第37話 龍の球と転移者の願い(4)
「え? 隠し事って、なに言ってるのマキくん」
あきらかに同様しているカトゥー。最近、面倒くさがりキャラがだいぶ崩れてきたな。
「この世界で死ねばリスタートがかかる。でも、それは自分に対してじゃなくこの世界に対してた。そして、死んだ者たちは退場させられて他の異世界へと向かうことになる」
「うん、そうだよ。それが?」
カトゥーの視線が僅かに俺から逸れる。やはり何かを隠しているのか。
「ペナルティーはそれだけか? あいつらからは、どうしても勝たなきゃいけないっていう気概みたいなのを感じた。それはプライドじゃないだろ?」
「それは……」
彼女の顔が俯くように下を向いて視線を逸らす。
「あいつらは、トマルって奴がやられてかなり焦っていた。けど、チャンスだとも思ったみたいだな。俺を騙して協力させられれば、自分たちが依頼を完遂できるってね」
「そうだね」
「けど、同時に感じたんだよ。あいつらはこの世界で退場させられることに、何か恐れを感じているってね。その恐れは死に関する事じゃない。別の何かだ」
「……」
カトゥーが黙り込む。ビンゴのようだ。
「おまえは何を隠している? 何かあるんだろ? 退場したときのペナルティが」
そこでカトゥーは、息を大きく吸い込むと、俺の顔を見据えてこう語り出す。
「大した事じゃないよ。この世界から退場すると記憶が一つなくなるだけ。しかも、それは修復不可能になる。けど、たった一つだよ。一つの単語かもしれないし、誰かの顔かもしれない。それなら、もう一回覚えればいいじゃん。そうでしょ?」
真っ直ぐに見つめる瞳。光が宿った生きている人間の瞳だ。こいつの本当の姿はどれなんだろうと、時々混乱する。
「本当にそれだけか? あいつらは余裕そうに見えて、内心かなり必死だったんじゃないか?」
「シマハさんはね、絶対に無くしたくない記憶があるの。だから、必死なんだと思う。そしてカネアさんの目的はね、依頼を完遂した時に従神だけに与えられる女神の涙。これを百粒集めることが目的なの。彼女は一秒でも早く仕事を完遂したいはずよ。だから焦っている」
「女神の涙を集めたらどうなるんだ?」
本心を知られたくないのか、俺から目を逸らすカトゥー。
「
「それ、今回のドラゴンボ……じゃなくて、願いを叶えるアイテムとどう違うのか?」
「今回のは、この世界でしか願いを叶えられないよ。例えば、転移者が『元の世界に帰して』と言っても叶えられない。その代わり、この世界でなら、どんなことも叶うよ。世界を滅ぼすことさえ。」
カトゥーは苦笑いを浮かべる。
「
「ぶっちゃけ、
究極のチート能力だな。
「おまえは叶えたい願いがあるのか?」
「なんでそう思うの? マキくん」
表情が消える。最初に俺と会った頃の何事にも無関心なカトゥーだ。いや、無関心なんかじゃないんだ。他人に心を読まれないように、必死で仮面を作って守っているだけだ。
「でなきゃ、従神なんてやってないだろ?」
「そうだね。けど、マキくんには関係のないことだよ」
いつもの間延びした声でそう答える彼女。しかし、いつもの脱力するような雰囲気ではない。これは、完全な拒絶だ。
彼女の心は誰にも開けない。
**
再びリセットがかかる。リスタートは三つ目の鉄板を見つけた後だったので、それほど苦労はしなかった。
「スナさんとフチウロさんの組がやられたみたいだね」
退場するだけだからだろうか、あまり危機感を抱かないカトゥーの言葉。まあ、俺もあんまり危険を感じてないからな。
「なあ、カトゥー」
「なに? マキくん」
「今回って、アンカーポイントを作成する意味ってあるのかな?」
「そうだね。退場させられた人のアンカーポイントに飛ばされてるだけだもんね。けど、やっぱマキくんはおバカさんだよ」
「お、おまえなぁ」
「意味はあるよ。リスタートされた時点で、転移者の記憶もリセットされる。転移者ハンターに襲われたという記憶がごっそりなくなるから、転移者は警戒しなくなる」
「つまり、誰かが転移者を襲ったとしても、それは転移者にとっては初めて襲われたことになるわけか」
「そう、下手に警戒されたり、知恵をつけられたりすることもない」
「それにしては、もう二人もやられてるんだろ?」
「それくらい脅威なんだよ。リスタートがなかったら、それこそ打つ手がないんじゃない?」
今回、俺たちはまだ転移者に接触していない。どんな戦い方をしてくるのか、どれだけ強いのかの情報が入ってこないのだ。
「そういや、二組も転移者と接触してるんだろ? 情報共有とかできないのか?」
「わりと面倒なんだけど」
「めんどくさがってる場合じゃないぞ! 緊急事態なんだ。すぐに問い合わせろ。情報共有は共闘する場合の基本だろうが」
この場合の共闘は、他の転移者ハンターと協力し合うことじゃない。どうして失敗したかの情報の共有だ。
「ちょっと待ってよ」
カトゥーがこめかみに右手の指を当てて、目蓋を閉じる。そして、難しそうな顔をした。他の従神と交信しているのか?
数秒で再びカトゥーの目蓋が開く。
「わかったのか?」
「……」
カトゥーの様子がおかしい。あの無表情が売りの彼女の顔が段々と青ざめていく。
「どうしたんだよ?」
「あのね。驚かないで聞いて」
「驚いているのはお前の方じゃねえかよ!」
軽いノリでそう答えたが、そんな状態ではなかった。
「マエダシュンさんに挑んで負けたトマルさんとサキナガさんスナさとフチウロさんなんだけどね。消えちゃった……」
「消えた? この異世界から他に転移したんじゃなくて?」
「言葉通り消失したの。跡形もなく」
存在を消されるというわけか、神の使いである従神も一緒になんて、えげつないチートだな。
「転移者の能力か?」
「わかんない。彼はただ攻撃力が強い剣をもっていただけなのに……」
「
「たぶん、そう。こんなの初めて……」
「楽勝かと思ってけど、急激に難易度上がってねえか? まあ、もともとアンカーポイントは自分たちには無意味だったもんな」
「リスタートが効かないどころじゃないよ。マエダシュンさんに倒されたら文字通り、マキくんは死を迎えるよ」
『死』かぁ……そういや、今までに倒した相手も『死』という状態に俺が戻しただけだもんな。考えてみれば女神にいいように言いくるめられただけで、やってることは殺人と変わらなかった。因果応報とはよく言ったもんだ。
ここで終われば、今までに葬られた転移者たちの恨み辛みを俺が受けるわけか。
記憶、取り戻したかったなぁ……。
「なあ、カトゥー」
「なに、マキくん」
「俺が死んだら泣いてくれるか?」
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