第23話 電光石火
グミ助からの危険信号が突如猛烈な勢いで伝わって来た。俺はとっさに爺を突き飛ばし、地に伏せようとするが。
突如体中に切り刻まれた様な痛みが発し、一瞬後にそこから血が噴き出した。そして大地を振るわせる衝撃が襲う。
「ぐぁ……」
俺はマッシュポテトの様になった地面の上でグミ助を呼び戻し、そこで異変に気が付いた。ジャイアントグリズリーの口から多量の血が零れ落ちていた。
「野郎、自爆覚悟で、風の刃を喉から通しやがった」
グミ助は万が一にも奴の爪が届かないように、気管の底に召喚していた。にもかかわらずグミ助がボロボロになっているのは、そう言った事だろう。
グルルルと怒りに燃えた奴がこちらを睨む。生憎そんなに熱烈な視線を向けられても、博愛の抱擁を交わすには、俺の体は小さすぎる。一撃でぺちゃんこに潰れるのは火を見るよりも明らかだ。
「やべぇなこりゃ」
体はボロボロ、先ほどまでの様な回避行動はとれそうにも無い。せめてこのくそ爺だけでも逃がさなければと気合を入れ直し立ち上がる。
「ご無事でございますか、ゲルベルト様」
その時だ、突然背後から第三者の声がかかった。
「儂は無事じゃベンジャミン! それよりもその小僧を何とかしろ!」
「余計なお世話だくそ爺! やられっぱなしで引いてたまるか!」
俺は先手を打ってそう言った。ここまで来ているのに余計な茶々を入れられてたまるか。
俺は傷だらけだが、奴も傷だらけだ。俺の傷は外の傷、奴の傷は
俺にしがみ付く体力も残っていないグミ助を帰らせる。残りは身一つの勝負だ。
「ゴォ!!」
奴は血反吐を吐きつつ、風の刃を振りまくる。
だが!
「お前の動きは見切ったんだよ!」
俺は奴の腕の振りに同調し、紙一重でそれを回避する。爺は……悲鳴が聞こえてないからベンジャミンさんが何とかしてるだろう。
「こっちだクマ!」
魔力爆破により瞬間加速。爺から離れ奴を引きつける。こっから先は根競べ、奴が自分の血で溺れるか、俺が出血多量で倒れるかの勝負だ。
その為には奴を動かし回る必要がある。しかし当然それは諸刃の剣。
だが、そんな事を言ってる場合でもないのが現状だ。
「ゴォ!」
奴は血を噴き出しながら攻撃を続ける。俺は血を流しながら回避を続ける。体中が痛い、血が抜けて気が遠くなる。幾ら奴の動きは分かるとはいえ、こっちの動きも鈍くなっているのだから戦況は徐々に傾いていく。
なにか、何か手は無いか。
「助太刀致します」
声と共に、短剣が奴の目に突き刺さった。
「ベンジャミンさん」
「はい、ベンジャミンでございます」
あのくそ爺が寄越したと言う事か。悔しいが今の俺の状態じゃこの手を受け取らないと言う選択肢は残されていない。
「奴を翻弄してください。時間が来れば奴は溺れる」
「了解でございます。後大旦那様からの伝言です。『儂は勝負を降りた』と」
畜生。こうでも言わないと俺が突っ走るとの判断からの宣言だろう。くそ爺に貸が一つできてしまった。
この借りはこいつを仕留めて返すしかない。
その時だ――頭の中に大空が広がる。
「ベンジャミンさん。さっきの依頼は取り消します。その必要はなくなりました」
「はて?」
俺は、最後の力を振り絞りこう叫んだ。
「天空を舞う稲光! 汝は何物にも縛られず、誰よりも高く飛ぶ! 汝の名はトニトゥアーレ! 疾く舞い降りて我の敵を穿てッ!!」
バチリとジャイアントグリズリーの背後に召喚陣が現れて、そこから稲光を纏ったサンダーバードが現れる。
キュオオンと一鳴きしたサンダーバードは羽搏きと共に全力の稲妻を死に体のジャイアントグリズリーに叩き込んだ
「はっざまあみやがれ」
俺はその様を見た後……。
「知らない天井だ」
知らない天井だった。
おやと、目を覚ましてみたら、見たことの無い豪華な天井がそこに在った。煌びやかなシャンデリアに、天井画? と見間違うかのような模様が描かれた天井が貼られている。
「漸くのお目覚めですか」
聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこにはふくれっ面のシャルメル嬢が立っていた。
「あれ? どうしたの?」
「どうしたの? ではございませんわ!
「いやー、そんな事言われても」
遭遇戦に文句を言われてもどうしようも無いでござる。
「ところで、漸くのって俺ドンぐらい寝てたの?」
悪い予感を胸に恐る恐る聞いてみる。
「3日ですわ」
「……3日?」
「そう、3日。ああ、安心してください、アプリコットさんとチェルシーさんは先に帰らせましたわ。
「……」
「はぁ、無遅刻無欠席を目指していた訳ではないですが、無駄に講義を休んでしまいましたわ」
「……」
「……何か言ったらどうなんですの?」
「俺には恐れていることが2つある。1つはアプリコットとチェルシーになんて言われるか」
間違いなく怒られる。
「ふむふむ、次は?」
「シエルさんになんて言われるかだ」
間違いなく怒られる。
「それでは、そこにもう一つ加えて頂きましょう」
「……え?」
「今から
シャルメル嬢はそう言って、意地悪な笑みを浮かべたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます