第102話 後の正面だぁれ

アマンダはあれからずっとメルヘングバッハに残っていた。

ちなみに、ギルドマスターが馬に乗ってステンドグラスの窓を突き破った際、どさくさに紛れてアマンダもホールに気づかれずに侵入を果たしていた。

侵入後はホールの端に立食パーティーで使うようなテーブルクロスがかけてあるテーブルが数卓あったので、その中の一卓に滑り込みナイフで少しクロスにTの字に切れ目をいくつか入れた。

隠れる場所がなくとも隠匿スキルとマスクの魔法の影響で、視界に入っただけでは人と認識される事はまず有り得なかったのだが、念には念をいれておこうと思いテーブルに潜り込んだ感じであったが、そのままではテーブルクロスにより視界が確保出来ないため、ナイフで穴を開けたのだった。

視界確保後はいつでも速効性の麻痺毒を塗った吹き矢でバックアップする準備をした。

息を潜めて状況を注視したていたが、ギルドマスターの口上により敵が戦意喪失したため吹き矢の出番はなかった。

(ひとまずは安心ね……)

少し肩の力を抜き、息をつく。

合流も考えたが、少し引いた状態で事の運びを見ておこうと思い、そのまま隠れ続けた。

(もしかしたら敵が突然暴れ出すかもしれないし)

全員が縛り上げられた所で出ていこうとしたが、ギルドマスターから東の魔女とノマドと言う人物が敵を尋問するとの発言が出たので思い止まった。


(尋問??なぜ?しかもギルドで既に待機している?いつから準備していた?何を知りたい?)

頭の中で色々な事が駆け巡った。

(なぜ皆は疑問に思わないのだ!?どう考えてもおかしい!我々は踊らされているのではないか??)

元暗殺者と言う経歴の中で、今まで依頼者や信頼していた者が裏切ったと言うことは良く耳にした。

『死人に口無し』暗殺者を最後に始末して証拠隠滅をしようと考える者は少なくない。

だから自分の身に降りかからないように、必要以上に神経質になっていた。───それが当たり前だと思っていた。


(私が調べなきゃいけないようね……)

持っていた羊皮紙に東の魔女に気を付けるように伝言を走り書きした。

インクが乾くのを待ち、テーブルからゆっくり扉側に移動する。

(マリィかデッカーさん辺りが近くを通ってくれるといいのだけど……)

そう考えながら扉の陰で待つと、マリィが手の届く所を通ったのでポケットに羊皮紙を突っ込んだ。

(よし、これであとは尋問する所を確認しようかしら)

縛り上げられた者達から一番近いテーブルに移動する。

先程と同じようにナイフで何ヵ所かTの字に切れ目を入れて覗き見出来るようにした。

息を潜めて待っているとマリィ達と入れ替わりで二人の人物が扉をくぐってホールに入ってきた。

(あれが東の魔女とノマドって人ね……)

東の魔女は縛り上げられた者たちに挨拶した後、片方の肘を抱え、少し顎に手を添えるようなポーズを取り、無言でぐるりと縛り上げられた者達の周りを値踏みするような視線を漂わせながら一周回った。

その際自分とも一瞬目が合ったような感じがしてドキリとしたが、何事もなかったように東の魔女が話し始めた。

「貴方たちはいつからここへ?ここへは自分の意思で?」

東の魔女の質問に、縛り上げられた者達は全員が面白いように同じ動きで周りの者を見回した。

「……いつからだったっけ??」

「あれ?そもそも何でここにいるんだっけ?」

「────あれ?あれ?」

縛り上げられた者達がざわつき始めた。

東の魔女とノマドと言う人物はそれを見て目配せした後、首を振ると何か呪文を唱えた。

────するとバタバタと縛り上げられた者達が倒れていく。

(……こ、殺したの!?)

何か唱えるだけで次々と人が倒れていく。

ヒヤリと冷たい汗が流れるのがわかった。

ずっと凝視していることができず、一度視線を外し息を整えた。

(訓練で人の生き死にに関しては達観していたつもりだったのだけど……)

少し動悸が治まったのを確認して視線を戻す。

しかし、そこには先程まで居た筈の縛り上げられた者や東の魔女達がきれいさっぱり消えていた。

先程まで縛り上げられた者達があげていたうめき声も消えて、ホールは静寂が支配していた。


「あら、覗き見なんて悪趣味」

突然後ろから声をかけられた。

先程まで全く気配を感じなかったが、後ろに誰かいる。ゆっくりと後ろから顔に手が伸びてくるのがわかったが、蛇に睨まれた蛙の様に全く動くことができなかった。

白く細い人差し指が仮面を上から下になぞるのがわかった。

死を意識した瞬間だった。

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