第5話 彼方の世の魔女と地図
次の日は学校が終わるとスーパーに寄った。
これからノマドさんの待つ祖父の隠れ家に行くのだけど、お土産を買っていこうかと思ったんだ。
業務用のマッシュポテト(乾燥した粉になっているもの)に牛乳や卵などの生鮮食材。
ノマドさんは保存食でやりくりしてる可能性が高いから、たまにはこういうのはどうかなって。
…喜んでくれたら良いのだけれども。
家に帰り、玄関と勝手口の鍵を確認した。
リュックに懐中電灯や乾電池などの防災グッズを入れ、両手にスーパーで買った食材の入ったレジ袋を持ち鍵を開ける。
扉の向こうには石畳の通路。
通路にはノマドさんが立っていた。
「お待ちしておりました」
「ずっと立って待っていた訳じゃないですよね?」
「流石にそこまでは。ただ、そろそろ時間になるかと思い準備はしておりました」
ノマドさんは僕を先導するように石畳を進み、席を勧める。
「今日はお土産があるんだ」
テーブルの上にスーパーで買ったものを置く。
「これは…!?」
テーブルの上に並べられた食材達。
「卵に牛乳、果物…ノマドさん、もしかしたら買い物行けない状況なのかもと思って買ってきたんだ。…迷惑だったかな?」
「そうそう、これ、業務用のマッシュポテトの粉なんだよ!これがあればいつでもマッシュポテトお腹いっぱい食べれるよ!」
ノマドさんの方を見ると、ノマドさんは放心状態になって固まって動かない状態だった。
「おーい、ノマドさーん?」
目の前で手を振るとノマドさんの目から大粒の涙が溢れ出た。
「…私の事を…気にかけてくだ…さり、ありがと…うござ…います。光一郎様といい、輝坊っちゃんといい…なんと心優しい…」
ノマドさんは堪えきれずに嗚咽を洩らした。
僕は静かにノマドさんが落ち着くのを待った。
「取り乱し、すみませんでした。もう大丈夫です。…涙は光一郎さんが亡くなった時に渇れ果てたと思っていましたが、心がある内はいつまでも枯れることはないのですね…」
ノマドさんはしんみりと、小さな声でつぶやいた。
…じいちゃん、いい友人に出会ったね。
僕は心の底からそう思ったよ。
「…それでは、気を取り直して説明させていただきます。坊っちゃんのおっしゃる通り、今私は少なくとも光一郎様や輝坊っちゃんの住む世界、
「先日まで魔法の鍵束により光一郎様の家に繋がる扉がございました。繋げた後、閉めずに開け放ったままにした扉でございました。光一郎様の生前はこの扉を行き来しておりました」
「しかし、扉を開けたままに出来なくなったのでございます。」
「奴らの一部がこの扉の存在に気付きました。そして私が不在の時を狙って
「奴らの狙いは光一郎様の持っていた地図でした。」
「地図?何か特別な地図だったの?」
たまらずに僕は話の腰を折って質問をした。
「ある意味、宝の地図にございました。その者が欲するモノがある場所を示すとの言い伝えでした。」
「ある条件を満たせば…という謎が解ければでしたが…」
「光一郎様はその条件を見つけ出し、放浪者の国の場所を突き止めようとお考えでした」
「その地図は?どこにあるの?」
「…わかりません。光一郎様が亡くなられた後、気付いたときには消えておりました。何者かに盗まれたのかもしれません」
「奴らは光一郎様が亡くなられた事と、地図が消えた事を知ると、その血を受け継ぐ者を探し始めました。地図を託したと思ったのでしょう」
「祖父からは何も受け取ってないけど…」
「あやつらにはそんな事は些細なことなのでしょう。そこで私は光一郎様の遺言の通りに行動しました」
「光一郎様は万が一、自分の死後に封印した魔女の心臓を求めるものが現れたときは現世に渡り封筒を輝坊っちゃんに届け、彼方の世に導く様仰せつかっておりました」
「魔女の心臓?」
「はい。かつて光一郎様とその仲間が死闘の末に封印したモノにございます。」
「彼の世を闇で支配しようとしていた悪い魔女の心臓なのです」
ここでパチンとノマドさんは指を鳴らし、ティーセットを呼び出した。
「魔女は2つの体を持っていました。片方を滅ぼしても、すぐに復活を果たす。
懸賞金もかかったため、国中の豪傑、知恵者が魔女に挑みました。しかし、魔女の体の謎を解くことが出来ず、そのすべてが返り討ちにあいました」
「実は私もその中の一人でございました…。
私は魔女の体の謎を解く為に魔女の懐に潜り込みました。…魔女の召し使いになったのです。」
「私は馬鹿の振りをして魔女を安心させました。魔女は私の馬鹿の振りに騙され、召し使いに採用したのです。召し使いに馬鹿を採用した理由は、頭の良い者では自分の秘密に気づくかもしれないし、何より魔法を盗み見て自分の脅威になるかも知れないと考えていたからのようでした」
「私は順調に魔女の懐に入り込み、魔女の秘密にあと少しの所まで到達しました。しかし、私は魔女の魔法を盗み見て魔法の練習をしていたところを見つかり、魔女の逆鱗に触れた私は、彫像にされて荒れ野で野ざらしになっていたのですよ」
ノマドさんは一気にカップのお茶を飲み干した。
「そこを光一郎様に助けられました。光一郎様とはそれ以来のお付き合いでした」
「光一郎様は魔女の秘密にせまり、魔女の隠していた、たった一つの心臓を封印されました」
「魔女の体は2つありましたが、心臓は空っぽでした。弱点であるたった一つの心臓を切り離して隠していたのです」
「弱点の心臓を見つけ出した光一郎様と言えど、魔女を完全に滅ぼすには至りませんでした。彼の世の魔女とはそれ程の存在だったのです」
「魔女は心臓を封印される前に、2つの体から2つの影を切り離しました。2つの体は心臓が封印されたことで体の形を維持できずに崩れ去りました。しかし、2つの影は光一郎様のお仲間の影に取り憑き生き延びたのでした」
「取り憑かれた人はどうなったの?」
思わず聞かずにはいられなかった。
「残念ながら、最後は影に乗っ取られ、非業の死をとげられました…。影はそれからも人から人へ乗り移り、再起の時を狙っていたのです」
「もう聡明な坊っちゃんならお気づきの事と思いますが、それが今、現世にて輝坊っちゃんを付け狙っている存在、この部屋の扉を通り、彼の世より現世に溢れ出たモノにございます」
「奴らは
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