第18話 嬉し恥ずかし初召喚(後)
「さて、皆さん無事契約は成功したようですし、それではいよいよ召喚を行っていきましょう」
待ってましたと最初からクライマックスな俺は元より、皆流石に温まって来た様でパチパチと最初よりは大きな拍手が木霊する。
「えーそれでは」
ハイハイ! と
「チェルシーさん。よろしくお願いします」
肩を落とす俺達を尻目に、やや緊張したチェルシーたちが皆の前に出る。そして最終安全確認としてカッシェさんと話し合った後
ゴクリと、俺達みんな二人の様子に注視する。
「汝は不定の生物なり――」
召喚呪文は基本的には契約時に行った詠唱と同じものを使う。とは言え毎度毎度フル詠唱を行う事はそうは無い。既にパスは繋がっているのである程度はカット出来るのだ。フル詠唱を行うケースは、召喚師の能力ギリギリの魔獣を召喚する時ぐらいである。
まぁ今回は、初めての召喚と言う事で安全性を考慮してのフル召喚である。
「汝の名は
召喚符から光が溢れ、チェルシーのグミの姿が掻き消える。そして――
「きゃっ!」
おや、何かトラブルが、と思った時にはカッシェさんがチェルシーの元に駆け寄った。
慌てふためくチェルシー、よくよく見ると、彼女の胸が常より膨らんでる気が……。
「せんせ、せんせ」「おっ落ち着いて下さいチェルシーさん、初心者にはよくある事故です」「ちょっと出てきな、いやちょっと破れる破れる」「ちぇっチェルシーさん取りあえず私の影に」「先生ちょっと待って、ちょっと待って」「大丈夫です見えてません見えてません」
わいわいがやがや。あーなんか理解できた。平和な事で何よりである。
「ふー、酷い目にあったわ」
頬を上気させ、髪を見だしたチェルシーは戻ってくるなりそう言った。チェルシーさんの召喚獣は、召喚師の足りない部位を物理的に補ってくれようとしたんじゃないかなと思ったけど口に出さなかったのに、殴られた。
やはりこいつは読心術を修めているんじゃないかと思いました。
「はいそれでは、皆さんもやってみましょう! 最初の内はちょっと遠い場所に召喚するつもりでイメージしてください!」
カッシェさんは汗を拭きながらそう促す。成程、実感のこもった言葉と言うものは重いものだ。
……だが、断る!
サモナー・オブ・サモナーズを目指す俺はこんな所で足踏みをしている訳にはいかないのだ。
俺の順番がやってくる。むぎゅりむぎゅりと意を高めるグミ助と距離を開けて相対。
召喚符に魔力を込める。
魂の結びつきを強く感じる。
グミ助の感じる世界を感じる。
その軟体で踏みしめる大地の暖かさを感じる。
風で震える全身を感じる。
行ける、と思った。
「来い」
呪文詠唱なんて必要ない。俺とグミ助は一心同体。そん回りくどい事は俺たちの間には不要だった。
そして、瞬時に俺の肩の上にグミ助が現れた。
「それがアデムさんのグミですかー、可愛いですね」
「そうだろー、アプリコット。けど可愛いだけじゃなくかっこよくもあるんだぜー」
放課後、アプリコットにグミ助を披露する、このフォルム、この張り艶。まさにグミ・オブ・グミズにふさわしい恵体だ。
「……あんたあんまり調子に乗るなって、カッシェ先生に散々怒られたじゃない」
ぶつくさと、チェルシーが嫉妬してくるが、風に柳と受け流す。いーやあの顔は他の生徒の前で示しを付けるためにかぶっている仮面だ、そうに違いないと俺は決定した。
「けど、アデムさんのやられた事ってそんなに危険な事なのですか?」
アプリコットはそう言って顔を傾げる。
「まぁ慣れてくればそうでもないんだけど、そもそもが実習で近接召喚なんてする必要が無いのよ。まったくスタンドプレーが好きなんだからこの猿は。
詠唱破棄については……グミ程度なら可能……なのかしら、よく分からないけど」
あの後、俺の真似をして何人かが何処まで詠唱を削れるか試していたが、半分も削れた人間は居なかった。やはり俺とグミ助の絆は最強だと言う事が証明された瞬間だった。
「……はぁ、まぁ召喚師の風評を貶めなければ好きにしたらいいんじゃないかしら」
そう言って、チェルシーは、自分のグミを優しく撫でる。
そうそう、貧しき者よ、そうやって地道に絆を稼ぐが良い。俺が道を切り開いてやるから、無理をせず、ゆっくりと歩んで行け。
そうやって慈しむ目で見ていたら、殴られました。最近俺に当りきつくないですかチェルシーさん。
蝋燭の明かりが揺らめく部屋で、一人静かに召喚符を構えるカッシェがいた。彼女は静かに瞑想し、召喚符に魔力を注いでいく。
「……来て」
その言葉に、むぎゅると部屋の対称にいたグミが震える。
……ただそれだけだった。
「はー、やっぱり幾ら召喚コストの低いグミとは言え、無詠唱での召喚なんて出来ませんね」
「おいで、ぐーちゃん」彼女はそう言って、グミを呼び、膝に乗せて抱きかかえる。無詠唱ではどうしても召喚符の芯まで魔力が通らない。彼女の知る常識ではそんな事は限りなく不可能だった。
アデムの魔力量は常人よりやや高いとは言え、あくまで常識に沿ったもの。規格外の魔力を持つ召喚師ならば可能なのかもしれないが……。
「これも、彼の極めて高い同調力がこうさせたんでしょうか。エドワード先生にお聞きしても、『そうですか』の一言で済まされちゃいましたし……」
カッシェは、エドワードがアデムの召喚士としての実力が増していくにつれて、どんどん冷たく慎重になっていくような印象を得ていた。そして、その事に彼女は何か薄ら寒い予感を感じていた。
「まったく、どういう事なんでしょうかねグーちゃん」
カッシェの呟きに、グミは優しく体を摺り寄せるのだった。
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