第11話 【ソルジャー】魔物との戦い
その数日後、私は再びアリーナに立っていた。シグルドとの『差』を実感した私だが、だからと言って今更後に引くことは出来ない。私はただ与えられた道の上で精一杯抗う以外に選択肢は無いのだ。
今日の私の相手は……
私の目の前には人間の子供ほどの体格の、緑色の肌をした醜く不衛生な生き物がいた。やや猫背気味な姿勢。澱んだ白濁した瞳、特徴的な大きな鉤鼻。
いわゆる
そんな魔物が……全部で5体。私の前に並んでいて、粗末な短剣や鉈などの武器を持って私を威嚇していた。対して私は1人。数の上では圧倒的に不利だ。
【ソルジャー】階級になると、魔物との戦闘が解禁される。先日のシグルドの【防衛戦】によって、【ソルジャー】階級の剣闘士が一時的に不足していた事もあって、私の相手はこの魔物達となった。
魔物にはレベル1からレベル10までの【脅威度】が設定されており、軍による討伐や駆除の優先順位が分けられている。
レベル1と2は【個人規模の危機】とされる脅威度で、訓練を受けた軍人であれば1人でも問題ないとされるレベルだ。目の前のゴブリンは
因みにレベル3と4が【村や集落規模の危機】
レベル5と6が【都市規模の危機】
レベル7から8が【大都市、都市国家規模の危機】
レベル9が【国家規模の危機】
レベル10が【大陸規模の危機】
という分類となっている。
シグルドと三日三晩の死闘を繰り広げた【邪龍王】ファーブニルは最高のレベル10とされている。私の目の前にいるゴブリンとの絶望的なまでの差が浮き彫りになる。
だが私にはその差を嘆いている暇はない。差があるというのなら、それを縮める努力をしていくまでだ。
魔物には開始の合図など関係ない。5体のゴブリンが思い思いに襲いかかってくる。敵の数が多いので受けに回るのは不利だ。私は先日見たシグルドの姿を思い出してこちらから一直線に敵の群れに突撃を仕掛ける。
「グギャッ!?」
こちらから恐れ気もなく向かってくるとは思っていなかったらしく、ゴブリン達がやや慌てたように怯む。その隙を逃す手はない。
最初に狙うのは粗末な槍で武装したゴブリンだ。槍を突き出してくるがその速度は精々【コンスクリプト】程度だ。私は余裕を持ってその穂先を盾で弾く。すると体重の軽いゴブリンは大きく体勢を崩す。
私はその頭に真上から小剣を斬り下ろす。骨を砕く感触と共にゴブリンが体液を撒き散らしながら倒れる。凄まじい悪臭に思わず顔を背けたくなるが、他のゴブリンが襲ってきた為にそんな余裕はない。
「ギャギャッ!」
短剣を持ったゴブリンが飛びかかってくる。正面からは鉈を持ったゴブリンが迫る。
「……!」
広いアリーナだ。囲まれれば非常に不利だ。私は無理せず今度は思い切って後ろに跳んで後退する。ゴブリンの攻撃をいなしながらどんどん後ろに下がる。すると連中は追撃速度の差からやがて縦一列のような状態になる。
ここだ!
私は一転して前進し、先頭にいるゴブリンに向かって剣を突き出す。急に反転してきた私の動きに対処できずに先頭のゴブリンは喉を刺し貫かれて死んだ。後3体。
仲間の死体を乗り越えて後ろのゴブリンが涎を撒き散らしながら飛びかかってくる。左右からはそれぞれ後続のゴブリンが回り込んでくる。このままここに留まると3方向から同時に攻撃を受けてしまう。
私は正面から飛びかかってきたゴブリンの攻撃を、右に避けて躱した。そのままそのゴブリンを無視して右から迫ってきていた奴を狙う。鉈を持ったゴブリンだ。鉈を振りかぶってくるが遅い。
私は一気に距離を詰めて、振りかぶった動作でがら空きの胴体に剣を突き入れる。これで後2体だ。ここまで来れば後は大分楽だ。
「グギギ……!」
ゴブリンの1体が破れかぶれに襲ってくるが、私は冷静にその攻撃を盾でいなして、反撃でその命を断つ。後1体。もう勝ったも同然だ。と思った瞬間――
「グギャァッ!!」
「……ッ!」
死んだもう1体の後ろに身を隠していたらしい最後の1体が、口から泡を吹きながら飛びかかってくる。死角からの攻撃と私自身の油断とが重なり反応が遅れた。短剣による攻撃は盾で防げたものの、そのままの勢いで身体に飛び付かれてしまう。
「く……!」
その衝撃に私の身体は抗えずに地面に倒れてしまう。そのまま伸し掛かってくるゴブリン。観客達が大きな歓声を上げて興奮する。
ゴブリンが狂ったように短剣を振り下ろしてくるのを、私は無我夢中で盾で振り払う。ガツンッ! と鈍い音がしてゴブリンの攻撃が緩む。チャンスだ!
私は右手に握ったままだった小剣を突き立てた。それはゴブリンの側頭部に突き刺さって反対側に抜けた。ゴブリンが大きく痙攣し動かなくなる。
初の魔物との「試合」は、こうして私の勝利に終わった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます