第2話 教科書

「.....教科書.....」


「.....あ、有難う。後で一緒に見ようね」


「.....」


クラスの男子と女子が長家に質問攻めをしている僅かな隙に俺は長家に話し掛けた。

何だか知らないがコイツと話していると気が狂いそうになる。

俺はその様に思いながら、あまり話をしない様にして長家にポンと渡した。

すると、直ぐに男子と女子がまた質問攻めを行いだしたので。

逃げる様に俺は横の椅子に腰掛けた。


人は嫌いだ。

面倒ごとは嫌いだ。

俺を嘲る視線も嫌いだ。


だから俺は人に関わらない。


「.....」


腰掛けてから見る外。

桜の花びらを持って動いている、鳥。

あの色鮮やかな鳥は何だっけな、とその様に思う。

しかし思うけど、本当に鳥は良いと思う。

何故なら一人で孤独に生活が出来るから、下手に関係を築く必要も無いから。

羨ましいし、鳥になりたいもんだ。

一人が良い。


「ハァ.....」


「ねぇ。麹町くん」


「うあ!?何だよ」


声にビクッとしてしまった。

唐突に声がしたので、だ。

横を見ると、いつの間にか俺の側に背中に腕を回す感じでチャーミングな笑みを浮かべている長家が居た。

背後に眉を顰める、奴らを置いて、だ。

ちょっと待て何だ一体。


「1限目までまだ時間有るし、麹町くんにこの学校を案内してほしいな。良いかな?」


「え?は、はぁ!?嫌に決まってん.....」


と思ったがクラスの悪の視線に。

これ以上俺の立場を悪くするのも如何なものかと思った。

クラスで面倒臭い程に更に浮いてしまう可能性が有る。

俺は盛大にため息を吐いた。


「.....クソッ。.....良いよ」


「え?本当に?有難う」


ニコニコしている、長家。

何なんだコイツ、本当に気が狂うな。

俺はその様に思いながら、立ち上がる。

何でお前なんだ。

という感じのクラスメイトを置いてだ。

そんな長家は後ろから静かにテトテトと効果音でも出そうな感じで付いて来る。

面倒ごとなら幾らでも変わってやるよ。

くそ。



何で案内が俺なのだ、本当に意味が分からない。

少しだけ苛立ちながら舌打ち混じりにその気持ちを抑えつつ歩く。

とにかく、さっさと終わらせよう。

その気持ちを持って。

だが、その間もずっと長家は話し掛けてくる。


「有難うね。麹町くん。不安だったんだ。私」


「.....」


「.....私ね、あまりお友達が居ないんだ。だから.....もし良かったら.....お友達になってくれない?」


「.....」


俺は隣に立っている、長家を静かに目線だけ動かして見る。

ニコニコしていた。

身長は俺よりも1センチほど低いだけの様に見える。

マジで身長高いな、コイツ。

と思いつつ、更にウザいと思いながら歩く。

本当に何なんだ気が狂いそうだ。


「.....友達は嫌いなんだ。他のやつに頼めよ」


「え、あ、えっと.....でも.....」


「.....ああもう!」


何なんだこの目。

不安げな目になるな、気が狂う。

俺はその様にだんだんと来る怒りを思いながら、目の前を見据える。

本当にイライラする。


「.....友達は嫌だ。だけど、知り合いなら良い。.....これ以上は面倒臭い」


「え?あ、有難う!」


俺は静かに長家を見る。

長家は俺を笑顔で見つめてきている。

何だコイツは。

一体、何を考えているのだ?

というか、考えが出来ないんだが。


「ところで、こっちが保健室?」


「.....そうだが」


「こっち、職員室?部室?」


「まぁ.....そうだ」


シコリが取れない。

俺は立ち止まって静かに長家を見据えた。

そして、睨みつける訳じゃ無いが鋭く長家を見る。

長家は俺を首を傾げて見てきた。


「.....お前、何を考えている?」


「.....え?何を考えているって?」


「俺は.....転校生に頼られる程.....アレな人間じゃ無いのに俺を頼るって?おかしいだろ普通に考えて。クラスにはもっと良い奴が居るぞ。俺の観察では」


「え?あ、そうだね.....えっと.....簡単に言えば、君から優しさを感じたから」


は、はあ?と声が出そうになる。

まさかだった。

直球な台詞が帰って来て俺は見開く。

その様に言われるとは思って無かったから。

俺は盛大にため息を吐いて踵を返す。

それから、案内を再開した。


「.....」


頭の中で複雑な考えを巡らせながら、だ。

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