第11話 安息の夜
遥香の家はごく普通の一軒家だった。
手慣れた様子で料理の準備を始める遥香を眺めながら、部屋の確認をする。
冷蔵庫やレンジなどの家電製品はあるが、テレビはない。日用品は市販のもので、この街は自給自足というわけではないようだ。
存在しえない街でありながら、外とは交流がある。
そんなことがあるのだろうか?
電力は自家発電だとして、品物の移動がある以上、ロミアの情報網を掻い潜ることができるとは思えない。しかし、実情はロミアですら把握できていない。
正樹達の痕跡、抜け殻の神社、消えた住人、この街にはあるべきモノがない。
何かが意図的に、それらを消しているのだとしたら、その理由はなんだ?
「ごめんなさい、ヒバナさん、缶詰しかないので、適当なものしかつくれないんですけど」
「くいもんってのは、口に入って毒がなくて温かければ、上等だ、味があったら贅沢ってね」
「はえー、すごい考え方ですね」
「世界中を飛び回ってると、貧乏性が身に着くものさ、だから人生を楽しめる」
「世界、世界ですか、私には想像できないですね」
「そういえば遥香はどの程度、外のことを知ってんだ?」
「両親が言うには、年齢相応の教育はしてあるらしいですよ、たぶん、いつかこの街から出そうと思っていたんでしょうね」
遥香はフライパンで缶詰の何かを熱しながらそう言った。香ばしいタレの香りと、魚の匂い。そこに調理酒らしきものが足され、匂いは甘いものに変わる。
「ほんとうに偶になんですが、ここでは住民がいなくなることがあるんです、たぶんだけど、ここから出て行ったんだと思います」
「遥香は外に出たいと思わないの?」
「そうですね……正直言うと、出てみたいと思います」
「色んな綺麗なものや、すごいものを見て、たくさん感動したいんです」
「私は捨て子で、何もなかったから、人一倍よくばりなので」
「たくさんのものを自分の中に取り込んで、何か、自分だけのものが欲しいです」
「でも、私、この街の人たちがだいすきですから」
「きっと、なんだかんだ言って、ここに一生いたんじゃないかな」
「はい、お料理できましたよ!」
ぶつ切りの魚と千切りキャベツ、それから煮卵とほうれん草の胡麻和え、それからご飯とみそ汁がテーブルに並んだ。
「いつもは一品だけなんですけど、今日は特別です! さあ、召し上がれ!」
「いただきます」
「ずず……うん、うまい」
「お粗末さまです」
遥香と色々な話をした。
一人でどれだけ心細かったか、私が今までに赴いた街の話、この街での生活、外に出たら何をしたいか、怖い夢を見ること……よほどため込んでいたに違いない。途中途中食事を止めながら、私たちは夜更けまで話こんだ。
夜の十二時を周り、遥香が船を漕ぎだしたので自然とお開きになり、私たちはそれぞれ眠りにつく。
誰もいない街は恐ろしく静かで、心臓の鼓動が良く響く。
そういや、師匠と別れてすぐは、こんな日には涙を流したりもしたな……
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