第13話 怪鳥レブヌス―1


 前回のあらすじ。

 臭かった。





 レイスワンダ連盟で城を手に入れてから六ヶ月。俺達が向かう次なる城はりゅ、違う、ゆーる、りる、る、る?


「……次なんてとこだっけ」

「ユーリュルリュワン皇国ですね。今向かってる城はハフフヘレナヤユという国境付近に位置する霊山の山頂にあります」

「そうそれ」


 ハフフヘレナヤユは全ての音が吐息みたいな発音で、油断してると全然発音出来ないし、なんなら何度か聞かないとなんて言ったか聞き取れない。

 もうホントこの国嫌い。精霊の言葉とかなんとか言ってるけど、その発音どうにかして欲しい。


 ユーリュルリュワン皇国は魔物の活動が他の国より活発で、特に森林や山の近くを通るとゴブリンの群れやワーウルフと狼の群れ、ハーピィの集団、クソデカいカエルの横断風景、武装傭兵の集団などに出くわした。俺達はそれらをリューやエィンの餌にしたり、遠巻きに眺めてやり過ごしたりしながら霊山に向かっていた。


 ちなみにロウエンは師範の仕事があるからと言って俺達との旅の同行は断っている。貴重な戦力のくせしてもう役立たずかよ。


「次の城に巣食う魔物のことですか?」

「そうそう、なんだっけ、怪鳥レブヌス」


 聖霊の言葉じゃないからすごく言いやすい。


「怪鳥レブヌス。大鷲のような姿をしていますが、翼を広げたときの体長は百メートルに達すると言われ、雑食なので人間動物魔物、そして自然環境に被害を甚大な与えています。魔王様が現れる三年前に突然現れ、それ以来六年以上腕の立つ傭兵や皇国軍にも討伐されていない厄介な魔物です」

「どこから現れたんだろうな」

「異世界から召喚されたんじゃないですか?」

「誰だよ召喚したの」

「わかりません」


 知らないのか。まあいいや、どうせ神様でしょ。


「怪鳥か……」


 突然エィンが独り言を呟いた。気になって見てみると、エィンはいつになく真剣な雰囲気を纏っていた。


「…………」


 話しかけるのもアレなので黙って見ていると、「よし」という言葉と共にエィンは俺の肩に手を置いた。


「私は怪鳥退治には参加しない」

「は?」

「それほど大きいのなら、私ではどうにもならん」


 なに言ってんだこいつ。


「俺だってそんなデカいのと戦う気ないよ」

「む? では、どうやって城を奪うつもりだ?」

「それはお前、横取りだろ」

「横取り、ですか?」

「この魔王はまた楽しようとして……」


 なんか知らない内にエィンの俺に対する評価が下がってるんだけど。

 まあいい、俺はエィンの冷ややかな視線を無視することにした。


「俺の直感によると、三日前に見かけた武装傭兵達はきっと怪鳥レブヌスを討伐しに向かっている途中だったに違いない」

「うわあ、頼りないですね」

「今まで魔王の思い通りの事態に直面したことなかっただろ」

「るせ。で、多分その中に異世界転生者なり召喚者なりがいるはずだから、そいつがレブヌスをどうにかしてくれるはずだろ」


 自分で言うのもアレだけど、すごい楽観的な考えだな。


「それで、連中はレブヌスを殺すなり捕まえるなりしたら当然持ち帰るわけだから、城はがら空きになるわけだ。そこを横取りする」

「本当に、威厳もなにもないなお前は」

「当たり前じゃん」


 魔王辞めたいって俺の言葉もう忘れたのかよ。

 …………ああ! もしかして、それで俺の評価下がってんの? どうでもいいことに気付いてしまった。ホントどうでもいい。


「まあ、万が一レブヌスが生きてた時の手も考えてあるから安心しろよ」

「むしろそっちの方が不安ではあるが……まあ、期待はしないでおくよ」

「いや期待してよ。試してないけどきっと上手くいくはずだからさ」

「ええい、余計期待したくなくなる言葉を吐くな! 魔王はもう黙っていろ!」


 酷い、俺だって精一杯魔王してるのに。


「それより、あとどれくらいで麓に着きそうなの?」

「半日あれば着くと思います」


 半日待たずに日は暮れるけど。そうなるとエィンの動きが極端に鈍くなる。


「あー、じゃあ日が暮れる前に適当な場所で野宿するか」

「すまんな」

「はいはい」

 



 二日後、俺達は怪鳥レブヌスが巣食う城が遠目に観察できる場所までやって来た。


「うわ、普通に生きてるじゃん」


 レブヌスは城の屋上らしき部分で置物みたく丸くなって眠っていた。しかも争った跡なんて少しもない。


「アテが外れたな」

「はあー……。デカい鳥くらいなんとかして見せろよ、クソ勇者様共が」


 俺はレブヌスから身を隠せそうな林の木陰を探し、そこに寝転がった。同じようにレブヌスから隠れるようにしてリューが俺の隣に座り込んだ。


「……なにをしているのだ?」


 エィンは眠り始めようとした俺を見て不思議そうな声をあげながら、やはり木陰に身を隠した。


「なにって、レブヌスがくたばるのを待つんだろ」

「ですって」

「…………」

「あー、うん。言いたいことはわかるけど、騒がないでね。見つかったら真っ先に食わせるから」


 俺は不満げに黙り込むエィンに笑いかける。


「痛ぇ!」


 無言で腕を殴られた。


「騒ぐな、食わせるぞ」

「えぇー……」



 それから半月、いくら待っても怪鳥レブヌスを倒しに来る者は現れなかった。

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