大童-おおわらわ-

 フェルディナン達が新参組織で、ボスの意識を明日以降のXエリアへの対処に向けさせている間に、当の住人達はといえば静かに着々と地下と地上とで入れ替わって行っていた。もう既に地上の中心部付近に住んでいる者達は全員が地下へ移り終わっており、街の外郭がいかく部に住んでいる非戦闘員も地下の空き部屋に移動し終わっている。現在は参戦希望を出している年老いた殺人鬼や殺しが趣味の子ども達、る気満々の大人達や少年少女しかいない。今は、Xエリアの中間部に住んでいる者達が入れ替わっている最中だ。今夜のXエリアは衣擦れの音と武器同士がぶつかる音で、ここ最近でかなり賑やかな日になっている。


「オイコラ、そこっ!手榴弾は専用ケースに入れて運べっ」


「あっ!そうだった!ありがとリアナ姉っ」


「全く……ぁ、オーイそっち!ロケットランチャーは1人5基までだ!」


「えー…マジかぁ、仕入れすぎたなぁ」


 リアナ率いる近距離戦へ出る者達は、他の分野より身軽な状態で地上へ出られる者が多いため、最後に各々出て行くことになっている。という事で、武器を持ってなお自由がきくリアナ達は、銃火器系と一緒に地上へ行く中距離型・遠距離型の移動をサポートする側に回されたのだが、これが近距離型の彼等が予想していた以上に大変だった。抜群の破壊力を誇る危険な武器の数々を慣れた様子で雑に運ぶ人間の多いこと多いこと、リアナ達がヒヤヒヤしながらそこかしこで注意を促す。中にはリヤカーに山盛りの特性兵器を積んで運ぶ者もおり、数人がかりで後ろから押して地上に出すことも何度あった事か、普段の仕事よりキツい役割を果たそうと汗を流しつつ彼等は頑張っていた。さらには中距離型の者達が運び出す武器の多さと重量ときたら、遠距離型の者達よりも遥かに大変だった、毒が塗られている武器や大量のマガジンや使い捨て用の銃やらを詰め込むだけ詰め込んで、触れたが最期死を招くほど致死性の高い物があまりにも多く、近距離型の者達は血の気が引いた面持ちで細心の注意を払ってゆっくりと移動をさせていく。ここまで来ると、このXエリアの地下は本当に要塞なのだと納得できる、ゲリラ戦に特化した者達が地上に出るごとに地上の穏やかさと地下の物騒な空気が反比例してゆく。そして、武器商人たちは地下から出ていく武器を全て帳簿に付けていた、自分たちが売った分の代金を後で請求書として送りつける為だ。


 街の中間部の住人達が移動を終えたのは午前3時頃だった、残るは街の外郭がいかくを作っている鉄格子より少し内側に近距離型の者たちが大移動をするだけだが、やり慣れない事を目いっぱい頑張ったリアナ達は、もうヘトヘトだ。ゴーチェとメリッサに関しては要塞の地下と地上の番人として地下に留まる為すでに交代で睡眠をとりながら、視覚聴覚・技術力を駆使して画面を見張っていた。近距離型の彼等は、やっと自分たちの荷物を早々とバッグやリュックに詰め込んで、睡眠をとる為にふらつきながら地上への大移動を始めた。2時間後、つまり早朝5時を過ぎてようやく全体の入れ替わりが済んだ。地上に出たリアナ達は作戦の都合上テントの下に穴を掘ってソコに鋼鉄製の箱を嵌め込むと、武器の類いを整理しながらビッシリと敷き詰めて布を被せ、やっと眠りに就けた。こうして、たったの一晩で地下と地上の治安が入れ替わった。こんな事は滅多にあることではない、今のXエリアは大移動で疲れ果てた者達がグッスリと眠り夜明けを迎える場所になった。


『こちらメリッサだよ〜、兄さんがた起きてるっ??』


「アーベル、起きろ」


「んー…おはー」


 朝っぱらからメリッサが話し掛けた先は、フェルディナン達の通信機。たったいま目を覚ましたアーベル以外はいつ通信が入っても良いように起きていた、1人ずつ睡眠をとることにしたのだ。ちょうど良いタイミングで、新参組織のボスと幹部が4人がいる部屋に入って来た。

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