第97話 あれは誰だ
【しかし、毎日毎日飽きないものだな】
伝説の剣は周りで自分を抜こうと毎日集まる人々を見てそう思った。
毎日この場に来て挑戦者を囃し立てる者、周りで商売をする者、我こそはと挑戦する者………。
剣は少々呆れていた。
「よし今日こそは!!」
屈強な冒険者が剣に手を伸ばす。
【こいつなんか、小銭を稼ぐとここへやってくるようだが、もう何十回ともわからん回数挑んで来よる。お前なんぞに抜かれる気なぞないと言うのにな。いい加減わかっても良さそうなもんだが…】
剣は冒険者を哀れには思ったが、同情して抜かれてやる気にはなれなかった。
【こいつに抜かれてやる訳にはいかんわなぁ。まだこいつより、こいつのひぃ爺さんの方がまだ冒険者としてはマシだったわ。ひぃ爺さんに抜かれてやらんかったのに、こいつに抜かれてやるわけにはいかんわなぁ………】
剣がそんなことを考えていた時だった。
【な、なんだ、このオーラは!?】
剣は今までに感じたことのない、ただならぬ圧を感じ取った。
「へぇ!あれが伝説の剣なんですか!物凄く綺麗な剣ですね!」
人混みの中でもハッキリとわかった。
【あ、あの少年からか!?なんだこの圧、いや………熱のこもった波動と言った方が相応しい!】
剣はもう冒険者やその他の民衆の事などもう眼中になかった。
少年を案内している女が少年に話しかけていた。
「輝さま、チャレンジしてみます?お金を払って行列に並べばチャレンジ出来ますよ!」
【輝………それがあの少年の名なのか】
剣は久々にワクワクしていた。
この場所に突き刺さって以来、初めてこの岩から引き抜かれても良いと思えた。
【よし、久しぶりにこの少年を主人として暴れてやるとするか!……よしよし、気持ちが昂ってきた!少年よ、俺がこの世の頂点に立たせてやるぞ!】
剣がそんな事を考えていたときだった。
「マリィさん、僕はチャレンジはやめておきます。あんなに立派な男の人が抜けないんだもの。僕みたいなのに引き抜けるわけないです」
【!?】
剣にとっては信じられない発言だった。
『もしかしたら自分は特別な人間で、今までに誰も抜けなかった剣を自分が抜いてしまったりして!?』
少なくともこのくらいの年頃の冒険者は、初めてこの場に来た時にこんな風に考え、一度はチャレンジするのが普通だった。
【お、おい!少年!、いや、輝くん!……いや、輝さま!?チャレンジしないなんて……ご……ご冗談ですよね??】
────そんな時だった。
「でも、僕にはこれがありますから!」
腰の剣が煌めくように光る。
【な、なんだ輝さまの腰のあの剣は!?う、うつくしい……!】
岩に刺さった伝説の剣はフレイムソードを見て更なる衝撃を受けた。
だが、伝説の剣の想いとは裏腹に、輝一行は何処かに行ってしまった。
【き、決めた………俺は意地でもあの人に使ってもらうんだ!!あの素晴らしいオーラ、絶対ただ者ではない!しかし既に素晴らしい剣をお持ちだ。……でも、あの人の腰にもう一本、この俺も挿してもらうんだ!!───こうしちゃいられん!】
───その日、伝説の剣は消えたのだった。
民衆が見ている前で、刺さっていた岩と共に。
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