第22話 彼女の証明


 自己のパズルが崩壊していく。

 火花という自己を構成した数多の記憶が次々に抜け落ち、奈落の底へと消えていく。

 痛みはない。感覚もない。ただただ意識が薄れるのを、どこかわからぬ場所で感じている。

 あぁ、これが忘れるということなのか。

 私は忘れないように努めてきた。どんな善も、どんな悪も受け入れ、咀嚼し、正義を燃やす糧にした。

 そういえば、どこを目指さしていたのだっけ。

 ああ、そう、セイギの街だ。

 師匠を求めて、夢想の大地を目指していたのだった。

 その道程で様々な人と出会った。

 ロミア、セバスチャン、正樹、カンナ、遥香、他にもたくさん。

 その中には救えた命もあれば、奪った命もある。

 今や記憶は言葉を解せるのが不思議なくらい減ってしまった。

 あといくばくもなく、私は消えるだろう。

 消える、消える、私が消える。

 それは、どういう意味だろう?

 私が消える、それは、ああ、それは––––––––

 

正義が消えるということだ。


パズルの崩壊が止まる。

意識してみれば、穴だらけの自分がいる。

裸の自分の腹に空いた穴から、何か熱いものが輝いている。

私はそれが何か知っている。

師匠と出会ってからずっと信じているもの。

誰もが持ちながら、誰もそうなろうとはしないもの。

私はそれが失いたくなくて、ここまでやってきたのだ。


ああ、そうさ、その名は正義。


希望を託せる唯一のもの。

どんな不条理も、どんな絶望も、打ち砕く最後の武器。

拳が熱く燃え上がる。私はそれを振るい、暗い世界に穴を空ける。

穴から覗く光明へと、体を滑りこませながら、思う。


目指すのだ、正義の街を!

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