィードバックを受けてしまうタイプ。
「おらっ!」
瘴気弾を放とうとしていた、デュラハンの顔に拳を一発。奴の腕が跳ね上がる。
「まだまだ!」
「こっちの台詞だクソ雑魚!」
ドラッゴは口から血を漏らしながらそう叫ぶ。それと同時にデュラハンの動きが鋭く力強くなる。
縦横無尽に大剣が煌めく。その威力は一撃両断、触れれば裁ち切れ呪われる悪鬼の剣。
だが、剣の軌道は単純明快。今までの戦いでそれを見切った俺は、軌道に合わせて横から魔力激を叩き込む。
「ガハッ!!」
確かな手ごたえと同時に奴の口からここ一番の嗚咽が漏れる。剣に?いや首なしでも生きてる様な魔獣だ、一般常識は当てはまらない。
俺は攻撃を剣に集中する。
「ちぃ! 戻れこの役立たず!!」
その声と同時に、俺の目の前からデュラハンが掻き消える。
「うわっと」
俺は、空振りしてバランスを崩した。
「くっ! 勝負はお預けだ!」
奴はそう叫び、何かのスイッチを押す。すると奴の眼前の床が崩壊し、奴はそこから下へと逃げて行った。
「待ちやがれこの野郎!」
俺がその穴にたどり着いた時には、奴はスティールシャークの背に立ち、俺の方を睨みつけていた。
「アデム。アデム・アルデバルだな! その名前忘れねぇぞ!!」
「こっちの台詞だこのくそ野郎!召喚師の面汚しめ!!」
ザパンと大きな水しぶきを上げ、奴は海中へと消えていった。
「カトレア! 大丈夫!!」
彼女の従者を目茶苦茶にしたバンパイアバットは骸を残さず消えていった。
「うそ、もしかして召喚獣だったのかも」
チェルシーはそう、呟きを上げたが、アプリコットにその返事をする余裕は無かった。
「カトレア! カトレア!」
「行けませんお嬢様!」
だが、彼女の従者は、主が己に近づくのを良しとしなかった。彼女は、流れる血を抑えながら、こう言った。
「お嬢様、今まで騙していて申し訳ございません。私は見ての通り穢れた身でございます。行き倒れになっていたところを旦那様に拾われ、今まで素性を隠してきましたが、それも今日この時まで。
これ以上お嬢様に、この穢れた身を晒すことは辛うございます」
「カトレア? 何を言っているの?」
「お嬢様はご立派になられた、もう私に思い残すことはございません」
カトレアはそう言うと、よろける体で立ち上がった。
「その先は言わせない!!」
アプリコットはカトレアに駆け寄り、彼女の体を抱きしめた。アプリコットの衣服が、カトレアの血と、バンパイアバットの返り血で真っ赤に染まっていく。
「行けませんお嬢様! 穢れた血で汚れてしまいます!!」
「穢れてない、穢れてなんかないよ。アデム君はこう言ってたんだって。『力の本質を見分けなきゃいけない』って。
私もそう思う。どんな姿だろうと、カトレアはカトレアだよ、私の大切な従者だよ」
アプリコットは、そう言うと優しい声色で
「ぐぅ!!」
「我慢してカトレア! 先ずは止血をしなきゃ!」
アプリコットはカトレアを優しく抱きしめながら魔力を注ぎ続ける。回復魔術の副作用である痛みを少しでも和らげようと、優しく、暖かく。
「お嬢、様」
「大丈夫、大丈夫だよカトレア」
カトレアは戦闘のダメージと、回復魔術の体力消耗によりゆっくりと目を閉じていった。血まみれの主従は何時までも抱き合っていた。
「大丈夫ですか!!」
「ひゃ!!」
突如飛び込んできたその声に、チェルシーは飛び上がって驚いた。
「じっ……ジム先輩」
それが身内であるジムであったため、チェルシーはへなへなとその場にへたり込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます