第8話 腹が減っては…
「輝様、軽くお食事でもされますか?学校からそのまま来られたと推測しますが、色々と食材もあることですし、何か作りましょうか…今日はキッシュとフリカッセ、それにマッシュポテトなどいかがでしょうか?」
「おいしそう!お願いします!」
ノマドさんはいつもは指を鳴らして魔法を使っていたけど、今回は小さなタクトの様な物をどこからともなく取り出した。
「それでは…ホークスポークス!」
ノマドさんが呪文を唱えると、棚から鍋やフライパンなどが飛び出してきて、踊るように空中を舞い始めた。まるでショーを見ているようだった。
ナイフがチーズとベーコンを刻み、卵が勝手に割れてボウルにダイブした。
卵の殻は一瞬炎につつまれ、パッと空中で消える。
鱈の切り身が火の輪を潜り、玉ねぎがグツグツと煮込まれているフライパンに飛び込む。
ローリエが羽の様に舞い、ワインが雨のように降り注ぐ。
いつの間にオーブンに入っていたのか、こんがり焼けたパイ生地には、先程のボウルに飛び込んだ卵や茸、ベーコンが入っており、上でチーズがグツグツと煮えたち、香ばしい匂いが部屋中に漂った。
キッシュが出来上がり、皿に切り分けられていく。
フライパンに生クリームが注がれ、魔法の絨毯の様に浮遊してきたテーブルクロスがかけられたテーブルの上に着地した。
少し遅れてキッシュもテーブルに並ぶ。
素晴らしいマジック・ショーに気をとられていたが、ふとノマドさんの方を見て吹き出してしまった。
ノマドさんがボウルを小脇に、僕の買ってきたマッシュポテトの素を、箱の説明書を凝視しながら必死にかき混ぜていたんだ。
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