027――虐殺器官(アニメ映画)
あらすじ
サラエボでの核爆弾テロによって世界中で戦争・テロが激化し、アメリカをはじめとする先進諸国は厳格な個人情報管理体制を構築してテロの脅威に対抗していた。
アメリカ情報軍に所属するクラヴィス・シェパード大尉は、後進国で虐殺を扇動しているとされるアメリカ人ジョン・ポールの暗殺を命令され、相棒のウィリアムズら特殊検索群i分遣隊と共にジョン・ポールの目撃情報のあるチェコのプラハに潜入する。プラハに潜入したクラヴィスは、ジョン・ポールと交際関係にあったルツィア・シュクロウポヴァの監視を行うが、交流を重ねていくうちに次第に彼女に好意を抱くようになる。
概要
夭折の作家、伊藤計畫が残した作品の劇場アニメーション。
監督・脚本は、以前紹介した『ブレードランナー ブラックアウト2022』でキャラクターデザイン・作画監督を務めた村瀬修功。
制作は倒産したマングローブ社から制作を引き継ぎ、その後『刻刻』や『ゴールデンカムイ』の制作に携わったジェノスタジオが担当する。
当初の2015年10月公開との発表から二度の延期と制作会社の倒産を経て、2017年2月3日に公開された本作。
映画は公開された初日に見に行って、『75作品、感想述べてみた。』のほうで感想を述べましたし、もちろん原作小説のほうも読みこんで、表現訓練のために二年かけて丸々本編を書き写したりしたので、個人的にも非常に思い入れのある作品です。
さて、そんな本作をはじめて三幕構成で分解してみたわけですが、『75作品、感想述べてみた。』のほうでも似たようなことを述べていますが、原作から比べると非常に見やすい作品になっています。
映画の枠に収まるよう原作から一部設定やシーンを改変しつつも、核となる部分から遠いエピソードなどを徹底的に削ぎ落として、「言葉」や「意識」といったモチーフをSFミリタリーで包みこんでいます。
前回見たときはあくまで直感的にしか理解していませんでしたが、こうして三幕に分解してみると、本当にクラヴィス、ルツィア、ジョンの三者の中で、モチーフである「言葉」や「意識」といったものに対するやり取りが物語展開も経て行なわれていることが如実に読み取れます。
もちろん原作が悪いとかそういう訳ではなく、クラヴィスのバックグラウンドなど原作では原作なりの良さがあります。今回は映画と小説という媒体の違いと尺の問題を受けながらもしっかりとそれぞれの良さを生かした棲み分けが行なわれていると思いました。
それゆえに、過去の自分も今作は原作知っている人からみても非常に評価の高い作品だと直感的にわかったのでしょう。
また新たに今作を改めてみて思ったのは、言葉もまた芸術であるという点です。
普通、SF系の映画は設定や世界観語りで観客が飽き飽きしてしまうこともあるのですが、今作ではそれがあまり感じられません。
もちろん原作をすでに読んで、一度観ているからというのもあるのでしょうが、声優さんの演技力も相まって、まるで主人公であるクラヴィスやジョンのやり取りが「人間ってなんだろうね?」と観客にも向けられているかのように身近に感じられるものでした。
残念ながらこれだけ魅力的な原作を手掛けた伊藤計劃はすでにこの世にはいません。ですが、そのミームはこうやって様々な媒体で生きていくんでしょう。
彼に影響を受けた一人として、それは素晴らしいことだし自分もそうしたミームを引き継ぐ一人になることができていたらいいなと思いました。
ストーリーライン
フェーズ1
・2015年、ジョン・ポールがルツィア・シュクロウポヴァとの不倫中にサラエボでの核爆発を知る
・2022年、クラヴィス・シェパードがジョンに関する事件を告発する
・2020年、クラヴィスたちi分遣隊がグルジアに潜入し、とあるアメリカ人を暗殺しようとするが逃げられてしまう
・クラヴィスが作戦中に錯乱したアレックスを射殺し、他の仲間と共に撤退する
・グルジアでの作戦から三週間後、アメリカの街を歩くクラヴィスによる世界説明
・家でウィリアムズとピザを食べていたクラヴィスにペンタゴンへの招集がかかる
第1プロットポイント
・ペンタゴンに到着したクラヴィスたちが新たな任務――ジョン追跡のために、潜伏している思われるチェコへ向かい、ルツィアの元に現れるのを待つよう指示される
フェーズ2
・調査の中でクラヴィスがジョンが2015年でサラエボの核爆発で妻子を失い、当時学生だったルツィアと不倫していたことを知る
・チェコにやってきたクラヴィスが偽名でルツィアに接触する
・クラヴィスがカフカの話から展開してルツィアからジョンの話を聞き出す
・クラヴィスがつけてきた男を捕らえ、網膜と指紋のデータを取るがまったく別の人物のデータがヒットする
・クラヴィスがルツィアと共にカフカの墓を訪れた際にルツィアがジョンに妻子がいること知りながら不倫していたことを知る
・クラヴィスがルツィアの案内で彼女の知り合いであるルーシャスの店に案内され、彼と自由に対する言葉を交わす
・ルーシャスの店からの帰り道、ルツィアがサラエボで核爆発があった時のことをクラヴィスに話す
・クラヴィスがルツィア話を聞いた直後、謎の追跡者に追われて捕らえられる
・捕らえられたクラヴィスがジョン・ポールと話し、言語研究の中で虐殺の文法があることに気付いたと聞かされる
・クラヴィスの前にルーシャスが現れ、自分たちが「計数されざる者」だと告げられ、監視社会は虐殺の抑制には効果がないとも告げられるが、直後、クラヴィスを追ってきたウィリアムズたちに助けられる
・クラヴィスが上官のロックウェルからジョン逮捕の指示を受ける
・クラヴィスたちi分遣隊がジョン逮捕のためにインドでの作戦を開始する
・クラヴィスがジョンを確保し、ヘリでの帰還中に彼の言葉から射殺したアレックスの行動が虐殺の文法を受けたものであると理解する
第2プロットポイント
・クラヴィスたちの乗るヘリが別のヘリに襲撃され、i分遣隊のメンバーの大半を失い、逮捕者は殺害。ジョンも奪われる
フェーズ3
・アメリカに戻ったクラヴィスから事件後の顛末が語られる
・クラヴィスたちがジョンを追ってヴィクトリア湖に向かい、彼らを見つけた経緯が語られる
・クラヴィスがジョンと再会し、言葉を交わす虐殺の文法が食料不足に対する適応だったことを聞き、直後ルツィアがその場に現れる
・ジョンが自身が愛する者ために虐殺の文法をばら撒いていたことを明かす
・クラヴィスがルツィアからジョンを逮捕し、裁判にかけることを望んだが直後、ルツィアがウィリアムズに射殺される
・クラヴィスがウィリアムズと対立し、ジョンと共に逃亡する
・クラヴィスがジョンと話し、ルツィアの望みを叶えたいがアメリカ社会がそれを許さないことを悟ったジョンの頼みを受けて、彼を射殺する
・クラヴィスがアメリカに帰還後、ジョンから受け取った虐殺の文法を生成するエディターを使い、英語での虐殺の文法を生成し、2022年の告発文章で使用する
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