第4話

名前コード:桜木、二つ名『葬儀屋アンダーテイカー』。

ただ今電車で夕霧と二人なのだが。空気が重いので困っている。

もう、何なの。こいつは電車に乗った瞬間「着いたら起こせよ」と言って寝出すし、何なの、僕への配慮は皆無なの、この呑気野郎マイペースは?

しかもこいつの寝方と来たら! 怒ってる訳でもないのに腕組みして手すりに寄りかかって寝てるし! (ほんの少しだけ可愛いかよ、と言いかけた事は内緒にしたい。こいつが起きてなくて良かった、うん)

それにしても、と窓の外を眺める。

いつまでもここは変わらない。

少し都心から離れているとはいえまだまだ自分が居た場所よりは進んでいる。

大きなビルに、煩い音楽。道をゆく人は皆忙しそうな社会人サラリーマンや楽しげな中高生。薄汚れた僕らとは、縁遠い日常を送る彼らを見てふっと昔を思い出した。

あの時は寒くて、そして寂しくて、路地裏で独り小さく丸まっていた。あそこで先代の『葬儀屋アンダーテイカー』に会わなければ僕はここに居ないだろう。

彼は僕に温もりをくれた。愛情をくれた。居場所をくれた。知る事の意味を教えてくれた。彼は僕に、たくさんの事を教えてくれた、恩人とも親代わりとも友人とも呼べる、唯一の人だ。―――今はどこで何をしているのか、分からないけれど。

電車のガタゴトと規則的な揺れ音を聞きながら、僕はそっと居場所がある事の喜びに唇を噛みしめた。

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