第6話 法都レスリリア


 前回のあらすじ。

 宿で世界地図眺めた。

 間違えた、宿じゃなくて民宿。





 四ヶ月の旅を終え、俺はとうとうレスリリア共和国の法都レスリリアにやって来た。

 ここで、旅の間にわかったいくつかのことをまとめよう。


 まず、ロックがアンナとユニの二人と肉体関係を持っていて、ユニがロックに向ける目が常人のソレじゃないこと。それに気付いた時から、俺はユニに根源的な恐怖感を覚えるようになった。理由は不明。


 はい次。この世界の通貨の最小単位は青銅貨。十枚集めると銅貨、百枚集めると銀貨と交換出来る。銀貨の上は金貨、その上は白金貨で終わり。基本的に銅貨でやり取りして、たまに銀貨。買い物の場で金貨が出てくるのは、貴族や王族の財布からだけだとか。鳥の串焼き一本で青銅貨十五枚。


 はい次。この世界の人間は『レベル』というシステムを知らない。マジ? 実は俺、リューに騙されてたんじゃないの? でも、スキンシップついでにロックのこと蹴ってるうちに、鍛えてもいないのに力がついてきた気がする。もうよくわからん。


 最後。魔王は物語の中で、魔物を産み出した存在として忌み嫌われていた。だけどレイは、魔物は進化の過程で生き残った獣の姿で、れっきとした生をもたらすレスリリアが産み出した存在だと言っていた。あ、ついでに絵本レベルなら文字が読めるようになった。ロックがふざけて俺に絵本を買い与えてくれた結果だ。なんか悔しいから礼は言わない。




 さて、


「ネヘルウォード王、先に通達していた通り、我々はヘイルウェイの大地より『死をもたらすヘイルウェイが遣わした者』をここに案内して参りました」

「死をもたらすヘイルウェイ様に遣わされた者です」

「貴殿が死をもたらすヘイルウェイが遣わした者か」

「恐れ多くもその通りでございます」

「遠い地から呼びつけてしまって申し訳ない。なにか詫びをさせてもらいたいのだが……」

「いえ、彼等のおかげで楽しい旅路でしたので」

「それは良かった」


 俺はこの、今にも俺を殴り殺しそうな髭モジャを相手にしなければならないのか。

 やだよ、顔見れないんだけど。謁見の間に入るときチラッて見てからもう床しか見れてないもん、俺。


「ここで話をしたいが、魔王、だったか? 貴殿な話を聞きたいという者が私の他にも多くいてな。彼等を同席させても構わないだろうか」

「是非とも」


 是非ともじゃねーよバーカ! 言ってから後悔してんじゃねえよコラ! くそ、口が勝手に……。


「それでは、相応しい場所を用意してある。案内しよう」

「ありがとうございます」

「なに、礼には及ばない」


 その……俺を対等に扱おうとするのやめてもらえませんかね……? 心臓が苦しいんですけど……。恋かな?

 クソが。


「レイ、アンナ、ユニ、ロック。貴君等には相応しい褒美を用意してある。彼の案内で貴賓室に向かうと良い」

「レスリリアに栄光あれ」

「「「レスリリアに栄光あれ」」」


 練習してたっけ? てくらい息ぴったりだった。て言うか一緒に来ないのかよ。四人は騎士に案内されてウキウキと謁見の間から出ていった。


「魔王殿はこちらに」


 そう言って、ネヘルウォード王はクソ高そうなカーテンみたいなマントを翻し、歩き出す。俺は客人というか小間使い的な気持ちでその背中を追った。


「ここだ」


 案内されたのは、巨大な会議室だった。……いや、半端に前世の記憶があるせいでそう表現するしかないんです。

 これでもかと立派な装飾が施された長いテーブルに、八人の人間が顔を合わせて座っている。テーブルの両端には空いた椅子がひとつずつ置かれており、どっちかが俺の席なのはなんとなくわかった。多分手前。

 先に席に着いていたのは、右手側に多分各国の要人が五人と、左手側には……学者っぽいおっさんが一人。あと神官やってそうなおじいさんと、白く着飾った若い女性が一人。要人達はそれぞれ数人の護衛を後ろに待機させていた。


 ネヘルウォード王に促され、俺は手前の席に座る。視線が一斉に俺に向けられて、ゲロ吐きそう。


「……それでは、皆様方」


 ネヘルウォード王は席に着き、大仰に息を吐いてから口を開いた。


「私が代表となり、死をもたらすヘイルウェイが遣わした者、魔王殿にいくつかの質問をさせていただきます」


 その発言に、席に着いていた人は(俺を含めて)全員頷いた。

 ……学者っぽいおっさんめっちゃこっち見てきて気になんだけど。なにあの子供みたいなキラキラした瞳? なに? 俺生きたまま解剖とかされちゃうの? 怖いんだけど?


「魔王殿」

「はいっ」


 なんだよ、急に話しかけんなよ、驚いただろ。


「あなたは、どのような理由でこの世界に遣わされたのですか?」

「……世界平和のためです」

「世界平和、ですか」


 あ、今声には出してないけど内心笑ったの気付いたかんな、目を見ればわかるかんな、そこの、えーっと……ハゲ! あー駄目だ、あいつの後ろにもハゲが二人いるぞ、クソッ。さては影武者かぁ?


「世界平和というのは具体的に、どのように?」

「あー、とですね」


 その質問は予想してたんだよ。してたんだけど、来る途中に答えもちゃんと考えてたんだけど、いやほら、あのハゲのせいでどこかにツルッとすっ飛んじゃったって言うか、なんて言うか……とりあえずハゲが悪い。どのハゲだよ? よく見たらハゲ六人くらいいるんだけど? やめろよ、これ以上俺を混乱させるなよ。

 いや待て、落ち着こう。落ち着け、落ち着け……そして思い出せ……。


「……まず、この世界に異世界からやって来た者がいるそうなのですが、ご存知ですか? 人間離れした能力や、どこで得たのかもわからない知識を持っている者のことです」


 俺の質問に、この場にいた人々は大体三種類の反応を示した。

 まず、なに言ってんだこのガキ、と顔をしかめる人。護衛は全員これだ。転生者とか召喚者とか知らないらしい。

 次に、なにか察して表情を固めたり、消したりする人。これは要人達とネヘルウォード王だ。もしかして、関係者だろうか? なにか知ってる様子だ。

 そして残りの三人は、三人とも興味深そうに俺の顔を見ている。いや、なにか知ってそうな様子なのは二人だけで、学者っぽいおっさんは知的好奇心満載の興味深そうな顔だった。楽しそうで羨ましい。

 俺は全員の表情を確認し終えてから、再び口を開く。


「この世界にあってはならないモノを持ち込んだ者達を駆逐し、排除することでこの世界の崩壊を防ぐことが俺の使命であり、世界平和のための方法です」

「……なるほど」


 なんてネヘルウォード王は頷いてるけど、皆さんまだ納得できていない様子。


「その異世界からやって来た者達を……つまり殺す方法はどのように?」

「……まあ、城があれば……」

「城?」


 そうだよ、城だよ! ないんだよ城が! ねだれば貰えるかな?


「我が神は俺に魔王としての力を与えてくれたのですが、その大部分は魔王城の中でしか発揮できないという条件付きでして……」

「そうでしたか。それで、その魔王城というのはどこに?」

「ない……んですよね、それが」

「……はい?」


 ネヘルウォード王はわけがわからないと言いたげに首を傾げる。やべえ、殺されるかな。全部ヘイルウェイのせいにしちゃえ。


「おそらく我が神の手違いでしょう、肝心の魔王城が与えられなかったのです」

「それは……お気の毒に」


 同情するなら城をくれ。


「そういうわけですので、我が神から与えられた使命を達成するために、廃城でも良いのでどなたか城を与えてはくれないでしょうか?」


 俺の要求に要人達は嫌そうというか、困った顔をする。それを見てネヘルウォード王は申し訳なさそうな顔をして俺に頭を下げた。


「すまないが、その質問には後日答えさせていただくという形で構わないだろうか」

「構いません」


 嫌だって言ったらなにされるかわからないので、従っておく。


「では、質問が変わるのだが、魔王殿は魔物を従えることが出来るだろうか?」

「……多分、試したことはないけど、出来るはずだと思います」

「はっきりしない返事ですね……」


 うるせい、俺の方が知りたいよ、それ。


「どうしてそんな質問を?」

「魔物による人里への被害を減らしたいのです」


 ネヘルウォード王がそう言うが、多分これ、東の皇国からの質問だろう。


「どうなんでしょうかね……。魔物が人間を襲って食べ物なりなんなりを調達してっていうのは、人間が生活圏を広げるために魔物の生活圏を奪ったからでしょう? 人間が山や森林とかの開拓なんてしなければ、魔物が食べ物に困って人里を襲うこともなかったと思うんですけど」

「それは……そうだが……」


 代表だから体裁だけでも食い下がらなきゃならないネヘルウォード王かわいそう。


「そんなに邪魔なら滅ぼせば良いじゃないですか。住む場所も増えて一石二鳥ですよ」

「…………っ」


 何故かすごく驚いた表情をされた。しかもこの場の全員に。驚愕だけでなく嫌悪も混ざってるだろうか。そんな顔されたら俺も一緒に驚いちゃうよ。魔王様ビックリ!

 ……吐きそう。


「……次の質問だが、」


 どうやら、さっきの質問は俺が爆弾発言をしてしまったせいで流すことにしたらしい。魔王らしく振る舞うって大変だなあ。


「これが最後の質問だ」

「はい」


 もう最後か。最初の質問から派生した質問が多かっただけに、短く感じる。


「魔王殿は、レスリリアの大地を支配するつもりはあるだろうか?」


 今までになく真剣な眼差しをこの場にいる全員から向けられる。

 なに? なんで急にシリアス? 俺も皆のシリアスに応えなきゃ……!


「……ふっ」


 含み笑いをしてみたら、護衛達の纏う空気が一気に緊張した。腰に差した剣に手が伸びかけている。マジ? ダメだった? 魔王っぽい笑い方じゃなくて、やっぱり友好的な笑顔の方が良かったか。

 いいやもう、テキトーに誤魔化せ。


「我が神、死をもたらすヘイルウェイ様が必要だと仰るのなら、俺は迷わずそうするでしょう。しかし今は、異世界からの異分子を排除し、駆逐することのみが俺の使命です」


 よし。

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