第4話 夢の中の涙
祖父の隠れ家でノマドさんから祖父の話を聞いたその日の夜の事。
色々と今までの常識から逸脱する体験に、「眠れるかな…」と心配した僕であったが、全くそんな心配はなかった。
精神的に疲れたのか、ベッドに寝転がるとすぐに眠りに落ちてしまった。
「…光一郎様、光一郎様!」
目を覚ますとそこは洞窟の中の様で、ジメっとした湿気が肌にまとわりつく感じがした。
薄暗い中で最初はわからなかったが、少し目が慣れてくると洞窟の中に作られた牢獄のようだった。
「もうすぐ盗賊が帰ってくる時間になります!ここに居ては見つかります!早くお逃げ下さい!」
必死に僕に逃げろと言う女の人。
「一緒に逃げましょう!」
「私はこの様に鎖に繋がれています。今は一緒に逃げることは叶いません。どうか、父に…金色の王に私の無事をお伝えください」
ドレスの裾を少し捲し上げると、そこには痛々しく鎖に繋がれた白い足が見えた。
鎖の先には大きな鉄の塊がついており、塊を引きずる度に肌に鎖が食い込み血が滲んでいるのがわかった。
その女の人は僕が閉じ込められている牢の鍵を手にいれて、僕を解放するためにここまで鎖を引きずってやってきたのだ。
僅かばかりに洞窟に射し込む光が反射して女の人を照らす。
洞窟には相応しくない明るい若草色のドレスに白い肌、美しい銀色の髪。
…美しい。
心からそう思った。
吸い込まれそうな位深い青い瞳。
「若草の君、必ず助けを呼んできます!」
これは祖父、光一郎の記憶だろうか。
夢の中で第三者の目で見る、ある意味冷静な自分が居た。
唐突に場面が変わった。
金色の王は若草姫を助けるために軍を差し向けた。
祖父光一郎は道案内として従軍していた。
盗賊から姫を助けるためとは言え、軍隊を向かわせるとはスケールが違う。
しかし、それを察知した盗賊は例の魔法の鍵束を使って逃げおおせた。
しかもわざわざ軍隊が来るのを待ち、軍隊の目の前で扉の向こうに消えていった。
王は嘆き悲しみ、寝込んでしまった。
盗賊はそんな王を嘲笑うかの様に、度々魔法の鍵束を使って城に現れては、財宝を盗んだり、嫌がらせにわざわざ音をたてて調度品を壊してまわったり、悪行を重ねるのだった。
次の場面では、祖父光一郎が盗賊のアジトに忍び込んでいた。
場所はこの間の洞窟ではなく、街道沿いの宿屋の様だった。
この宿屋をアジトにし、追い剥ぎの様な事をやっていたため、その情報を元に忍び込んだようだった。
残念ながら若草姫はこの宿屋にはおらず、魔法の鍵束を使い、どこか別の場所に監禁していると思われた。
盗賊を一網打尽にし、鍵束を取り返し、若草姫を助け出す…それが今回の目的だった。
祖父が忍び込む少し前、宿屋の酒場でノマドさんが盗賊達に大量に酒を振る舞った。
その際に明日の夜に宝物庫に隣国からの大量の貢ぎ物が運び込まれるらしいとの偽情報を吹き込んだ。
盗賊達はその情報に喜び、前祝いだといつも以上のペースで酒を煽った。
それから祖父が盗賊達が酔いつぶれた隙に忍び込み、鍵束の鍵を全部入れ換えてしまった。
取り替えた鍵の扉の先は軍隊が控えており、盗賊が開けた瞬間に軍隊が突撃する手筈であった。
ただ、祖父には一つ気がかりなことがあった。
もしも盗賊がこちらより一枚上手であったなら、どうするだろうと。
実際盗賊は一枚上手であった。
鍵束は本物であった。
しかし、宝物庫の鍵は盗賊の懐の中であった。
盗賊はすり替えた偽物の鍵には目もくれず、鍵束に宝物庫の鍵を取り付けた。
「ククク、お宝拝見」
盗賊が扉を鍵で開けた瞬間、盗賊の予想に反し、扉から大量の水が吹き出した。
水圧で開いた扉に盗賊は吹き飛ばされ、目を回した。
その後、宿屋の全ての窓や入り口から大量の水が吹き出した。
祖父光一郎の提案により、宝物庫の鍵穴は扉ごと外され、城の堀に沈められた。
その為盗賊が扉を開けた瞬間に大量の水が扉から吹き出したのだ。
光一郎の方が一枚勝ったのであった。
しばらくして扉は引き上げられ、盗賊は一網打尽になったのであった。
その後、若草姫は鍵束に戻した鍵を使い無事助けられた。
見ていた僕でさえ、若草姫と金色の王の再会には感極まってしまった。
心配するあまり、やつれはてた金色の王と、盗賊に監禁され奴隷として働かされていた若草姫。
それを見ている祖父光一郎達。
そこで僕は目が覚めた。
夢を見て涙を流すって初めての体験だった。
…でも、じいちゃん凄いよ。
俺にもそんなことできるかな。
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