第7話 陰陽師の隠れ里

「ぐすっ、ぐすっ……ごめんなさい、急に泣いたりして」

「ナイスパン、ツぅう⁉」

 正樹の脇腹に一発入れて横にのける。

「……あほ」

「それで、一体全体何があったら、町の住民が綺麗さっぱり消えるんだ、というか、ここは何だ?」

「みんなが消えた理由は分かりません……突然消えてしまったんです。いつもみたいに、朝起きたら、母も父もいなくて、それどころか、町中探しても誰もいないんです」

遥香は自分の体を抱いて、身を震わせた。大の大人だって、朝起きて自分以外誰もいなくなっていたら、恐怖するだろう。子供ならなおさら。

「よく一人で頑張ったな」

「……はい」

遥香の頭を撫でてやると、少しだけ肩の力が抜けるのが分かった。

「で、後者の質問には答えてもらっていないんだけど?」

カンナが遥香を押しのけて、自分の頭に私の手を置く。大人気ない。

「ここは、陰陽師の隠れ里です」

「まあそんなところだとは思ったけど、このご時世によくやるわね、そこまで隠したいものがあったのかしら? もしかして、非人道な人体実験場だったりして」

「違います! 町のみんなは優しい人でした! みなしごだった私も、大切に育ててくれました!」

「どうだかねー、案外あんたの知らないところではあだっ!」

「カンナ、言いすぎだ」

「……ごめんなさい」

カンナがすごすごと下がり、私が叩いた頭をさすっている。

「悪かったね、あいつも昔色々あってさ、根はいい奴だから許してくれ」

「いえ……なぜみんなが隠れて住んでいたのかは私もよくわかりません、ただ一度聞いたことはあります。ここには、忘れられた神が眠っていて、自分たちはそれを守っているって」

「神? そういえば町の入り口に鳥居があったな」

「どこぞの誰かが豪快に蹴り倒したけどな」

「見、見ていました、絶対にアレには悪さしてはいけないって言われていたのに……」

「ハッハッハ! 正義の行く手を阻むものは蹴潰す!」

「全然悪びれてねぇなこいつ」

 当然、私、悪いこと何にもしていない。

「しかし、神とはまた大きくでたな、どうだ、カンナ、何か感じるか?」

「神気は感じるよ、けど自然崇拝の神は山や川だし、言って見れば今私たちは神の上だから、神気がそこら中にあって、ちょっと特定するのは難しいかな……けど、何か混ざってるのは確か、その子の言ってること、あながち嘘じゃないかもよ」

「となるとまぁ、どうしようかな、私は助けてっいう手紙を受け取ったから来た、だから遥香ちゃんを連れて山を降りれば、それで万事解決……ていうわけにはいかないよね」

遥香の目線に合わせて、しゃがむ。怯えた目の向こうには、助かりたい、怖いなんていう感情より、もっと崇高な光が見える。

「遥香はどうしたい? 私は正義だ、なんでも出来るぜ」

「……町のみんなを助けて欲しいです、どこにいるかも分からないけど……ダメですか?」

「ダメなものか! それぞ正義の心ってやつさ、その依頼、この紅火花が請け負った、この町で起きてること丸っと解決してあげるぜ!」

「かーっ! 出たよ、火花の安請け合い、これは俺の直感だけどよ、この件はヤバイ、現場は平穏だけど、ほんの一キロ先では敵が双眼鏡越しに俺らを見てる、そんな時とおんなじ感覚だ」

「いいの、いいの、こっちは正義がいるんだ、何が来てもへっちゃらさ」

「また適当なことを、俺みたいな普通の人間は、こういう第六感でも信じないと死ぬんだけどな」

「お前だけ辞めてもいいんだぜ?」

「それじゃぁ、言葉に甘えて! とはいかねぇさ、乗りかかった船だ、最後まで付き合うに決まってるだろ」

「もちろん、私もだよ! 火花と一緒なら地獄にだって行くんだから」

「だとさ、遥香、君の願いは叶うぜ、なんせ正義とバカ二人もついているんだ、名も無き神なんかよりずっと頼もしいだろ?」

「はい……ありがとうございます!」

遥香は潤んだ瞳を擦り上げ、ひまわりみたいな笑みを浮かべた。

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