#05『もしも、過去を変えられるなら』
「とにかく説明している
「お、オニーサマン……だと?」
そんな名前のスーパーヒーローは知らない。
……ではなく、初対面のはずである少女に“お兄様”などと呼ばれる理由が、王太郎にはまったく心当たりがなかった。
『未来からきた義妹』という自己紹介もまるで意味がわからない。
「はて、貴様のようなコスプレ電波娘をレンタルした覚えはないが……」
「ほへ? レンタル?」
「忘れろ、こっちの話だ」
王太郎は真顔で
青い
そもそもマシンワーカーは陸専用のはずだ。
だが現にこの機体は、先ほどまで空中を自由自在に飛行していた。それもプロペラや翼を使っているわけでもなく、あろうことか推進力なしで宙に浮いていたのである。
こんなオーバーテクノロジーが現代に実在していたなど、テクノロジーの最先端を担う海神グループの社長でさえも耳にしたことはなかったが──
そんな一風変わった機体を呆然と見つめていると、隣に立っていた霧咲が警戒しながら耳打ちしてきた。
「坊ちゃん、
「まあ待て、話くらいは聞いてやってもいいかもしれん。ここはオレに任せろ」
そう返事をしてから、王太郎は
そして巨大な足元へと辿り着くと、コックピットハッチに立ち尽くしている少女を挑むように見上げた。
「気に入らんな。どこの馬の骨とも知れん奴に、オレがホイホイついていくと思うか?」
「……あれれ、おっかしいなー。“妹”と名乗ればなにも聞かず助けてくれるって聞いたんだけど……」
「何……?」
妙な物言いをする少女に、王太郎は思わず
そんな突拍子もない発言はこれで終わるどころか、さらに畳み掛けるようにしばらく続いた。
「私は未来を変えるために、この時代にやってきたタイムトラベラー。
「…………」
「そしてこの子こそ、
鋼城くじら。
そう名乗った少女はまるで我が子を自慢する母親のように、自信たっぷりな笑顔を浮かべて告げた。
もはや固まってしまっている王太郎は言わずもがな、端から聞いていた霧咲さえも警戒を超えて呆れかえってしまう。
「坊ちゃん、この場合は素直に警察を呼ぶべきでしょうか。あるいは頭の治療のために救急車のほうを──」
「ククク……、クフハハハハハハハハハハッ!!」
やや毒を交えつつも冷静に対応していた霧咲の提案は、突然の高笑いによって盛大に吹き飛ばされてしまった。
そしてようやく笑いが治ったかと思えば、王太郎はかつてないほど嬉しそうに少女とそのロボットを見据える。
「お前が来るのを待ちわびていたぞ、我が未来の妹……そしてタイムマシンよ」
「おー、信じていただけるんですね! さすがお兄様、理解が
ここまでスムーズに話が進むとは思っていなかったらしく、くじらは手を叩いて喜んだ。
彼女をすんなりと受け入れてしまった王太郎に対し、隣に立つ霧咲は少し不満そうに声をかける。
「本当に信じるのですか? あのような得体の知れない少女の言い分を」
「フッ、さあな。彼女がオレを兄と呼ぶようになった経緯はわからん。だが結果として、未来のオレは
それを真に理解と呼ぶには、そこに至るまでのプロセスを
自分はいずれ、過去へのタイムトラベルを本当に実現させる。
この2031年の現代で推し進めている研究
「理解し難いのはむしろ、これを完成させるのに今から100年もかかってしまっていることだ! 遅すぎる、オレなど寿命でとっくに死んでいるではないか」
「それについては色々と込み入った事情がありまして……むむっ?」
くじらは不意に会話を中断させると、急に小刻みな電子音を発しはじめたコックピットに目を向ける。
どうやらそれは“敵”の接近を示す
「シット、どうやら追いつかれてしまったみたいですね……」
「何だと?」
「追手です。とにかくこの場に長居するのは危険かもしれません」
くじらの視線を追うように、王太郎も夜闇に包まれた空を仰ぎ見る。
光が降りてきていた。さらに目を凝らしてみると、桜島上空に突如として現れたそいつらの姿を確認することができた。
“ガトラベル・アインス”と呼ばれていた機体と同じく、特殊な力場を展開させて飛行する能力を備えた人型機械。ただしシルエット自体は大きく異なり、こちらはより人体らしい肉付きをした形状をしているようだった。尻尾のようなケーブルユニットも生えておらず、根本的な設計コンセプトからして違うことが伺える。
全身を淡いグレーで彩ったその機体は、肉眼で目視できるだけでも6機以上はいるようだった。
それも明らかに
「あれも人型タイムマシンというやつか?」
「いいえ、あれは未来からこの時代へと送り込まれてきただけの、跳躍機能を有さない
「つまり雑兵だな。そして貴様と
「ん……とまあ、今のところはそういう認識で構いません。とにかく時間が惜しいです、はやくコックピットに……くっ!?」
くじらが声をあげて指示していた途中、ふいに彼女の乗っていた機体が背後からの銃撃を受けてよろめいた。
まるで自ら盾になってこちらを庇ったガトラベル・アインスをみて、流石の王太郎でさえも思わず気が動転しかけてしまう。
「急いで!
上擦った声でそう急き立てられ――我に返った王太郎は、迷いを振り払って動き出した。
「坊ちゃん!」
「オレは大丈夫だ! 霧咲は退がっていろ!」
不思議と恐怖はなかった。ただ『自分はいま何をするべきか』を考えることだけに思考のリソースを割き、その衝動に従って機体上部のコックピットを目指す。
下半身が立体的な構造をしていたこともあってか、ハシゴを使わずともどうにか自力でよじ登ることができた。
すでに空いているハッチの中をのぞくと──
(複座型……二人乗りだと?)
ただでさえ狭いコックピットには、なんと座席が二つあった。
まさかこれだけの機体を、この少女はたった一人で動かしていたというのだろうか……?
「ハッチ閉じます! 頭を下げないとぶつけますよ!」
「オレをこいつに乗せてどうする気だ? お前は一体……?」
「今からお兄様には、10年前の過去に
「……!」
ずっと想い続けてきた
疑問は積もるばかりだったが――
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