第24話 転移者のバトルロイヤル(2)
「まず、さっきの『デスゲーム参加者の位置』の能力を使って、ミキモトショウイチとノダマサキの位置を教えて欲しいんだ」
「うん、わかった。ちょっと待ってて」
俺たちの自己紹介や役割を一通りの説明をした後、彼女には最優先で処理しなければならない二人の位置を調べてもらうことにした。
カトゥーが相手の頭に映像を送る能力は、俺だけに限定されたものではないらしい。なので、説明はかなり楽になった。
「ミキモトショウイチさんは、ここから北へ四十五キロほど離れた場所にいるよ。街の名前は『サンティエゴ』かな。ノダマサキさんは西へ五十キロほどの森の中にいる。あれ?」
スミカが焦ったような声を出す。
「どうした?」
「さっきまで南の方にいたタテヤマエイジさんがこっちに移動してきている?」
「まあ、デスゲームだからな。敵を探して攻撃を仕掛けるのは基本だ」
「でも、さっき見た時は百キロは離れてたんだよ。もう、あと数百メートル近くまで来ているの!」
その時、頭上から獣の咆吼のような鳴き声が聞こえてくる。急いで酒場の外に出ると上空を赤い物体が飛んでいた。
赤い竜? いや、あの羽の形状はワイバーンか。とすると、あれにタテヤマエイジが乗っていると考えた方がいいな。
「移動するぞ」
スミカの右手を掴んで走りだそうとしたところで、目の前にワイバーンが急降下してくる。
「ハハハハハ、見つけたぞ!」
竜から飛び降りてくる短髪の背の小さな(俺より頭一つ小さいか)男。やはりタテヤマエイジのようだ。年齢は十六才とデータにあるが、見た目通りの少年だった。
「おまえがこのデスゲームの参加者だな」
スミカを庇うように前にいる俺を、タテヤマエイジはデスゲームの参加者だと勘違いしたようだ。
「そうだ。なぜ俺が転移者だとわかった?」
念のため演技をして情報を引き出すことにする。勘違いしてくれたほうが都合がいい。
「おまえのその格好はこの世界から少し浮いている。それから、その顔立ち。この世界はほとんど白人のようだから、俺たちのような黄色人種は目立つんだよ」
何か能力的なものを使って見つけたわけじゃないのか。ならば、それほど脅威でもない。
「なるほど、目はいいんだな」
「俺と言うよりはこいつだがな」
ワイバーンの首を撫でながら何か呪文を唱えるとそれは消え、男の前方に三メートルはあるゴーレムが現れた。
男の能力は召喚魔法だ。レベルが低いうちは大したことない。というか、召喚されたものはこの世界のものでないのだから、俺にとっても高レベルであろうが雑魚以下の敵だ。
厄介なのはこいつがレベル100に達したときである。最強のデーモン軍団が召喚されるということ。
6666のデーモンからなる部隊が666集まり中隊となり、それが66集まった師団が6つ現れる。つまり合計1758064176の悪魔がこの地上に召喚されることになるのだ。
この数字に何の意味があるかは、考えたくなかった。まあ、考えても結果は変わらないからな。
最凶軍団を召喚したところで、男の能力では制御できず、暴走した後はデーモンたちが地上を支配することになる。
モラルタがあるとはいえ、そんなことになったら面倒極まりない。
ちなみにレベル100になるには、レベル99の敵を100体は倒さないとレベルアップできないほど経験値が必要だ。もちろん、それ以下の敵でも微々たる経験値が手に入るので、地道に稼いでいけばいずれ100に達する。男を放置できない理由はそれだ。
というわけで、この男は優先順位が低いはずだったが、面倒なことに目の前にいるので全力ですばやく片付けて、早いところ最優先の二人を倒さなければならない。
まずは正面から突っ込んでゴーレムにモラルタを刺し、崩壊が始まった所でそこを突破し、背後にいるタテヤマエイジを貫くだけ。
「う、バカな……」
まさか、ゴーレムの真ん中を突っ切って攻撃してくるとは思わなかったのだろう。自分の胸に刺さった剣を見つめながら、信じられないような顔をする。
そしてすぐに崩壊が始まった。
「私を助けてくれたのね。ありがとうモモヤくん」
腕に抱きついてくるスミカ。今回は忙しいからあまりゆっくりしている時間はないんだけどな。
そういや、カトゥーはどこいった?
「終わった?」
欠伸をしながらカトゥーがこちらに来る。なんだか、これだけやる気のないカトゥーを見るのも久しぶりな気がする。
「終わった終わった。次行くぞ。北のサンティエゴだ」
「えー、わたしここで寝てていいかな。今回はマキくんに付いてなくてもいいでしょ?」
「いやいや、アンカーポイントの作成とか、いろいろやってもらうことあるからさ」
仕方なくカトゥーの手をとって歩かせる。右にはスミカ。左にはカトゥー。両手に花なんだけど、なんだかイマイチテンションがあがらない。
**
夜になるとその街に一件しかない酒場は、たいそう賑わうということだった。
それもそのはずだ。その街に住む男のほとんどが、そこに金を落とす。小さい街なので当たり前のことだった。
だがその日は、そんなありふれた日常が街の致命傷となる。
「たしかここだよなぁ」
ミキモトショウイチの情報を集めるために酒場に立ち寄ろうと、入り口の扉に手をかけたところで異変に気付いた。
店の中から糞尿のような悪臭が漂ってくる。いちおう食事もできる店らしいのだが、これはどういうことだ?
「なにこの匂い」
スミカが鼻を押さえて顔を歪ませる。
「嫌な予感がする。おまえら、外で待ってろ」
カトゥーとスミカを入り口付近で待機させたまま、俺は中に入っていく。
店の中は薄暗いが、大勢の人影が見えた。だが、静かすぎる。今はまだ日が落ちたばかりだし、眠るような時刻でもないのだが……。
よく観察すると二十名以上の男が、床に寝転がっていた。死んでいるわけではない。呼吸するかのように腹部が上下したり、身体を微妙に動かしている者もいる。
寝ているのか?
「すみません。ちょっと人を探しているのですが」
声をかけてみるものの誰も反応しない。
男の一人に近づく。寝転がっているものは眠っていない。瞼は開いたままどこか一点をみつめているような感じだ。そして失禁していた。
他の男たちも同様だ。
店のほぼ真ん中にはテーブルに空の酒瓶をたくさん載せた席があり、一人の男が倚子に座っていびきをかきながら眠っている。四十過ぎのおっさんで、たしか記憶にある顔だ。
脳内の画像と照合し、ミキモトショウイチというおっさんだとわかる。
彼の能力はマインドクラッシャー。精神攻撃で相手を廃人にする。その規模はレベルに比例して一度に攻撃できる人数が上がっていく。今は数人だが、将来的には数百万、数千万単位まで上がっていく。
プロフィールだと優しそうだけど、酒癖悪くて能力を一般人に使ったっぽいな。しかも早熟タイプの経験値テーブルらしいから、早いところ始末しておかないとまずいことになる。
俺は躊躇せず眠っている男の脳天へとモラルタをぶっ刺した。任務終了。
といっても、めでたしめでたしではない。すでに周りは廃人だらけ。
命があるだけマシなのか、命があるだけ地獄なのか。
この街はもう終わりだ。残った女子供は、この土地を捨ててどこかに行くしかないだろう。そこまではフォローしてやれない。被害が最小限で済んだだけマシなのかもしれない。
「終わったよ」
外に出ると二人の少女が待っていてくれた。
「もう終わったの?」
腕にまとわりついてくるスミカ。そんな俺を冷めた目で見るカトゥー。別にいいんだけどね。
「次はノダマサキだ。今どこにいる?」
俺はスミカに問いかける。
「ちょっと待ってね……あ、前と同じ場所から動いてないよ」
「南西の森か。動いてないならちょうどいいな」
「森の中でレベルアップしてないといいけどね。彼のレベルが50に達した時点で能力がかなり強化されて、51で暴走するよ」
淡々と喋るカトゥー。やっぱこいつ、機嫌悪いんじゃね?
「じゃあ、急ごうか」
**
森の中は虫の巣窟だった。
入り口を数メートル入っただけで、子供くらいの大きさはある蚊とんぼに襲われ、やっと撃退したと思ったら、ヒグマほどの大きさがある蜘蛛が襲ってきた。その周辺には蜘蛛の糸でグルグル巻きにされた哺乳動物の死骸が転がっている。
「撤退!」
俺たちは尻尾を巻いて逃げ出した。いわゆる戦術的撤退だ。
「どうするの?」
カトゥーが訊いてくる。最近はこいつも一緒に考えてくれることもあったのに、今回のこの世界では冷たいな。いや、それがいつも通りでもあるのか。
「多少は考えてあるよ」
そう彼女に応えると、スミカの方を向き指示を出す。
「スミカ、この森を含めた周辺の地図って描けるか?」
「うん。ノダマサキさんの居場所を検索するのに頭の中に地図が出てきたから、それを書き写せばいいんだよね」
「そうだ。頼む」
俺は前もって『ボディ』の街で買った本を渡し、その見返し部分に地図を描いてもらうことにする。本当はスケッチブックが良かったのだが、紙が作られている文化レベルとはいえ、小さな街にはそのようなものは売ってなかった。というわけで、なるべく白紙の箇所が多い本を購入したのだ。
絵心がもともとあるのだろうか、器用に森とその周辺の地図を書き上げるスミカ。
「できた!」
完成した地図で、この周辺の地形がわかる。
西と南には切り立った崖があり、そこまでは木々が多い繁っている。北と東は崖の端から約二キロほどで大きな木々はなくなり、草原となっていた。
つまり半径一キロほどの森というわけか。これならば割と楽に作戦を組めるかもしれない。
「カトゥー。ファイヤーウォールの魔法があっただろ」
「あるけど、あれじゃ転移者を倒すことはできないよ」
「いいよ。着火剤として森に火が付けばそれでいい」
「何をする気?」
「ファイヤウォールで森を囲う。といっても、全部じゃなくていい。北と東側だけだ」
「逃げ道を無くすの?」
「いや、東側の南の崖との間に隙間をつくる。逃げ道は必要だろ?」
「ああ、なるほどねぇ。そこでノダマサキさんを待ち構えるわけだ」
「そういうこと、準備にかかってくれカトゥー」
「……」
カトゥーが黙り込む。そして彼女のテンションが下がっていくがわかった。次に言う台詞は予想がつく。
「メンドクサイ」
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