第8話 調査開始

「皆さんは何をされてる人達なんですか?」

「正義だぜ!」

「強いて言えば傭兵だ」

「火花のお嫁さん!」

カンナの素朴な疑問に三者三様、適当な回答をする。遥香は逆に混乱してしまったようで、目をパチクリとしていた。

「私たちをまとめるならお助け屋ってところかな、西で助けての声があれば西行って、東で誰か! って呼ばれたら東に行く、そんな感じ」

「今回は遥香ちゃんの助けっていう声に呼ばれたわけだ! 飴いるかい?いちごヨーグルト味」

「えっ、あっ、どうもです」

正樹が気さくに飴を渡し、ニカりと笑って見せる。遥香が飴の包装紙に手こずっていると、それを剥がしてやり、自分も一つ口に放り込んだ。

「しっかしなぁ、住民探すったって、どうするよ? なんか当てはあんのか?」

「遥香、なんかほんの少しでもいいんだ。みんながいなくなってから、気づいたことってない?」

「いえ……友達の家とか、近所のおじさんの家とか、入ってみたけど、いつも通りで、何もなかったです」

「荒らされた跡とかも?」

「はい」

 カンナ、正樹と目配せする。

 これは、想像以上にキナ臭い。力尽くで住民を消したのなら跡は残る。逆に信用のある人間に騙されてって何かされたという話なら、跡は残らないかもしれないが、他の住民に気付かれず全員を消すのは難しい。

  何より後者の場合、もっとも犯人に近いのは……

 カンナがポケットに手をつっこみ、たらりと糸を落とす。人形のような目で、私に問う。

『コイツ、殺す?』

 状況からして、この子は怪しすぎる、人が消えた原因かはわからないが、もしも遥香にその力があるならば、彼女は誰にも気付かれず複数の住民を消し去ることが出来るわけだ。

命あっての物種だ、やられる前にやった方がいい。

 私はカンナの肩に手を置き、首を振った。

 だけど、それは私の正義に反するんだ。誰もが悪だったとしても、断罪するならそれに足る理由がいる。

 だから、今は保留。

 カンナは私の気持ちを汲み取ってくれたようで、糸をポケットに戻した。

「はー、本当、人がいいんだから火花は、なら手分けして探そう、私は東ね、なぁんかそっちの方が臭うんだよね」

「じゃあ俺は西だな、住宅街っぽいし突撃お宅訪問と洒落込むぜ! ちなみに美人の住んでた家とか知ってたら今のうち教えてくれないかな、遥香ちゃん?」

「変態の話は聞いちゃダメだぞー、私は遥香と回るから、あとでここに合流な二人とも、何かあったら合図だけして逃げろ、今回の案件は胡散臭過ぎる、命を大事にだぜ」

「おうよ!」

「ヒバナも、気を付けて」

 正樹は意気揚々と見回りにいき、カンナは遥香を一瞥して去っていった。

「あの、わたし、なにかカンナさんに悪いことしましたか?」

 お互いの自己紹介は既に済んでいる。同い年くらいのカンナをさん付けで呼ぶ当たり、カンナの敵意に気づいているようだ。

 あいつもまだまだだな。

「気が張ってるだけさ、さて、私たちも回ろうか、なんか目星ってある?」

「一つだけ、行ってないところがあります、お祭りとか、特別な日にしか子供は入っちゃいけないって言われてて、なんだか近寄るのが怖くて」

 遥香が指をさしたのは街の北。鬱蒼と木の茂った山の斜面に、赤い鳥居と神社の屋根が見える。

「忘れられた神を守る町の神社ねぇ、こりゃお誂え向きだな」

 カンナがいの一番に反応しそうな場所だが、反応しなかったということは、あそこにはおそらく何もない。

 カンナからしてみれば、目に見えるモノよりも感じるものが真実。 だけど、私みたいな普通の人間がみれば、そっちの方がおかしい。

 何もないのにある。

  どう考えても怪しいだろ?

「どうしました? 火花さん」

「もしかして、サプライズパーティーかもな」

「へっ?」

「私って世界中旅してるんだけど、以前立ち寄った村では、旅人が来たらみんな隠れてさ、ワッと驚かすことで、外から来た悪霊を追い払うみたいな村があったんだ、で、そのあとは宴会、実はそんな風習あったりしない?」

「聞いたことないです」

「ざぁんねん、じゃあ案外みんなして旅行とか行ってたりしてね」

「私だけ置いてですか……ずるい」

「ハハハ! 冗談だよ、遥香だけ残していなくなったのにもみんなが出てこないのにも、きっと理由があんのさ、気楽に行こうぜ」

 背中を軽く叩いてやると、遥香は困ったような笑いを浮かべる。助けが来るかもわからない町での一人の生活とはどんなものだろう。きっと心細く、不安で苦しいものに違いない。だからこそ、遥香は私たちを見て、涙を流した。

 その涙に嘘があるようには思えなかった。

 誰が悪なのか、見極める。

 正義の時間だぜ。

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