第23話 転移者のバトルロイヤル(1)
次の瞬間、俺の視界に入ったのは荒野。
そして振り返ると、そこには街があった。といっても、今回は中世風ファンタジー異世界ではないようだ。
「西部劇の世界みたいだね」
カトゥーの口から、そんな感想が自然と漏れてくる。
目の前の建物は、煉瓦ではなく木造建築。と言っても和風ではなく、西洋風のものだ。
街の入り口にはアーチ状の看板があり『ボディ』と書いてある。もちろん、現地の文字であり英語ではない。
「で、今回の依頼は? というか、ターゲットは?」
その問いに、強制的に頭の中に映像が流れ込んできた。しかも、今回は一つじゃない。十もの画像が脳内で開かれていく。
「ぅおおい! 多すぎだろ。どうなってるんだよ」
「えっとね。今回、この世界には十一人の転移者が送り込まれたみたい。ただし、
つまり生き残りを賭けた戦いか。よくある設定ではあるかな。
「なるほど、その十一人で殺し合いか。最後の一人になったところで、そいつを始末すればいいんだな?」
俺としてはその方が楽だ。わざわざデスゲームに参加する必然性などないのだから。
「違うよ。ターゲットは十人なの。転移者の一人は生存させなければならないってのが
「めんどいな。じゃあ、その一人を護衛しつつ、攻撃されたら倒していけばいいのか?」
まさか、ここに来て護衛任務が入るとは。
「基本的にはそうだけど、転移者によっては時間がない場合があるの」
「どういうことだ?」
「早熟型の転移者が二人」
「ソウジュクガタ?」
「レベルが低いうちから強力な魔法や能力を使えるようになるタイプだよ」
頭の中でOSのウインドウが開くように二人の画像が示される。一人はノダマサキと名前が表示され、茶髪でロン毛の二十代くらいのやせ形の男だ。
カトゥーは続けて説明を行った。
「ノダマサキさんは虫使い。現地、この世界の虫を使って攻撃するんだけど、ある一定のレベルを超えると制御が不能になるの。さらに虫の身体を強化するスキルを持っているから、それが暴走すると、人類はそれに食い尽くされて滅ぼされる。百年後には、この星の支配権は虫たちが握っていることになるよ」
SFかよ! とツッコミを入れたくなるが、そんな未来は想像するだけで恐ろしい。
「ひぇー、こえーな。というか、あんまりこいつと戦いたくないぞ」
虫というだけで背筋がぞぞっとする。
「次にミキモトショウイチさん」
脳内に映し出されたミキモトショウイチは四十代くらいのおっさん。少し小太りで眼鏡をかけていて、人の良さそうな顔をしている。苦労しているのだろうか、髪の毛は薄くなりつつあった。たぶん結婚していて、子供でもいそうな標準的なおっさんだ。
「彼は強力な精神攻撃で相手を廃人と化すの。しかも、それは一対一じゃない。爆弾に近いかたちで、一度に数人レベルで攻撃できるの」
「数人? なら、それほど脅威でもないんじゃね?」
「レベルが低いうちはね。レベルが上がれば数十人、数百人、数千人、数万人って一度に攻撃できるようになるの」
「なるほど、だからレベルの低いうち始末しとかなきゃならないんだ」
数万人レベルになると、人類を滅ぼすのも簡単だからな。
「そのほかは晩成型だから、レベル百になるまで脅威じゃないの」
「レベル百なんてあっという間だろ?」
「この世界の場合、数値的にはレベル九十九の相手を百人倒さなければならないよ。まあ、低レベルでもコツコツと倒していけばそのうちレベル百に到達するけどね」
「だから、急ぎはしないが放置してはおけないのか」
「そういうこと」
「よし、二人以外は後回しにするとして、あと一人の保護しなきゃいけないって転移者は?」
「ハウタスミカさん」
頭の中に映し出される画像には、十代の女の子が映し出される。黒髪のロングで、物静かな文学少女っぽくもあるが、将来的には毒舌を吐いたり下ネタを平気で言いそうな予感はあった。
「女の子なんて珍しいな」
「女性ならもう一人いるよ。まあ、それはあとで説明するね。この子は将来的に起きる国家間の戦争を止める鍵になるの」
「戦争? それくらいのことで
「その戦争は千年続くと言われているの。しかも人的資源も鉱物資源も枯渇するまで止めることはない」
よくわからないな。人間同士の小競り合いに
「それでも、ただの戦争だろ? 惑星規模ではそんなに影響ないんじゃないのか?」
「終盤ではどちらも究極の魔法兵器を作り出すの。それは将来的に致命的な爪痕をこの惑星へと残す事になる」
核兵器と似たようなものか。魔法がある文化でも、それなりの危険性を孕んでいるともいえる。
「なるほどな。もしかして、その魔法兵器の開発を止める鍵にもなるのか? その子は」
「その通りだよ。だからこそ彼女はこの世界に必要なの。こんな馬鹿げたデスゲームで死なせるわけにはいかないの」
「彼女の能力はなんだ?」
「念じたものを探し出せる能力」
「念じたもの?」
「例えば特定の人物を探したければその位置が即座に判るの。鉱物資源とか遺跡とかでも。パッシブスキルじゃなくて、魔法力を消費するスキルだからレーダーみたいな使い方はできないけどね」
「あんまり戦闘に役立たない能力だな」
「まあ、使い方によるかな」
「使い方?」
「今回なら同じ転移者の位置を割り出すことができる。いくらでも逃げ回ることは可能だよ」
「なるほどね。で、そのことを彼女は知っているのか?」
「そのこと?」
「デスゲームが行われていて、対戦相手の転移者が誰だかってこと」
「デスゲームのことは知ってるかも知れないけど、相手の顔はわからないかもね」
いちおう転移者は服装で区別つきそうだが、現地人の服に着替えているとわからないだろう。
「まずいだろ。ただでさえ戦闘能力がない女の子で、チート能力すら戦闘特化じゃない。常に転移者の位置を表示させられないんだろ? そんな状態で相手が転移者と知らずに接触したら」
「そうだね。けど、
「で、俺たちはどこにいるんだ?」
「たぶん、そこの街にいるのがスミカさんだと思う」
**
見つけるのは簡単だった。
街の隅にある岩場に座り込んで途方にくれている少女がいた。
「ハウタスミカさん?」
「え?」
自分の名前をなぜ知っているんだ? というような驚いた顔で俺を見上げる少女。
髪は黒髪ストレート。烏の濡れ羽色と表現するのが相応しいほど見惚れる艶やかさだ。少し長めの睫毛に、やや鋭い目尻。ただ、その目尻も困惑しているようで垂れ下がりつつあった。
「怪しい者じゃない。デスゲームのことは知っているか?」
「あなた、私を殺しに来たの?」
ビクリと身体が動き、途端に警戒するように表情が硬くなる。
「待て、味方だよ。俺はデスゲームには参加してない」
「本当なの? 私を騙して不意打ちをする気じゃないの?」
俺は両手を上げて、敵対する気はない事を示し笑顔で答える。
「不意打ちするなら、話しかけたりなんかしないって。それに俺がデスゲームに参加していないかどうかはキミの能力で確認できる」
「能力?」
「キミは異世界へと転移してきたんだろ? 特化したスキルを持っているはずだ」
「異世界? あ、そうか」
「念じてごらん。『デスゲーム参加者の位置』って」
「へ?」
「念じるだけならタダだからさ」
俺の言葉に半ば疑いの目を持ちながらも、少女は目を瞑って何かを独り言のように呟く。
「あ!」
少女が声を上げる。
「見えたか?」
「うん。この世界の地図みたいなのが広がって、そこに赤い点が示されていた。私がいるのは『ボディ』って街ね」
「そう。使いこなせるじゃん」
「あなたは何者?」
「名前はマキトウヤだ」
「どんな字を書くの?」
「ん? マキは真実の真に木材の木で、トウは果物の桃にヤは弓矢の矢だよ」
「桃を名前に使うなんて変わってるね」
「ほっとけや」
「でも私、桃って大好きだよ」
「それはどうも」
「ね、どうして私にこんなことを教えてくれるの?」
「そりゃ、今回のデスゲームでキミを死なすわけにはいかないから」
「味方してくれるの?」
「まあな」
「よかったぁ……私、ホント困ってたのよ。ありがとう、モモヤくん」
年下っぽい子から「くん」付けで呼ばれるのは抵抗ないが、俺の名前はトウヤなんだけどなぁ、と困惑した顔でいると、目の前のスミカが続けてこう言う。
「わかってるわ。トウヤってのが正しい読みなんでしょ? でも、モモヤの方が私好きだな。私のことはスミカでいいよ」
なんだか主導権を彼女に握られているような気がする。
「まあ、呼び方なんてなんでもいいよ。とりあえず詳しい話はどこか店に入って話そう。飲み物くらいならおごるよ」
「ありがとう。ところで、モモヤくんの隣の笑顔が引きつった感じの人は誰なの?」
やべっ! カトゥーのことすっかり忘れてた。
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