第96話 伝説の件

「あの行列はなんですか?」

メルヘングバッハにある美味しいご飯屋さんにマリィさんが連れていってくれるというので、僕とデッカーさんがマリィさんに連れられて街を歩いていた時だった。

街の外れに長い行列が出来ていたので気になった僕はマリィさんに聞いてみたのだった。


「あ、あれは昔、有名な騎士だか剣士だかが刺したっていう岩に刺さった伝説の剣があるんですよ。輝さま、ご興味がおありですか?」


「へぇ!ちょっと見てみたいな!」

岩に刺さった剣だって。アーサー王伝説みたいだね。

なんか面白そう!


「あの剣を抜くことができると、なんか賞金が貰えるとかどうとかで。あれはそれに並んでる行列なんですよ。料金を払えば誰でもチャレンジできるんですが、腕に自信の有る冒険者とかだけじゃなくて、一般の旅人とか子供も結構チャレンジしてるらしいですよ。今だかつて誰も抜いたことないらしいですけどね。ちなみに、確かチャレンジするのに大人だと大銀貨1枚だったはずです」


「───ちょっと覗いてみましょうか?」

そう言うとマリィさんがそちらに向かって歩き出した。


チャレンジする行列の他に、見物人も沢山居て人だかりができていたが、見るだけならタダなんだって。

出店もあって、見物人は思い思いの食べ物や土産を買ってワイワイと賑やかで、ちょっとした観光地やお祭りの様だった。


「へぇ!あれが伝説の剣なんですか!物凄く綺麗な剣ですね!」

昔からそこに刺さっているって話だったけど、全然昔の物に見えない!太陽光が反射してきらびやかに輝いていて、物凄い剣だって僕にもわかった。

今ちょうど凄い風格がある冒険者風の男の人が引き抜こうと剣に片方の手をかけた。


「ふん!!」

最初は片方の手で抜こうとしたみたいだったけど、全く抜ける気配がなくて、その内おもいっきり岩に足をかけて踏ん張って両手でもチャレンジしはじめた。

でもいくら気張っても剣はびくともしなかったよ。


「はい、時間切れ!次の方どうぞ!」

男の人は顔を真っ赤にして頑張ったけど、結局時間内に引き抜けなくて係りの人に交代を告げられてしまった。

見物人からは色んなヤジも飛んでいたが、それもこのチャレンジの楽しみのひとつなのだそうだ。


「輝さま、チャレンジしてみます?お金を払って行列に並べばチャレンジ出来ますよ!」


近くまで来て見てみたけど、あんな体格のいい男の人があんなに頑張って引き抜けないんだもの………僕みたいな高校生が引き抜けるわけないよね。


「マリィさん、僕はチャレンジはやめておきます。あんなに立派な男の人が抜けないんだもの。僕みたいなのに引き抜けるわけないです」

「でも『メルヘングバッハにきたのなら酒を我慢してでも伝説の剣にチャレンジしとけ』って話もあるんですよ。────まぁ、伝説の剣にチャレンジすると残念賞に地酒が一本貰えるってことも理由として有るんですが」

笑いながらマリィさんかそう教えたくれた。


「────でも、僕にはこれがありますから!」

僕はマリィさんに腰に差したフレイムソードがよく見えるように少しだけ抜いて見せた。


「そうですね!輝さまはすでに精霊の力が宿った素晴らしい剣をお持ちですものね!」

そしてニヤリと笑ったかと思うと

「早く使いこなせるように、もっと練習メニューを増やしましょうね!」

と、マリィさんは笑いながら怖いことを言うのだった。


「わはは、こりゃしばらくは輝くんは身体中痛くて寝れない状態になりそうだ!」

笑いながらデッカーさんが見物人の輪から外に向かって歩き出した。

「それより、早く飯を食べさせてくれよ!俺はこんなものより、今は飯の気分なんだ!」


「そうね、輝さまがチャレンジしないなら!どうせデッカーさんには伝説の剣は抜けないでしょうし!伝説の剣は持ち主を選ぶらしいですからね!」


「あ、またそう言う意地の悪いことを言うし!そう言う事ばっかり言うから男が寄ってこねぇんだぞ~」


「余計なお世話です~」


そんな事を言って笑ながら僕らはマリィさんおすすめのご飯屋さんに向かったのだった。

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