第11話 ロウエン―1


 前回のあらすじ。

 吸血姫の城を手に入れた。……と思う。

 ついでに吸血姫が旅の仲間に加わった。





 コハ連邦からレスリリア共和国を縦断してレイスワンダ連盟へ。一年と五ヶ月かかった。エィンの見た目が遠目に見ても魔物だから、人目に付かない道なき道を選んでいたせいだ。

 こいつなんでついてきたの?


「いやあ、長い旅路であったな。ついにレイスワンダ連盟か」

「お前からしたらあっという間だろ」


 樹齢二千年のエィンが言っても冗談にしか聞こえない。


「若いな、魔王よ。こういうのは密度が大事なのだ。そういう意味では、私の二千年の方があっという間だったよ」

「よくわからん」


 だって魔王様まだ二歳だもん。……三歳だっけ? 忘れた。


 俺達が向かっているのは、レイスワンダ連盟の南西にあるワーウルフが住み着いた城だ。このワーウルフは一匹狼で、人語を介するらしく強者を求めて都市部にやって来る迷惑なやつらしい。道場破りを繰り返し、最近ではレイスワンダ連盟の西方連盟軍や隣のオレイスティン連盟の東方連盟軍に喧嘩を吹っ掛けているらしい。迷惑な犬だ。

 ところで人語を介すると言えば、


「そう言えばだけど、なんでお前ら魔物のくせに人の言葉喋れるわけ?」

「私は人を食べたからです」


 それ答えになってなくない?


「私は暇だったから喋れるように進化してみたのだ」


 進化って思い付きでするもんじゃないし、そもそも一代で出来ないよね?


「なに? エィンはそういうチート? 進化すんの?」

「知らん」

「おい」

「ただ、他の樹よりも成長が速かったり、普通ならあり得ない成長の仕方もしている。私の場合、おそらく進化というよりも突然変異と表現した方が良いかもしれないな」

「ふーん」

「正しくは変態ですね」

「そうか」


 話の後半はよく聞いてなかったので、相槌だけしておいた。

 それから半月歩いて、俺達はようやくレイスワンダの城の前にやって来た。エィンの城よりもずっと大きく、丈夫な鉄の門が俺達の行く手を阻んでいた。エィンの時みたいに狼とかワーウルフとかが城を守っているということもなく、簡単にここまで辿り着けて少し拍子抜けしている。


「よし、入るか」

「おいおい、待ちたまえ。城主に許可は取らないのか?」

「呼び鈴ないじゃん」

「またそれか」


 台詞は呆れたときに言うようなものなのに、エィンの表情はどこか楽しげだった。

 逆に俺の方が呆れた表情になりながら城門を開けようと押したり叩いたり苦戦していると、リューが俺の肩に手を置いた。それ気に入ったの?


「魔王様、少し待って下さい」

「え?」

「任せてください」


 なんか嫌な予感がするんだけど。

 リューは不安がる俺を余所にグイグイと城門を押したり叩いたりしばらく遊んだあと、


「これ内側から閂してありますね」

「よし、エィン任せた」

「任せました」

「まったく……使えない上司達だな」

「なんだとこいつ」


 エィンも押したり叩いたりして結局城門を開けられなかった。


「おかしいな……」

「いやお前、俺達と同じことして開けられるわけないじゃん。おばあちゃん大丈夫?」

「年長者は敬いたまえ」


 流石エィンさん、尊敬しちゃうなあ。

 ……さて、どうしよう。


「すんませーん! 魔王なんですけどー! 開けてくださーい!」


 とりあえず城門蹴りながら声を張り上げてみた。門を蹴った足が痛い。


「すごいみっともない名乗りですね」

「まるで威厳がないな」


 確かに、赤いマント纏ってるエィンの方が俺よりずっと魔王っぽい。

 それからしばらく蹴り続け叫び続けても反応はなく、結局俺の足と喉がダメージを受けただけだった。めっちゃ痛い。


「寝てるんじゃないんですか?」

「こんな昼間から?」

「夜行性なのではないか?」

「マジか」


 空を見上げてみれば、太陽がちょうど天頂に来たかどうかといったところだった。


「まあ、ワーウルフは夜行性じゃないんですけどね」


 じゃあさっきの会話まるで意味ないじゃん。


「ちょっと、リュー。ワーウルフについて教えて」

「ワーウルフですか? 狼人間とも言われますが、生態を考えると人間狼の方が正しいですね。擬態能力は持っておらず、吸血鬼と樹の区別が付かないというようにワーウルフと狼の区別が付かない、などということもありません。一目見ればワーウルフとわかるでしょう」

「へー」


 エィンを見ながら頷いたら、そっぽ向かれた。気にしてんのか。


「ワーウルフは狼に混じって群れで行動します。共生していると言えばいいのでしょうか? 種族的にとても近しいせいか、異なる種でありながらワーウルフと狼は交配が可能です。この時、産まれる仔は母と同じ種になりますね。それと、ワーウルフは人語を介することはありません。狼と同じく、鳴き声や毛繕いなどでコミュニケーションを取ります」

「魔物って言うより、獣だな」

「んー、ところで、魔王様は魔物と獣の違いってわかりますか?」


 あー、それね。うん、レイに教えてもらったことあるよ。


「忘れた」

「おいおい魔王様、先月リューに教えてもらったばかりだろ」

「え、そうだったっけ?」


 全く記憶にないんだけど……。


「まあ、私も忘れたがな」

「他人のこと言えねーじゃねえかババア」

「二つ以上の異なる動植鉱物の特徴をあわせ持つのが魔物ですよ」


 あー、確かそんな感じだった気がする。


「じゃあ、動物の定義は? 動物って言うか獣か」

「人間が獣だと思った動物が獣ですね」

「……そう言えばこんな会話前にしたな」

「だからそう言っただろう。気は確かか?」


 自分も憶えてなかったくせになんて偉そうなんだ……! 驚きのあまりエィンを尊敬してしまいそうだ。


「――仕方ない、最後の手段だ」

「む?」


 俺は奇跡の袋からなんでも斬れる剣を取り出し、軽く勢いを付けて無造作に城門を斬り付ける。恐ろしいことに、鉄の門を斬ったというのに手応えが全くない。


「なんだそれは」

「俺の宝のひとつ、『なんでも斬れる剣とその鞘』だ」

「間違っても私に向けるなよ」


 間違えなければ向けていいんだろうか。いや、間違ってもっていってるし、向けないこと前提だな……。まあ、俺を裏切ったら向けることになると思うけど。

 俺は剣を鞘に納め、奇跡の袋にしまう。


「お邪魔しまーす」


 言いながら城門を押すと、鉄の重さからくる抵抗感はあったが、大して苦労もなく開いた。

 中に入って閂の様子を見てみると、鉄製の閂が見事に両断されている。


「すごい斬れ味ですね」

「さっきの剣も誰かに渡したりするのか?」

「剣の達人を部下にするときにな」


 いつになるか知らないしいるかもわからないけど。


「それじゃ、探すか」


 どこで寝てるかな。

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