第53話 初めての戦い

まだ少し距離があるのでゴブリンを観察してみる。


三匹とも身長は120センチ前後だろうか。

三匹の内一匹は少し肌が浅黒く、顔のシワも深い。残りの二匹は泥で汚れてはいるが、肌の色は少し薄めで、顔のシワも少し少ない。

年齢なのか、種類なのかわからないが、少し違いのある個体がいるようだ。


また、浅黒い個体はネックレスなどの装飾品を数多く身に付けている。

他の二匹も節くれだった指に指輪などをはめていることから、ゴブリン自体がこういった装飾品に興味がある事がわかる。

人を襲って奪ったものだろうか?

そのわりに衣服は粗末な腰巻きひとつ。

光り物以外は興味がないのかもしれない。


不意に僕が首から下げているネックレスが赤く光った。

水の精霊ミッチーさんの涙が結晶になったものをネックレスにしたものだ。

元々は青い色をしていた結晶が赤く光った。

何か意味がありそうだ。

…もしかしたら僕に危険が迫った時に教えてくれるとか?

そんな僕のネックレスをみて、ゴブリンの目の色が変わるのがわかった。


「JmUag…wdmujpvn!ujnu」

ゴブリンの言葉はわからないみたいだ…と思ったが、棍棒を持っていない手で僕のネックレスを指差して手招きをするところをみると、そのネックレスをこっちに寄越せと言っているんだなと理解できた。


そう思った瞬間驚くべき事が起こった。

「ヒト族!そのネックレスを寄越せって言っているのがわからないのか!!」

ゴブリンが何を言っているのか、わるようになったのだ。


「ヒトに我々の言葉が理解できるわけないだろう!馬鹿な種族だからな!手先は器用だがドワーフ程ではない。我々の様に野生の勘も働かない。本当に中途半端な種族だ!きっと俺たちの仲間がまだいる事にも気付いておらんさ!」


ゴブリンにはまだ仲間がいるようだ。

僕がゴブリンの言葉を理解できていることに気づいていないから、色々と喋っている。


「おい、こいつは剣だけじゃなく盾も持っているぞ。



───三匹しかいないのに四方向?

こいつらは数も数えられないのかな??

そう思った瞬間、ネックレスは激しく点滅を繰り返した。

ネックレスが何かを僕に訴えている───

嫌な予感がして、僕はブーツの力を使い、高速で移動してゴブリンの後ろに回り込んだ。


そこで気づいたのは先程僕がいた背後に、もう一匹のゴブリンが弓を構えて潜んでいたことだった。


「ヒトが消えた!どこに消えた!?」

高速で移動した僕を見失ったゴブリンが騒ぐ。

「後ろ!後ろだ!」

弓矢を構えていたゴブリンが矢を放つ。

正確に僕に向かって飛んで来る矢であったが、ひどく遅く、スローモーションの様に見えた。


これもブーツのお陰だろうか?

移動するスピードが早くなるだけでなく、そのスピードに対処できるだけの反射神経や反応速度まで強化される様だ。


僕は矢を難なくかわし、火の精霊サラちゃんから貰ったフレイムソードを鞘から抜いた。


剣を受け取った後、ノマドさんに剣の扱い方のレクチャーは受けている。

思った以上にこの剣は軽いので、重さで勢いがつきすぎての自傷は起きにくいと思う。

良く聞く剣を振り下ろしたら、自分で自分の足を切ってしまったっていうアレだ。


それに、この剣には勢いなんか必要ないんだ。

剣に意識を集中する。

刀身から赤い炎が噴き出す。


「!?」

生き物は本能的に炎を怖がる。

三匹のゴブリンは後ろに一歩下がった。


後ろのゴブリンは距離が有るため、恐怖を感じることなく、こちらに対して矢を放ってきた。


僕は土の精霊アーちゃんに貰った盾、プロテクトザアースで矢を防ぐ。

このまま引き下がってくれたら無駄な殺生をしなくても済むのだけど…


そうこうしていたら背中に気配を感じた。

一度はこの場を離れた女性が僕の後ろに戻ってきたのだった。

女性は僕に言われて倒れていた男性を連れて逃げようとしていたが、どうもゴブリンはこの四匹以外にもいて、周りを囲まれてしまいここに戻ってきたようだった。


僕一人なら最悪逃げることもできたのだけど、もう戦うことを避けることは出来ないようだ。


怪我人と女性を庇いながらゴブリンと戦うことになるとは…

初めての戦いはハードルが高くなってしまった。







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