第40話 ローラン

 ローランは来た時と同じように砂塵の吹き荒ぶ荒野を歩いていた。

 都市は既に遠く背後にある。仕事を全うし、その分の報酬を貰い、可能な限りの義理も果たした。振り返るような真似はしなかった。

 金はある。馬車を雇って悠々と次の街に向かっても山ほどの釣りが返ってくるほどの。しかし、今はそんな気分にはなれなかった。

 ローランは天に向かって長く息を吐いた。

 太陽が歪んでいる。そこから伸びる光の筋が目に突き刺さる。雲はひとつもない。非の打ち所がないほどの晴れやかさだった。

 肩に担いでいる皮袋がやけに重かった。そこには、体を張った見返りとして貰ってきた金が詰まっている。

 手は尽くした。数々の死体を発見し、終いには正当防衛とはいえ人を殺してしまった手前、後ろ盾であるジャックが街を離れるとあってはこれ以上に留まることはできなかった。

 それでも未練は誤魔化せない。

 やがてどんどん重くなる荷物に耐えきれなくなったローランは、皮袋に手を入れ、中の金をばら撒いた。砂埃に食わせ、大地の亀裂に注ぎ込んだ。最後に残った皮袋を放り捨ててようやく、ふらついていた足元が真っ直ぐ歩けるようにまでなった。

 連れ出してやろうか──そう考えなかったわけではない。やはり踏み切ることはできなかった。誰にでも流儀がある。他人ではそれに触れることすらできない。あの男が変えないのであれば、ローランにできることは何も無かった。

 強い風が吹く。フードを引き下げて砂から目を守る。前方に、ひときわ大きな砂嵐が迫ってきていた。

 うねり、舞い上がる赤褐色の塊が、地上の全てを残らず攫おうと猛り狂っている。まるで壁か巨人のように見えるそれは、地表を這い回るちっぽけな自分と比べて、いかにも大した存在であるかのように思えた。

 ローランは十字を切り、敬虔な神官のように祈った。ジャックの前途を。エミールの魂の平穏を。

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