第23話 正義の街

「火花! 火花! 返事して!!」

「う……うううん」

「火花⁉ 大丈夫?」

「大丈夫か火花」

「大丈夫ですか火花さん!

「…………お前ら、誰だ?」

「嘘……うそ、本当に覚えてないの?」

 火花はひょいと立ち上がると、あっけらかんと言う。

「ああ、全然わからないな!」

 火花を囲む三人の表情が歪むよりも早く、火花は三人を抱き寄せた。

「でも、その表情、分かるぜ、私を大切に思ってくれてる、なら友人かな!」

「ぅう、うぇええ!!!全然よくないけどよかったぁあ! 火花が火花でよかったぁあ!」

 顔中の穴という穴から汁をまき散らし、カンナが火花にしがみつく。

「私、御剣神無っていうの、火花とは将来を誓い合った仲なんだよぉおお! うあああああん! いつ式上げるぅう⁉」

「悲しみながら洗脳するな!」

「お前は覚えてるぜ、ゴリラだろ?」

「ちげぇえ! 唐井正樹! 一緒に戦場を走り抜けた仲だろ⁉」

「ハッハッハ! ちっとも思い出せないけど、お前らおもしろいな!」

 正樹とカンナが泣いたり悲しんだり笑ったりする中、火花は遥香を引き寄せた。

「火花さん」

「悪いな、あんたのことも私は覚えていないっぽい、けれど、どういうわけか、これをあげないといけない気がするんだよね」

 火花は両の手袋を外すとそれを遥香の手に置いた。

「どうしてこれを私に?」

「いや、自分でもわからないんだけど……昔、私もこうしてもらった気がするんだ」

「……火花さん、もしかして師匠のことを」

 それ以上遥香の言葉は続かなかった。見れば正樹もカンナを完全に動きを止めている。

 空気の流れも、音もなない、完全に世界が停止していた。

「なんだこれ」

『おめでとうございます、あなたの正義は完了しました』

 二重の声が聞こえたかと思うと、火花の前に巨大な扉が出現する。扉の両脇には寸分たがわぬ造形の少女が二人。

『紅火花様、お迎えに上がりました』

「旅行に行く予定はないんだけど?」

『旅行ではございません、これからあなた様をセイギの街にお迎えします』

「セイギの街……セイギの街か、それは聞き覚えがあるぜ、確か、私の目指してたところだ、いいぜ、案内しな」

『かしこまりました』

 扉が左右上下に分かたれ、まばゆい光が周囲に満ちる。

 火花はにやりと笑うと、赤いコートを揺らし迷わず光の中へと歩を進める。

 最後に後ろを一瞥し、手を挙げた。

「これも言っておかないといけない気がするな」


「セイギの街を目指せ」

 

火花の姿が光の中に消え、扉がぱたりと閉じた。

『対象正義、紅火花、セイギの街への収容を確認』

災害種無差別正義、残存ゼロ』

『正義の仕組みはこれをもって消滅します』

 扉と二人の少女が壊れていく。

『秩序ある世界の存続を願って』

『さようなら、世界』

 



「あれ、火花は?」

「また、あいつ消えやがったのか!」

 カンナと正樹があたりを探し回る中、遥香は手元に残った手袋を握りしめる。

 あらゆる悪を貫き、正義を示し続けた少女の形。

 白い手袋に幾重にも刻まれた皺がその壮絶を物語る。

 何かが受け継がれたのだと、遥香は理解した。

 上る太陽に照らされて遠くの空が白んでいき、やがてまばゆい光線が遥香を照らす。

 まだほのかに温かいぶかぶかの手袋を両手にはめ、遥香はその手を太陽にかざした。

「火花さん、私、頑張ります」

 握りしめた拳は太陽を掴み、燦然と輝く。

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セイギの道 二十四番町 @banmati

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