第29話 アリス
「ところで…龍之介さんはアリスと言う名前を口にしていたらしいのですが…」
僕は疑問に思っている事を口にした。
最初は妹さんの名前かとも思ったが、妹さんは麻弥さんという名前だという。
奥さん?恋人?
もしも大切な人に無事を知らせる必要があるならば僕が知らせてあげないと。
「………アリス?」
龍之介さんが首をかしげる。
「ごめん、心当たりはないな…」
少し考えるそぶりをみせた龍之介さんが口を開く。
「影に取り込まれた人の記憶にも『アリス』って言う人や知り合いは居なかったな……本当に僕がそう言ったの?」
「はい。ウンディーネさんが調査していた時に確かにそう言ったのを聞いたそうです」
僕がそう説明すると、横にいたウンディーネが気を利かせて水のスクリーンを作り出す。
「ご覧下さい…」
水のスクリーンには祖父の家に横たわる龍之介さんが映し出された。
『ア…リス………ア…リ……ス………』
うわ言のように龍之介さんが繰り返す。
「…本当だ……でも、本当に心当たりがないんだ……」
頭を押さえる龍之介さん。
「…すまない、少し休ませてもらえないか?……頭の中の記憶が、どれが本当の僕の記憶でどれが偽物……いや、偽物ではないか……僕以外の記憶と言った方がいいのか……あぁ……すまない、少し混乱してしまった」
龍之介さんの様子がおかしい。
いや、頭の中に何人分もの記憶が納められているのだから、混乱するのも無理はない。
少し無理をさせすぎてしまったようだ。
「すみません。お疲れのところ…。少し休んで下さい。また体調が戻られたら声をかけてください」
龍之介さんに声をかける。
「気を使わせてしまって申し訳ない。ただ、妹の記憶を消すのは早く消してやって欲しい。少しでも妹の苦しみを和らげてやってくれないか…」
「わかりました。ゆっくり休んで下さい」
龍之介さんはそれを聞くと少し苦しそうではあったが横になって眠りについた。
アリス─────
また謎が増えてしまったかもしれない。
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