第54話 大いなる精霊の加護

 ネックレスの点滅は相変わらずだった。

 いや、相変わらずではなく、更に激しい点滅を繰り返していた。


 まずは前方のゴブリン四匹に目を向ける。

 棍棒でこちらを威嚇してくる三匹と弓に矢をつがえる一匹。


 ……囲まれているみたいだから、時間はかけられない。


 剣を握る手に力が入る。

 …やるしかない。

「!」

 ゴブリン側に飛び出し、剣を横に薙ぎ払う。

 凄まじい轟音と共に炎が前方を一閃する。


 跡形もなく焼き尽くされると言う言葉がぴったりだった。


 正直ここまでとは想像していなかった。

 そこにいたゴブリンだけでなく、草木も剣を振るった扇形に消し炭になってしまった。


 そこには敵を倒した喜びも実感もなく、自分の得た力に対する恐怖のようなものしか感じられなかった。


 もし近くに人がいたら…

 コントロールするすべを身に付けなければ扱ってはいけない力だと感じた。


 我にかえり胸元のネックレスに目をやると赤い点滅はなくなり、元の青い結晶に戻っていた。

 やはり危険が迫ると赤く点滅して知らせてくれるのかも…。

 さっきも僕の後ろにいたゴブリンの存在を教えてくれていたのかもしれない。


「危険は去ったのかな…?」

 深いため息が自然と出た。


 安堵したのも束の間、またネックレスがゆっくり点滅を始めた。


 まだそれほど危険度は高くないかもしれないが、これが本当に危険を知らせるサインだと言うならば、危険が迫っている可能性があるということだ。


 耳を澄ますが、僕の聴力では異常を察知することはできなかった。


 どうやったら今置かれている状況を正確に知ることが出来るだろうか?


 近くには座り込んでいる男女もいる。

 この二人から離れる訳にも行かないし…


 足元のウィングドブーツに目をやる。

「ジャンプ力も上がってないかな……」

 やってみないとわからないが、理屈から言えば少しはジャンプ力が上がっているとは思う。

 ただ問題はジャンプした後の着地に関して、衝撃はどうなるのかと言うことだ。

 ジャンプして着地で大怪我……そうなったら目もあてられない。


「まだ点滅はゆっくりだし、少し試してみようか…」


 靴のかかとを二回鳴らす。

 これで移動スピードは2倍になった。

 移動スピードが2倍になる様にジャンプ力も2倍に…なってほしい。

 ジャンプのスピードが速くなるだけ…って落ちだと悲しい。


 僕は大地を踏みしめて思い切りジャンプしてみた。


「た、高い!」

 明らかにジャンプの高さが増した。

 間違いなくダンクシュートが決められる高さだ。

 リングの高さって確か3メートル位で、ダンクしようとすると3メートル30センチ位必要だって聞いたことがある。

 この高さは…それを越える高さだと思う。


 下をみると少し怖いくらいだった。

 着地失敗したら結構大怪我するかも知れない。


 ─────地面が迫る。


 着地の瞬間足元に風が巻き起こるのがわかった。

 以前自室からログハウスに移動する際に、重力の軸がズレていて床に激突しそうになった事があった。

 その時風の精霊が助けてくれたように、着地の瞬間に体を持ち上げるような風が巻き起こって衝撃を吸収してしまった。


「これなら行ける!」

 僕は靴のかかとを6回鳴らした。

 そのまま勢いをつけてジャンプする。

 僕の垂直跳びは確か60から70センチくらいだったので、少なくとも僕の視界は五メートルを越えているはずだ。

 鳥瞰バードビューで周りを確認する。

 ゴブリンの群れが100メートル位離れて五つに別れて待機している。

 全て4~5匹の群れのようだったので、20~25匹のゴブリンが相手のようだ。

 小さな起伏の陰であったり、茂みの後ろに隠れてこちらの様子をうかがっている。

 僕らの位置は把握されているようだ。

 弓矢をもったゴブリンが各群れに少なくとも一人づついるのも確認できた。

 でも、棍棒を構えているゴブリンが、背中に弓を担いでいるのも確認できた。

 もし全員が弓で遠距離からの攻撃を始めたら…。

 僕は二人を守りきることは出来ないかもしれない。


 5方向から降り注ぐ矢から二人を守り、20匹を越えるゴブリンを撃退する…

 本来なら援軍が必要な状況だ。


『貴方の意思により土人形ゴーレムをも作り出すことができ、忠実なるしもべとなるでしょう…』

 土の精霊アーちゃんから盾を貰った時に聞いた説明を思い出した。


 ────ゴーレムが作り出せるなら、この場を回避できるかもしれない。


「ゴーレム、助けて!」

 呪文等は聞いていなかったから、もう直接盾に呼び掛けてみた。


 すると盾が一瞬輝き地面が盛り上ってきた。

 盛り上がった土はみるみる人の形になり、見上げる程の巨人になった。

 巨人は膝を折り曲げ僕の命令を待つような格好で待機する。


「あの二人を守ってくれるかい?」

 巨人は低い唸り声をあげると起き上がり、二人の方に移動する。


 突然出現した巨人ゴーレムに小さな悲鳴をあげる女性。

「怖がらなくても大丈夫です。このゴーレムはお二人を守ってくれますから安心してください」

 少し怯えていた女性から安堵の表情が見えたので、僕も安心した。


 するとその時ネックレスが激しく点滅し始めた。


「なにか来る!」


 僕はブーツの力でジャンプした。


 そこで見たものはゴブリン全員が棍棒を弓矢に持ち替え、一斉にこちらに矢を放つ姿だった。


「ゴーレム!上から矢が来るぞ!」


 ゴーレムは僕の声を聞くと、二人に覆い被さるように動いた。

 矢はゴーレムの土で出来た体に突き刺さる。

 矢が刺さる鈍い音がしたが、ゴーレムは動じることはなかった。

 ゴーレムは矢が刺さっても問題はないようだ。

 刺さった矢は少しづつゴーレムの体内に飲み込まれていく。

 ゴーレムのお陰で二人を助ける事が出来た。


「ありがとう!ゴーレム!」

 僕の声に答えるようにゴーレムが低く唸り声をあげる。


「反撃開始だ!」









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