闇夜の引越し

フェルディナン、マルティーノ、リベラトーレ、アーベルが調ととのえた舞台の上で深夜、静かに入れ替わり作戦が始まろうとしていた。入れ替わる順序は、昼間のうちに入った情報をゴーチェとメリッサからの渡され、それを踏まえて考えられた。そして、見られる可能性が高くなるだろうXエリアの鉄格子内側に近い場所で生活している者達から地下へと避難を始め、徐々に内側の人間が入れ替るようにする、ごく単純な答えを出したのだ。フェルディナン達4人は、ラッキーなことに事実とは少し違う内容を新参者の幹部達に報告している最中だった、鉄格子の下側に仕掛けられたC-4には触れもせず、小さな子どもの影が走り去る姿を無かったことにして、地上で暮らす年老いた殺人鬼がライフル銃のメンテナンスをしていたのを見たのも夢幻のように知らんぷりで通した。その頃メリッサとゴーチェは彼等4人が接触している幹部達の姿をジッと見つめていた、今朝、彼等4人が着たシャツの第1ボタンには極小の小型カメラが内蔵されていたのだ。


「いやぁ、マルティーノ達も大変だねぇコッチはコッチで忙しいけど、残って良かったよー」


「そーゆーの、薄情者ってゆーんでしょ?メリッサ聞いたことあるよ?」


「とんでもない!こうしてせわしなくお仕事してるんだから良いんだよー」


「ふーん、まぁいっか!」


「そうそう、気にしない気にしない」


画面の向こうで4人はキョトンとしていた、フェルディナンや最年長のマルティーノまでも、彼等はこの段階で真実を隠し虚偽を広めてあわよくば組織の動きを変えようとしていた。それが疑われたのかと一瞬動揺して小型カメラがユラッと揺れたが、自分達は同郷の者であぁいった場所には慣れているのだと説明を付け加えた。すると幹部達がボソボソと小声でやり取りをしたかと思えば、なんと部屋の奥から今まで姿を現さなかった組織のボスらしき人物が現れた。


「これから必要になる仕事をできる奴らだと聞いた。今後は、俺の直属で動いてもらう」


大抵の者は、ボスの目が届くところでルールを破る不正などできない、現状、この組織を叩き落とそうとしている彼等の足にかせを付けられたも同然なのだから、それでも動いて巧妙に枷を外してしまうのがフェルディナン達だという続きがここにはあるが。ボス曰く、この組織はまだまだ出来たてホヤホヤであるから連携が大事な仕事を任せられる人材が極端に少ない、その仕事をフェルディナン達に任せようというのだ。 幸運でしかない、4人は揃って礼をした──裏切りの笑みをたずさえて。ボスの居室で幹部達も含めて今後の計画をることになり、その場にいる全員で移動した。部屋に着いてすぐ最年少のアーベルが、此処がボスの部屋であることを知らせるためにほんの1mmにも満たない発信機を、その革靴の下目掛けて滑り込ませた。この発信機はエマが自社工場で開発したもので薄くて丈夫、踏むことで作動する変わった仕組みの機器だ、ミクロンサイズの便利グッズである。それと同時に通信機からメリッサの声が聞こえた─発信機作動確認、問題なし─


『これからソッチがエリア内に入ってくる時は妨害電波を飛ばすことになるから、バレる危険を考慮して通信はコチラからかけるね、その時はエリア内でだけ通信を可能にするからっ!あ、新参組織の方の電磁波はちゃんと邪魔するから安心して〜』


頼もしい仲間からの通信に自然と緊張がやわらぐ4人、これでXエリア側が圧倒的な優位に立ったことになる。


「まずお前達4人には、あのエリアの調査をして欲しい。聞いた情報では子どもと年寄りしかいないそうだ、あの辺りは地域全体が薄暗くてな、あそこを落とすには地図を手に入れる必要がある。敵がいないとも限らないからボロ布でも着て行くと良い」


正しい地図など書くわけがない、住人の報告も嘘をつく予定だ。街の中で敵と鉢合わせれば十中八九、Xエリアでの計画がとどこうりなく進められるよう計画実行のために殺すだろう、戦争当日に大混乱を起こすのが目的なのだから。それだけ、陥れることが大事な作戦なのだ。

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