第30話 恵台風

 龍之介さんが眠りに着いたので一度退出することにした。

 ウンディーネさんが付き添いに残った。


 麻弥さんは僕がいる間は目を開けることがなく、眠っているようだった。

 ひどくやつれてはいたが、とても美しい女性だと思った。

 こんな女性に龍之介さんの時のように感謝の言葉なんかかけられたら、僕は照れて舞い上がってまともに話が出来なかったかも。

 そう言う点では、今回眠っていてくれたのは、状況確認するには助かったかもしれない。


 そんなことを考えながら、ノマドさん達がリビングに使っている部屋に移動した。


 ここには僕の部屋の額縁に繋がっているドアもある。

 こちらのドアはドアノブに針金を巻き付けて、それを建物の壁についている金具に引っかけて閉まらないようにしていた。


 万が一の時は、この針金を外して現世との繋がりを切ればいいとノマドさんは考えているようだ。


 そんな事を考えているときだった。

 大きなナップサックが2つ、こちらに放り込まれたと思った次の瞬間─────

「とうっ!」

 戦隊アクションヒーローばりの掛け声と共に母がで登場した。


「十点満点!」

 両手を突き出し自画自賛の採点。


 重力の軸ズレをものともせずに初挑戦で前宙決める主婦って……


 恐怖感ってものはないのか…?

 床に置いた額縁に、勢いづけて頭から飛び込んでるんだよ?

 信じられないよ。

 同級生の親と比べると見た目は若作り…いや、若いと思っていたけども、ここまでとは……

(いや、若いとかそう言う問題じゃないよな…)


「やぁみなさんお揃いで!さぁ、患者さんはどこかな?」

 前宙にコメントを求めるわけでもなく、呆気にとられる僕達へ、単刀直入に案内を求める。

 あくまでマイペースな母。


「恵様、お久しぶりです。こんな姿をしておりますが野元でございます」


「あら、輝から聞いてはいたけど、本当に若返ったのね!私が子供の頃の姿より若い感じよね?中身は…あぁ、昔のままの野元さんね!」


 歩きながら爪先から頭のてっぺんまで母の視線は移動したが、どうしてノマドさんの中身まで目で見て解ると言うのだろう?

 ……野生の感?


「輝は『ノマドさん』って呼んでるらしいけど、私は今まで通り『野元さん』で通すわよ。いいわよね?」


「はい、私としてはどちらでも…」

 ノマドさんはにっこり微笑んで返事をする。

 複雑な対面になるかと思ったけど、混乱もなかったからノマドさんもホッとしたかな?


「母さん、今二人共寝てると思うから静かにね?起こしちゃ駄目だよ!」


「わかったわ。ちょっと傷の具合診るから、あなたがたは外で待っていて頂戴」


「それから!精霊さん達は少しエッチな服装過ぎよ!若い男の子もいるし!若いうちからそんな薄着だと冷えからくる病気になっちゃうわよ!ちょっとサイズわからないけど、この中の服合わせてみて!良いのがあったらあげるから着てみなさい!サイズ合わなくてもデザイン気に入ったのあったら後で教えなさい!作ってあげるから!」

 凄い早口で捲し立てると大きなナップサックを一つ放り投げる。


 中身は大量の洋服。

「あ、ありがとうございます…」

 複雑な表情の風、土、火の精霊達。


 …そうだよね、服装はきっと精霊のアイデンティティーにも関わるよね?

 カジュアルな服装の精霊とか…

 うーん、どうなんだろう?


 あと年齢はね、もうどう考えても人間の尺度で考えるべき問題ではないよね?

 冷えで病気?

 母はいったい精霊をなんだと思っているのだろう……?


 母が二人の寝ている部屋に入ると、しばらくしてから水の精霊も部屋から追い出されたようだった。


 ……まさに台風!










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