第30話 全国民美少女化計画!
俺が女になってるって?
「ほら、あそこの広場に噴水があるから、水鏡で見てみれば」
カトゥーにそう言われて広場まで行くと、恐る恐る自分の顔を水面に映してみる。
そこにあるのは、目のぱっちりした美少女。背も小さくなってるな。胸は……あまりないけどそこは問題じゃない。
「かわいい……」
カトゥーの
「痛!」
「ナルキッソスじゃないんだから、自分を好きになるのはやめたほうがいいよ」
おまえも自分のこと「かわいい」とか思ってるクセに!
そんなことより、これはいったいどういうことだ?
「あれ? 俺の服装まで変わってるぞ。なんでスカートまで」
「そこらへんも自動的に作り替えられてるみたいだね。分子レベルで」
「じゃあ、俺のモラルタは……」
と焦って腰に手を回すとそこには鞘に刺さった短剣がきちんとあった。
「その短剣だけは転移者の能力の影響を受けないからね」
「変化するのは男だけじゃないのか?」
「可愛くない子も美少女へ変わるよ。一定の年齢を超えたら若返るしね。基本的に、美少女じゃなければ美少女へ変化するのが転移者の能力」
「なんだ、その頭のおかしな設定は!!」
転移者以外、全員美少女の異世界かよ! ご都合主義でもあり、これは十八禁案件じゃねえか。
「カトゥーは……変化なしか。全員が美少女になるわけじゃないじゃん」
「わたしだって、美少女なんだけどなぁ」
「めっちゃ地味系だろが!」
「地味でも美少女だよ」
まあ、それは認めるよ。つまらんことで言い合っても仕方が無いので、状況を把握しよう。
「で、肝心のモリヨシヒトはどこにいるんだ?」
「王都のどっかにいるでしょ? 魔王を倒したから、なんでも叶う願い事として、自分の周囲の人間の美少女化を願ったのだから」
「王様も美少女に変わったのか? 人格とかどうなるんだ? 俺は……そのままだよな」
「マキくんは特別だから、人格までは変わらなかった。けど、他の人たちはか弱い乙女と化している」
「それ、かなりヤバイんじゃないか?」
「そうだね。社会システムが根本的から崩れてる。男が行っていた力仕事は誰もできなくなっている。兵士たちも、その上の軍団長クラスでさえ体も心も乙女」
「隣国の奴らに攻められないのか?」
「大丈夫でしょ。彼の能力の範囲内に入れば、敵だろうが自動的に美少女になるんだから」
そういやそうだな。ある意味無敵。相手が勝手に弱くなるんだから、俺TUEEEでも間違いないな。
「ってことは警備も厳重じゃないし、転移者に近づくこと自体は簡単じゃないか?」
「近づくのはね」
「どういうことだよ?」
「転移者の基本能力はこの世界の屈強な戦士の数倍はあるよ。対して今のマキくんは、か弱い乙女の身体能力しかない」
「カトゥーのサポート魔法に頼るしかないのか」
「それでも、透明化の魔法とかは使えないよ」
「魔法に対するアンチフィールドでもあるのか?」
「ううん、彼は人の心が読めるって能力があるの」
「つまり、密かに近づいて暗殺するような作戦はとれないってことだね」
「密かにどころか、真正面から行っても心を読まれちゃうからダメだけどね」
**
一応、簡単な作戦をカトゥーには伝えた。うまく行くかどうかはわからないので、躊躇していたのだが、他に方法が思いつかない。
その作戦を聞いたカトゥーは何を思ったか、俺の手を引き街を連れ回す。
女性化のせいでカトゥーより身体が小さくなっていた。このおかげで、かなり強引に引っ張り回されることになりそうだ。
「今度はどこ行くんだよ?」
「古着屋さんだよ。せっかくだから、もっとかわいい服を着ようよ」
「そんなもん着せてどうしようってんだよ」
「かわいければかわいいほど、転移者の目に留まる確率が上がるよ」
そりゃ、この都市だけでも数万人は住んでそうだからな。たしかにカトゥーの意見も間違っちゃいない……でも。
「目立ち過ぎると行動しづらいぞ」
「けど、マキくんの作戦には必要なことじゃない?」
「そうだけどさ。いつもはやる気無いクセに、今日はどうしてそんなにノリノリなんだよ」
実際、カトゥーの顔は嬉しそうに笑みを浮かべている。いつものようなやる気のない無表情な顔ではない。
「うーん……なんか楽しいから?」
「おまえが楽しいのかよ!」
俺はもう降参することにした。後はカトゥーにされるがままに身体を任せる。
そして何件か商店を周り、宿屋で品物が届くのを待つ。何日か様子を見て、ようやく頼んでおいた服やら装飾品が届いた。
買ってきた古着のドレスをカトゥーが一手間かけて直した後、俺は着せられる。そして、出来上がったのが極上のロリ美少女。
貴族の子女が着るような煌びやかなドレスを、カトゥーが古着で仕入れてそれを仕立て直すという荒技をやってのけていた。
裁縫とか得意だったんだな、こいつ。
「で、なんで仕立て直してたんだ? サイズは合ってるならそのまま着ればいいんじゃないのか?」
「そのまま着ても目立たないよ。だって、周りの美少女たちと差別化を図らないとね」
「差別化ねぇ……」
「あとは、転移者の目に留まるってのがミソだよ。美少女ハーレムを作りたくなるくらいだから、相当なアレな人だと思うし」
「アレってなんだよ?」
「いわゆるオタク人。そう、童貞を殺すくらいの服にしないと食いつかないでしょ? 服装は転移者の世界のものに合わせた方がいいんだよ。いわゆるロリータ服ってやつ?」
今、俺が着てるのはモノトーンのドレスにフリルとリボンがたくさん付けられているものだ。
「はい、このぬいぐるみも持って」
手渡されたのはクマのぬいぐるみ。典型的なロリ少女の完成だ。
「あざとすぎないか?」
「餌はなるべく目立つ方がいいんだよ」
カトゥーにしては、めずらしいくらいに頭が回って仕事もしている。
「それもそうか」
「今のマキくん、超かわいいから、絶対モリさんも食い付くよ」
俺としてはその表現に複雑な気分となっていく。ブサイクなオタクがブヒブヒ言いながら、俺を視姦しながら近づいてくるのか……恐ろしや。
**
作戦は単純だ。まず、俺は睡眠薬を飲んで眠る。
眠った俺をモリヨシヒトが訪れそうな場所にカトゥーが移動して寝かしておくのだ。ただ、これだけのこと。
題して「お人形作戦」。
なんと言っても今まで以上にヤバイ。何がヤバイかというと、俺はほとんど何もしないからだ。
手抜きとか、卑劣とか、散々に後ろ指さされるようなことをやってきた俺だが、今回ばかりは下手をすれば「マキくん、全然仕事してないよね」とか嫌味を言われそうである。しかも、それは事実なのだ。言い訳の余地すらない。
今までは手抜きだろうが、卑劣だろうが、手を止めることはなかったというのに……。
というわけで眠りから覚めたら、俺の右手に握られたモラルタが相手の胸を刺していた。
瞬間転移したら終了ってのは前回だったっけ? 今回は寝て起きたら終了か。
「まだ眠いな」
倒れた男の身体は徐々に粒子化していく。それでも恨みがましく俺を見上げ「どうして俺がやられたんだ?」とでも言いたげな顔をしている。
仕方が無い、種明かしでもしてやるか。
「おまえは人の考えが読めるんだよな。だったら簡単だ。眠っている間におまえを刺せばいい」
男は何か言いたげに口をパクパクとさせるが、それは声にはならなかった。俺は続けて言う。
「正確にはおまえを刺したのは、俺ではない。俺は魔法で操られただけだ。そもそも美少女が寝てるからと不用心に近づいたおまえが悪いんだぞ」
俺はただ寝るだけ。そして近づいてきた転移者を、遠くからカトゥーが【Marionette】の魔法で俺の身体を操ってモラルタを刺すだけ。
今回に至っては俺はまったく仕事をしていない。責められても文句は言えないだろう。
「マキくん、マキくん。そんな風に説明しなくても、この男の人って心を読めるんだよ。マキくんが起きた時点で、理解したんじゃないかなぁ」
そういやそうだな。男が「どうして?」という顔をしていたのは、俺の勘違いである。
まあいいや。
トドメとして脳天にモラルタをぶっ刺す。と、男を中心に軽い振動波のようなものが広がっていき、街のあちらこちらから歓喜の声が聞こえてくる。それは男たちの野太い声であった。
俺も自分の手を確認する。ごつごつした男の手だ。奴のチート能力も解除されたか。
服装もドレスから……変わってねえぞ!
「あ、マキくん。変態さんだね」
カトゥーが冷めた口調でそう言った。俺は男の姿に戻ったが、服だけはドレスのままだった。しかもサイズが小さいからピチピチだ。
「ぅぉおおい! 魔法解けてねえじゃないか!」
「いやいや、だってその服。経費で買って仕立て直した服だよ。もともとマキくんが来てた服は宿屋に置いてあるって」
あ……そうだった。ということは、この姿で宿屋まで戻らないといけないのか?
**
「さて、お次はどこへ転移するんだ?」
カトゥーにそう質問する。といっても、答えを期待しているわけではない。単なる話の流れだ。
「よくある異世界だよ」
「ああ、よくある中世風のファンタジー世界か。しかしまあ、どんだけ多いんだよ」
単なる感想。それにどんな意味があるかを求めてはいない。
「なにが?」
はぐらかすように、カトゥーが小首を傾げる。
「その中世風のファンタジー世界が」
「仕方ないんじゃない?」
興味なさげなカトゥーの顔。まるで答えを知っているかのように。
「なにが?」
「なんだろうね?」
カトゥーは作り笑いで誤魔化す。質問に質問で答えやがった。こういう時は意地でも本当のことは言わないだろう。
まあ、俺も答えなんか期待しちゃいない。
「……」
「行くよ!」
強制的に暗転。
▼Fragment Cinema Start
スクリーンに映し出されるのは白い部屋。
そこは、少し前に見た、あのドーム状の屋根がある場所のさらに奥に存在した。
部屋の中はもとはガランとした十平米ほどの倉庫だ。そこに何十体もの人形が乱雑に積まれている。
全ては白銀の髪の少女の姿をした人形だった。
「そこに用はないわ」
部屋の入り口から女性の声がする。振り返ると、ピエロのようなヴェネツィアマスク付けた女性がこちらを向いていた。顔は見えないが、腰まである髪は金糸のように細くキラキラと輝いていて印象的である。
「彼女たちは廃棄されるのか?」
これはカメラ視点の声。すなわち俺の声か。
「ええ、魂の宿らない人形に用はないの」
少し悲しみを帯びた彼女の声。
「なぜ、あなたは作り続けるのですか?」
「それは、私の呪いのようなものだから」
「呪い?」
「ええ、#$%にかけられた呪いなのだから」
音声の一部が聞こえない。修復したんじゃないのかよ!?
部屋から出ると、あの双子の片割れがいた。けど、その髪の色は白銀ではなく――。
意識が強制的にブラックアウトする。
▲
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