第5話 トランスポート

「騙されたような形になってしまったのは仕方ないんですが、祖父が大事にしていた物を価値を確かめもせず粗末に扱ってしまったことを、父は今でも気に病んでいるんです。」


有希ゆきはそこで話を締め括った。


「趣味の世界でコレクターの方が亡くなると、よくある話ですね。」


「コレクターは自分のコレクションの価値を家族に話していないことが多いんです。そんな物に大金を使ってと言われたくないんでしょうね。だから亡くなられた後、遺族の方が騙されたり、価値に気付かず捨ててしまうというようなこともあるんです。」


店主は、ため息をついた。


きっと有希の父と母は、有希と同じように人のよい性格なのだろう、たぶん亡くなった祖父も。


「週末にグッチーノを引き揚げて持って来ますので、修理をお願いします。」


有希は深々と頭を下げた。


「引き揚げには、私も行くよ。」


美生が言った。


「私も行くわ。」


有希が何か言う前にけいも言った。有希を美生と二人きりにはさせないという気迫が溢れている。


「私、免許持ってないんで助かります〜。よろしくお願いします。」


有希が答えた。


「「「えっ!?」」」有希以外の3人が固まった。


「グッチーノは65ccだから、小型二輪の免許が必要ですよ。」


店主が驚く。


「それは、なんとかします〜。」


有希は人のよさそうな笑顔で答えるのだった。

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