第31話 保護者として?

一時間ほどたっただろうか。


部屋から腕まくりした母が出てきた。

「どこか手を洗う場所はない?」


「それならば私が…」

ウンディーネが空中に水の塊を出現させる。


「───これは便利ね!」

空中の水の塊で手洗いをする母。

ホントに物事に動じない人だと感心する。


「ありがとう、ウンディーネちゃん!」

母のお礼の言葉ににっこりと笑うウンディーネさん。

「でもウンディーネって長いわね…あだ名を付けるとして、『ウンちゃん』ってなんかトラック運転手みたいだし…」

─────考え込む母。


「水の精霊だから『ミッチー』にしましょ。皆もわかったわね?」


「…え?他の人にも言わせるの??本人の同意も無しに?」

慌てる僕に母は、

「でも本人、まんざらでもないみたいよ?」


母の言葉に、ウンディーネさんの方をみると、ぽーっと高揚した様な顔で母を見つめる水の精霊がいた。


「本人が良いなら良いと思うけど…」


「いやいや、これで満足しちゃ駄目よ」

「え?他に何かあるの?」

「ほら、見てみて!」

母の視線の先には羨ましそうに『ミッチー』を見る他の三人の精霊がいた。


「じゃあ、シルフィードちゃんは、そうねぇ、そのものズバリで『シルちゃん』とか、風なんだから、ウィンドから取って『ウィンちゃん』もありね…輝はどう思う?」

唐突に話を僕に振る母。


「え…僕はシルフィードさんって呼んでるから『シル』さんとかの方が言いやすいかな?」

「じゃ、それに決定!今日から『シルちゃん』!」


それを聞いてくるくる回りだす『シル』さん。

…ホントに嬉しいんだな。


「次は、サラマンダーちゃん…これはもう迷いなく『サラちゃん』でしょ!これっきゃないわ!だって『サラちゃん』って響き可愛いもの!イメージぴったりよ!」

目が輝く『サラ』さん。

頬も高揚でピンクに染まる。

嬉しさを噛み締めている。


「最後はノーミードちゃんね。これはとっても難しいわ…」

「まず、『ノーミード』ってなんて野元さんの『ノマド』って名前にそっくりなの?」

「誰も何も思わなかったの?彼女が可愛そうだわ!」

────どんどんヒートアップしていく母。


「土の精霊よね?『ツッチー』……ダメダメ、彼女の可憐さには合わないわ!」


「………」

人差し指を眉間に当てて考え込む母。

「…ノーミー……ミード……サンドは砂だし……クレイは粘土だし………土って英語で何だっけ……わかんないわ、ま、いっか────」


「決めた!可愛いから『ミッちゃん』」

「あの…母さん?最後の『ま、いっか』は何? それに、ウンディーネさんのあだ名がミッチーだからワケわからなくなるよ…」


「そっかー困ったな…輝、土って英語でなんて言うか知ってる?」

「土かぁ…なんだろ?でもこの場合、大地の精霊って事で『アース』じゃダメなのかな?」

「『アース!』いいね!流石は高校生!輝に聞いてよかったよ!『アーちゃん』!これで決まり!」

ノーミードさんは頬に手を当てて目を輝かせている。


「みなさん、気に入ったらお返事!────お返事は!?」

「はーい!」


「よかったわ!私娘が欲しかったのよ!娘が一度にいっぱい出来たみたい!嬉しいわ!」


「次は皆のファッショチェックよ!」

「あ、でもお腹すいたわね、野元さんの好物のマッシュポテトと、サンドイッチを作ってきたわ!」


「それならば、お茶の用意をしましょうか」


ノマドさんがパチンと指を鳴らしティーセットを呼び寄せ、サンドイッチ、マッシュポテトをいただきながらお茶にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る