第6話 手紙の少女

「ふー、ようやく打ち止めっぽいな」

「いやー耕した耕した! せっかくだからなんか苗でも植えるか?」

「ゴリラちょうどいい寝所があるよ」

「俺を穴に誘導すんじゃねぇ……!!」

戦闘開始から1時間。地面には無数のクレーターが生まれ、辺り一面式神の残骸で真っ白になっていた。

「随分と余所者が嫌いっぽいね、ここの連中」

「そもそも住民とかいんのか、あんだけどんぱちやったのに反応ゼロって、ありえなくねぇか?」

「手紙には『誰もいない』って書いてあったんだよね、あながち嘘じゃないかもよ」

「ま、詳しいことは聞くしかないぜ」

三人で顔を見合わせる。どうやら全員気づいていたようだ。

カンナが糸の先にお札を結び、地面に突き刺した。糸はまるで地中の魚に引っ張られるかのように、街の方向に向かって、張り詰める。

後を追うように歩き始めると、暫くして街の中から可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

「おっ、なんか釣れたよ」

「どれどれ、ご対面っと」

家をいくつか飛び越して、一足早く声の出所に到着。

宙から降ってきた私に驚いたのか、地べたに転がる声の主は、全身で跳ねてみせた。

「やぁやぁやぁ、まさかこんな可愛いらしいお嬢さんが、覗き魔とはおねぇさんちょっと照れちゃうな、サインいる?」

カンナの糸でグルグル巻きにされ、口にはお札が張り付いた、その少女は、目頭一杯に涙を浮かべ、暴れていた。

「ごめん、ごめん、すぐ解いてあげるから」

そう言ってお札を剥がしてあげるやいなや、少女は私の鼻先に噛みついてきた。もちろんなんなくかわすけど。

「あなたたちが、犯人なんでしょ!」

「はぁ?」

 体を拘束する糸も解いてあげたら、少女は猛然と、拳を突き出してきた。それを握って受け止めると、今度は蹴りを入れてくる。ちょっとだけ相手をしてあげるが、全く猛攻が収まらないので足を掴んで宙ぶらりんにする。

「は、離して! みんなをどこへやったの⁉ 返して! 返してよ!!」

「なんか誤解があるっぽいぜ、まず君は誰さ?」

「うるさい! 名を名乗るなら自分からでしょ!!」

「ははは! それもそうだな! 私は紅火花、正義だ」

「私は遥香、何が正義よ! みんなをどうしたの! 返して!」

「どうどう、まあ、話を聞けって、私はこの手紙を受け取ってきたんだ」

 片手で片足を掴んだまま、遥香に手紙を見せてやる。

 途端遥香の全身から力が抜け、だらりと腕がぶら下がった。

「私の手紙だ……じゃあ」

「ビンゴ、巡り合えてよかった、助けにきたぜ」

「ほんとに、ほんとにたすけにきてくれたの?」

「おうとも!」

「……ぅう、うわぁああああああん!!」

「あ、おい、泣くなって」

「ヒバナ、速すぎー、って誰よその泥棒猫!?」

「うわっ、火花の野郎、女の子を宙づりにして泣かしてやがる、ド変態だ!」

「いや、違くて」

「クソッ、そこを退きなさい! けどうろたえてるヒバナもかわいい……パシャリ」

「ド変態だ、パシャリ」

「やめろ、お前ら!」

「ぁあああああああんん!!! 降ろしてぇぇえ!」

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