第22話 わたしの魔王様

 前回のあらすじ。

 あなたは死んでしまいました。

 かわいそうに。

 ですから、私が転生させてあげましょう。

 ただ、そのまま転生させるのでは芸がないですよね。

 なので、私があなたの人生を面白おかしくする手助けをしてあげます。

 感謝はしなくても結構ですよ。

 私が好きでやってることですからね。

 私の趣味でやってることですからね。

 おや?

 もうすぐ目覚めの時ですね。

 さあ、勇者よ。

 目覚めなさい。

 そして、あなたの使命を思い出すのです……。






 わたしは、捨て子だった。森の中で拾われ、レスリリア教会の孤児院で育てられた。この頃から既に教会の中でだけ生をもたらすレスリリア様の声が聞けたため、他の孤児達とは離され、法王様の指導のもと巫女となるための教育を受けることになった。


 言われるがままに、されるがままに生きてきた。しかしそれも長く続かず、七年前、肩から肘にかけて鳥の羽毛のようなものが生えだしたことで法王様の態度は一変した。


 それまでは我が子を愛でるように接してきたのに、あの日からまるで腫れ物を見るような目を向けてくるようになった。掛けてくれる言葉は変わらないが、声をかけてくることが少なくなった。今まで見てきた人とは全然違う、わたしを奇異の目で観察してくるゴードンとかいう学者に相手させるようになった。


 幸せかと問われれば深く考えもせずに頷けていたのに、今は幸せかと自問し続けてしまう。

 わたしは幸せなのだろうか。

 わたしは幸せだったのだろうか。

 わたしは幸せになれるのだろうか

 幸せ……幸せって、なに?


「おい、お前名前なんつーの?」

「わ、わか……ま、せ……」

「ふーん。じゃあ巫女様で良いよな」

「は……い」


 魔王様がわたしのことを考えてくれてるだけで、幸せ……!

 五年も待たされちゃったけど、でも逆に考えれば五年もわたしのことを忘れずに考え続けてくれてたってことで、わたしも魔王様のことをこの五年間毎日考え続けてたから、これはやっぱり相思相愛ってことだよねっ。

 魔王様はわたしのことだけを見ていてくれる。

 魔王様はわたしのことだけを考えていてくれる。

 なんで?

 だって、わたしのことが好きだから。わたしのことを愛してるから。

 わたしは魔王様のもので、つまり魔王様はわたしのもの。

 魔王様とわたしは運命、ううん、宿命で定められた恋人だから、こんな姿になったわたしを見ても側に置いてくれる。

 魔王様は他の人と違う。だって、わたしのものなんだから。

 生をもたらすレスリリア様もそう仰ってくれたのだから、間違いない。


「ふ、ふへっ……」


 それにしても、魔王様、相変わらずちっちゃいな。わたしよりちっちゃい。可愛い……可愛いな。ギュッてしたら怒るかな? ううん、そんなことないよね、だってわたしたち恋人なんだもん。それくらい普通だよね、普通だよ。

 えい。


「うおっ!?」

「あ……お、おど……い……た? んふ……」

「……驚きすぎて心臓止まった」


 照れてるのかな? 後ろから抱きついたからどんな顔をしてるのかわからないけど、きっと

わたしと同じように顔を真っ赤にしてるに違いない。

 恥ずかしいけど、照れちゃうけど、でも目的地につくまではこのままで……あれ?


「あ……まお、さ……」

「え、あ、はい、なんでしょうか巫女様」


 魔王様は緊張からか上擦った声を返してくる。抱きつかれたまま上目遣いで振り返って欲しかったけど、歩いているのにそんなことをされたら転んでしまって危ないので、我慢、我慢。


「わた……ち、ど、どこに……むか……て……の?」

「え、どっかそのへん……の魔王城」


 魔王城! 魔王様とわたしの愛の巣! こんなに心躍ることがあるだろうか。


「そ、そこ……に、は、ど、とれ……い……で、つ、つく、の……?」

「さあ……しばらくかかると思うけど」


 しばらく。しばらくとは、どれくらいだろう。どれくらい、わたしは魔王様を独り占め出来るのだろう。一日? 一週間? 一ヶ月? 一年……は無理かな。

 でも、なるべく長くが良い。

 出来れば、ずっと、ずっと、さいごまで、魔王様を独り占めしていたい。


「とりあえず、なんとか砂漠の城に向かうつもりだ。許可取ってないけど、寝床ならちょうど一人分くらい空いてるだろうし」

「ひ、ひと……ぶ、ん……た、たり……る……?」

「足りるだろ、多分」


 ……あ、そっか。眠る時もこうやって抱き合ってれば、一人分の寝床でも二人眠れる。流石魔王様、ちゃっかりしてる。


「うふ……ふ……。ふふ……、えへ……」

「ひえぇ……」

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