017――Hollow Vision(小説)

あらすじ

 二一〇四年。静止軌道をめぐるリーチュー軌道ステーションにて、国際人工知能機構――IAIAのエージェントであるヘンリー・ウォレスは工場から持ち出され密輸入されるはずだった高度コンピュータの回収任務に当たっていた。しかし、回収直前に衣服に加工された液体コンピュータは宇宙海賊によって持ち去られてしまう。捜査を進めていく中でヘンリーは海賊と関わりのあると思われる小惑星捕獲船団の経営者であり人体の全てを機械化したオーバーマン、トラン・フィッシャーの元を訪れる。




概要

 奪われた高度コンピュータをめぐるエージェントと海賊の争い。

 著者は2001年に『戦略拠点32098 楽園』で第6回スニーカー大賞金賞受賞した長谷敏司。


 今作はハヤカワ文庫から発売されている「My Humanity」に収録された短編作品でアニメ化もされた「BEATLESS」と同じ世界観を共有しています。


 スピンオフ元である「BEATLESS」も読んでいましたが、ここでは「BEATLESS」では強調されていた人とモノの関係性を人とモノである他律型アンドロイド――hIEを使って描いていましたが、今回は人と元は人だったモノという要素を使って別角度から描いていました。

 しかし完全に「BEATLESS」と切り離されているわけではなく、幻想的でファンタジーのような印象を受けるステーションでのファッションショーは「BEATLESS」とのリンクを感じさせます。


 またタバコのように吸引し肺で活性化する霧状コンピュータや「ソラリス」を思わせる莫大な液体コンピュータの集まりである超高度AIなど、「BEATLESS」では登場しなかったガジェットが登場し、そういったものも読んでいて非常に印象に残りました。


 ですが、個人的思ったのが表現が難しいということです。無重力空間で着崩れを起こさないよう開発された宇宙用のスーツやステーションの様子など、今の現実世界にはないものが序盤から登場するのでなかなかイメージしにくい部分がありました。


 しかし、状況説明であるフェーズ1から事件が起こるPP1への流れは話の流れをあまり意識させず滑らかに移行していったので、違和感なく読むことができました。




ストーリーライン

フェーズ1

・リーチュー軌道ステーションにてヘンリーがシャンシーと会う

・シャンシーが人間ではなく、hIEであることが明かされる

・同ステーションにて液状ドレスを着たモデルの女性がさらわれる


第1プロットポイント

・ヘンリーがIAIAのエージェントであり、工場から持ち出された液体コンピュータ回収の任を受けていたことが明かされる


フェーズ2

・ヘンリーとシャンシーが液体コンピュータ回収のために行動し、宇宙空間に放り出されたモデルの女性を救出するものの液体コンピュータは持ち出されてしまう

・事件が高度コンピュータ拡散に関わるIAIA事案として認定され、事件が宇宙海賊によって起こされたものだということが明らかになる

・三週間後、ヘンリーが地球とラグランジュ地帯の航路を中継するバリー中継ステーションにて小惑星捕獲船団の経営者であり、全身機械化を行ったトラン・フィッシャーに会う

・トランが自ら宇宙海賊であることを明かしてヘンリーを抹殺しようとするが、彼の事前工作によって失敗し、ネットワークへの逃げ道とバックアップのデータを失う

・IAIAの超高度AI〈アストライア〉の警告を発端にしてバリー中継ステーションとトラン・フィッシャーへの攻撃が実行される

・中継ステーションとトランへの攻撃を伝えられたヘンリーがトランのボディを焼き払うが自身も致命傷を受ける


第2プロットポイント

・トランの攻撃に倒れたヘンリーが偽物のインターフェースで本物は中継ステーションの宇宙港の宇宙艇から遠隔操作していたことが明かされる


フェーズ3

・ヘンリーとシャンシーが海賊の仲間とそうでない船を見分け、海賊艇だけを残し、宇宙港を脱出する

・バリー中継ステーションが巨大な布に包み込まれる光景をヘンリーが宇宙艇から見つめる

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