第9話 影
キッシュにナイフを入れる。
サクッとしたパイ生地と少し焦げ目の付いた表面のチーズ。しっとりとした卵に茸の食感。
「おいしい!」
もう一品のフリカッセにも手を伸ばす僕。
「フリカッセって初めて食べるんですけど、生クリームと魚って合うんですね!玉ねぎも美味しいです!」
「今日は輝様が持ってきてくださった鱈をつかいました。普段は鶏肉を使うのですが、鶏肉はちょっと切らしておりまして…」
「輝様の持ってきてくださったマッシュポテトも大変美味しゅうございます…」
山盛りのマッシュポテトを頬張るノマドさん。
僕は材料を用意しただけで作ったのはノマドさんなんだけど、『作った料理を美味しく食べてくれる人を見るのは楽しい』って聞くけど、なんかその気持ちがわかるよ。
「それはよかった!また買ってくるよ」
「よろしいのですか!?」
「こんな美味しいご馳走作ってもらったんだから、せめてそれ位はやらせてよ」
「そんな事は気になさらずに。これから輝様は普段の生活を送りながら、困難を乗り越えて行かなければなりません」
「そうだよね、まず現世にいる影をどうにかしなきゃ。影が一体どんな事が出来るのか良くわからないから、もし知っているなら教えてよ」
カチャカチャとナイフとフォークが皿に当たり音をたてる。
「私も良くは知りません。ただ、今はご安心を。現世にて影が輝様にたどり着き、悪さを働くことはないでしょう」
「しばらくは、あ奴らが輝様のご実家にたどり着くことはないでしょう。あ奴らが電車を何回も乗り換えて輝さまのご実家をみつけ、輝様に手出しをするなどとは…」
「あ奴らはただいまは光一郎様の御自宅を根城に活動しております。まずそこに近寄らなければ問題はありません。」
「それに今は輝様を見失ったあの駅付近を捜索しているように見受けられます」
「私が輝様をここにお連れした日、私はあの車の近くに私の眼となるモノをおいてきました」
「私の目が監視しておりますので、万が一にも輝様やご家族の方に危害が及ぶことはないとお約束致します。…ただし、輝様は光一郎様の若かりし頃に瓜二つ、生き写しと言っても過言ではありません。今回あ奴らが輝様に目を付けたのには、その辺も関係しているのです。くれぐれも目立つ行動はお控えください」
「僕は祖父の若い頃にそんなに似ているの?」
「はい。ですから目立つ行動もさることながら、輝様は光一郎様のお屋敷には近づくべきではございません。あ奴らは亡くなられた光一郎様を手がかりに地図を探し、手に入れようとしているのです。そんな中に輝様が現れれば…」
「そういえば、事後の報告になり申し訳ございませんが、光一郎様の遺言がありましたので、光一郎様のお屋敷に有った、輝様の住所や個人を特定出来るようなものを処分させていただきました。輝様やお母様に危害が及ばないようにとの光一郎様のご配慮にございます」
「祖父は本当に色々先の事も考えていたんだね…。僕には考えも及ばないよ」
そこまで僕らの事を考えてくれたんだ。
影の事は僕が何とかしてみせないと。
改めてそう思った。
「影とはどの程度の知能があるのか、また、社会性など、現世にてどの程度順応できるのか全く不明にございます。取り憑いた宿主の影響を受けるのか…記憶の共有があるのか、など…この辺りが現在私が把握しようとしている内容です。」
「しかし、現世にて電車を使用したり、食料の調達は出来ていることから、ある程度宿主の記憶を利用して社会に溶け込む事が出来るだけの能力はあるようです。ただし、魔女の魔力を受け継いでいるのか、宿主への寄生レベルはどの程度なのか、など解っていない部分について、調査は続けます。少なくとも宿主に寄生せずに存在出来るだけの力は有ると確認できているだけに、なぜわざわざ寄生するのか対応の為にも調査が必要です。そこから、影を宿主から引き離す方法を導き出せれば勝機もみえてくるかと思うのですが…」
ノマドさんさんが指を鳴らし、食後のコーヒーを呼び寄せた。
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