愚者礼賛~勇者と生きようと思った魔王の物語~
「おまえが、死んでからはくそつまらない日々だった。明けても暮れても寝ているだけの私が何も知らぬと思うなよ。人間は相変わらず
転生勇者が転がりこんで、ニュースになった。
もちろん、魔界のニュースだ。
すべて魔王のテレパシーでとどく。
ほんのわずかな数の知性体だけが、不愉快に思った。
魔王はしばらく、人間の言葉で話していたが、もう誰もツッコまない。
理解できなかったに違いない。
魔獣とは、本来、その程度なのだ。
志半ばで倒れていった騎士どもよ、輪廻転生の叶わぬ、深層の地獄の牢に繋がれし兵隊どもよ。見よ!
魔王は両手をたかだかと天に掲げると、その中の勇者を見つめる。
「何ものをも愛さず、戦いのみによって生きた愚者のなれの果てか。見よ。これが私の命を奪うために産まれた。これが――私の勇者だ」
なにやら倒錯めいた一言を吐いた。
「今おまえを生かす理由はただひとつ。私を飽きさせぬこと」
そうして、魔王はあらん限りの祝福をこめて、赤子を湖水で洗った。
だれが、森の神獣の
魔王は瞬間移動で上空から港を見下ろし、その
「どうだ、勇者よ。人間は滅びなかったぞ……ようやっとここまできた」
それは、魔獣にとっての餌でも苗床でもない、勇者を擁立した人間への想い。
「戦を知らぬものが、おまえをほめそやすだろう。だが、騙されるな。やつらは、おまえというたった一人の犠牲で、まるくことを収めようという腹づもりだ。魔獣が魔王をいただくように、人間は自分たち以外の者を矢面に立たせるために、
魔王は自分の牙城にはほど近い、
港へ流れこむ――北にそびえる山からとうとうと流れる、
緑豊かな土地だ。
「人によってけしかけられ、相身互いに喰らい合うだけの、共食いの季節は終わった。今度は、共に生きてみないか――この地で」
永い間のうちに、常にフラットになっていた魔王の感情が微妙にくるった。
それは明らかに、歓喜の声だった。
「この場所で、おまえはなにを愛し、慈しみ、謳うのだ――ああ、勇者よ」
魔王は、誰も見たことのないような、歓びに胸を開いた。
「生きよ、生きよ!――生きよう! ここでなら、おまえにもそれができる!」
「きっと」。それは魔王が見たことのない、夢や希望を語る、人間の言葉だから、魔王は口にしない。
だが、できる。
私にも。
必ず。
エイダムの地に降り立った彼らのまぶしい笑顔を――白い小鳥が、見ていた。
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